株式会社ロッテはアル株式会社と共同で生成AIサービス「ビックリマンAIグッズメーカー」を開発し、2026年7月29日12時より提供を開始する。ユーザーが顔写真をアップロードすると、生成AIがビックリマンの世界観に沿ったオリジナルキャラクター画像を生成し、名刺やグッズを注文できる。
名刺は200枚7,700円、300枚11,500円、400枚15,400円で1日200セットまで、Tシャツ4,980円、アクリルキーホルダー1,980円、アクリルコースター1,980円、ACアダプター4,980円、ヘッド確約プラン64,409円を用意する。デザインは6種類。名刺購入者の約30人に1人にキラキラ名刺30枚を同梱する。販売サイトは https://bikkuriman.ai/ 。前回の「ビックリマンAI名刺メーカー」は2025年12月に40日間展開し、1日400セットが平均4〜5分で完売した。
【編集部解説】
「顔写真をアップすると、生成AIが自分だけのビックリマン風キャラクターをつくる」——この一文だけを聞くと、ありふれた画像生成の遊びに思えるかもしれません。ですが、innovaTopiaがこの企画に注目する理由は、遊びの中身ではなく、「40年続くIPを持つ大企業が、生成AIを“商品”として正面から売る」という事実そのものにあります。
まず押さえておきたいのは、前作の熱量です。2025年12月16日から2026年1月25日までの40日間限定で提供された「ビックリマンAI名刺メーカー」は、1日400セットの枠が正午の販売開始から平均4〜5分で完売する日が続いたと、ロッテとアルが公表しています。前作の名刺は100枚4,400円という、決して安くない価格でした。
この「4〜5分で完売」という数字は、単なるノスタルジー消費だけでは説明しにくいものです。もっとも、購入理由を切り分けた調査があるわけではなく、懐かしさ・希少性・公式IPであること・SNSでの話題性など、複数の動機が重なった結果と見るのが妥当でしょう。それでも、生成AIによる“自分がキャラクターになる”体験に人がお金を払ったという事実は残り、前作は「公式が使う生成AI」の一例として話題を集めました。
今回の第2弾で起きている進化は、大きく2つの方向に整理できると編集部は見ています。
ひとつは、「アウトプットの多様化」です。名刺だけだった出力先が、Tシャツ(4,980円)、アクリルキーホルダー(1,980円)、アクリルコースター(1,980円)、ACアダプター(4,980円)へと広がりました。生成した1枚の画像が、紙・布・アクリル・電子機器へと横展開されていく。これは、本企画において生成AIが「画像案を作る道具」から「モノを生む起点」として使われていることの、わかりやすい実例です。
もうひとつは、「偶然性のデザイン」です。名刺購入者の約30人に1人にホログラム加工の「キラキラ名刺」30枚が同梱される特典、そして1週間3セット限定の「ヘッド確約プラン」(64,409円)。ここでロッテがやっているのは、ビックリマンが本来持っていた“開けるまで中身がわからない”という体験構造を、AIグッズの購入プロセスへ引き継ぐことです。ロッテ自身も、これを「開ける前のドキドキ」から「届くまでのドキドキ」への再定義と説明しています。
面白いのは価格設定です。64,409円という半端な数字は、ロッテとアルの説明によれば、ポケベルの数字暗号「ヘッド(64434504)」と「3(98)」の頭を取ったもの。数字を語呂で読む遊びが、価格の桁にまで仕込まれています。
ここからは編集部の解釈ですが、この企画の本質は「AIで何を作れるか」ではなく、「AIで作ったものに、どうやって“欲しくなる理由”を与えるか」にあると考えます。
生成AIによる画像は、いったん生成されれば、そのデジタルデータの複製にかかる追加コストはごくわずかです。だからこそ「30人に1人」「1週間3セット限定」といった希少性を意図的に設計することが、商品としての価値づけに効いてきます。ロッテはそれを、ビックリマンという“もともとコレクション性を内包したIP”と掛け合わせることで、無理なく成立させています。IP固有のこの強みは、同じ座組みを他社が一朝一夕に用意できるものではありません。
一方で、見落としてはいけない論点もあります。「顔写真をアップロードして、ビックリマンの世界観に沿ったオリジナル画像を生成する」というサービスは、顔画像の取り扱いと、生成物の権利関係という2つの繊細な領域に触れています。本人を識別できる顔写真は個人情報に該当し得るもので、それが個人情報保護法上の「個人データ」として扱われるかは、事業者の管理方法によって変わります。
2025年から2026年にかけて、生成AIをめぐる実務指針は着実に整備が進みました。経済産業省のAI事業者ガイドラインは版を重ね、AIの利用・開発に関する契約チェックリストも公表されています。AI生成物であっても、既存の著作物との類似性と依拠性が認められれば著作権侵害は成立し得る——この原則自体は以前から存在しますが、商用利用の現場でいっそう意識される環境が整ってきました。
その文脈で見ると、今回の企画が持つもうひとつの意味が見えてきます。IPの正当な権利者側が“公式に”生成AIを走らせているという点です。本サービスはロッテとアルによる公式企画で、サイトには「© LOTTE/ビックリマンプロジェクト」と権利表示されています。ファンが無断でAIキャラクターを生成・公開すれば、複製・公開・販売といった利用態様と、類似性・依拠性次第で権利侵害のリスクが立ち上がります。公式サービスとして、自社の世界観の範囲内で提供するなら、そのリスクは相対的に管理しやすくなります。ただし、顔写真の扱いや第三者素材、出力の利用まで含めて、すべての法的リスクが消えるわけではありません。「AIとIPは対立する」と語られがちななか、ロッテとアルが示しているのは、権利者が主導権を握れば、生成AIはIPを“薄める”のではなく“遊ばせる”道具になり得るという一つの答えです。
もっとも、これはあくまで現時点の一企画にすぎません。2026年7月23日時点では、新サービス専用の利用規約は予告ページで確認できず、一般のプライバシーポリシーへのリンクにとどまっています。アップロードした顔写真がどう扱われ、生成された画像の権利が誰に帰属するのか——こうした条件は、実際に利用する前に規約で確認しておくべき点として残ります。innovaTopiaとしては、ここを曖昧にしないことが、生成AIを日常に取り込むうえでの読者自身のリテラシーになると考えています。
長期的に見れば、この「ビックリマンAIグッズメーカー」は、40年前に子どもたちを熱狂させたIPが、生成AIという新しいエンジンを積んで“もう一度回り始めた”試みです。懐かしさを入り口にしながら、その実態は、AI時代のコンテンツビジネスがどこへ向かうかを占う、実験的なショーケースなのです。
【用語解説】
生成AI
テキストや画像などを新たに作り出すAIの総称。今回のサービスでは、ユーザーの顔写真を入力として、ビックリマンの世界観に沿ったオリジナルのキャラクター画像を出力する用途で使われている。
IP(知的財産)
Intellectual Property の略。ここでは「ビックリマン」のようなキャラクターや世界観など、著作物や商標などの組み合わせとして守られたコンテンツ資産を指す。
ヘッドシール/ヘッド
ビックリマンチョコに封入されるシールのうち、特に上位・希少とされるキャラクターのシール。強い収集意欲を生む“当たり”的存在で、今回の「ヘッド確約プラン」の名称もここに由来する。
悪魔VS天使シリーズ
1985年発売のビックリマンシールのシリーズ。スーパーゼウスなどのキャラクターとストーリー性、ヘッドシールの導入によって大ヒットし、一大ブームを築いた。
類似性・依拠性
AI生成物が著作権侵害にあたるかを判断する2つの要件。既存著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できるか(類似性)、その著作物に接して利用したか(依拠性)の両方が認められると、侵害が成立し得る。
IP補償(IP Indemnity)
AIが生成したコンテンツが第三者の知的財産権を侵害した場合に、AIの提供者が法的費用などを補償する契約条項。補償の対象範囲や免責条件は契約ごとに異なり、企業が生成AIを商用利用する際のリスク低減策として注目されている。
【参考リンク】
ビックリマンAIグッズメーカー(公式販売サイト)(外部)
本記事で取り上げた新サービスの販売サイト。2026年7月29日12時より提供開始し、名刺やグッズを注文できる。
株式会社ロッテ(企業サイト)(外部)
ビックリマンを展開する菓子メーカー。本サービスを公式オンラインモールの一環として運営する主体である。
アル株式会社(外部)
本サービスの開発・運営サポートを担う企業。生成AIを活用したサービスの企画・開発を手がける。代表は古川健介氏。
ビックリマン(ロッテ公式ブランドサイト)(外部)
ビックリマンチョコの商品情報やニュースを掲載する公式ブランドページである。
ビックリマンAI名刺メーカー(前作・提供終了済み)(外部)
2025年12月〜2026年1月に提供された前作の公式サイト。現在はサービス終了の告知が掲載されている。
【参考記事】
ロッテ、生成AIで自分だけのビックリマンAIグッズメーカー 29日から(日本経済新聞)(外部)
グッズ5種類、名刺200枚7,700円で1日200セット限定、約30人に1人へのキラキラ名刺特典などを第2弾として整理している。
なぜ、100枚4400円の「ビックリマンAI名刺」はヒットしたのか(ITmedia ビジネスオンライン)(外部)
前作の名刺が100枚4,400円で、1日400セットが平均4〜5分で完売した事実を軸に、ヒット要因を取材から分析している。
アルとロッテ、生成AIサービス「ビックリマンAI名刺メーカー」を提供中(知財図鑑)(外部)
前作の提供期間や仕組みを整理し、顔写真を世界観に変換して名刺化する体験を紹介している。
AIで生成した作品の著作権はどうなる?2026年最新の法制度・訴訟・サービス補償まで徹底解説(AI総合研究所)(外部)
主要AIサービスのIP補償の仕組みや、補償対象外となる条件、類似性・依拠性の考え方を比較・整理している。
【編集部後記】
子どもの頃に袋を破って一喜一憂したあの体験が、いまは顔写真1枚から始まる。ビックリマンAIグッズメーカーが面白いのは、生成AIの派手さではなく、生成されたデジタル画像に、あえて“1日200セット”“30人に1人”という有限のドキドキを与え直した点にあります。
生成AIが下げ得るのは、あくまで画像案づくりのようなデジタル制作工程のコストで、材料・印刷・配送を伴う物理グッズの費用がゼロになるわけではありません。それでも、複製が容易なデジタル素材に何を上乗せすれば人が対価を払うのか——その答えのひとつを、40年もののIPが軽やかに示してみせた。この設計思想が、次にどのブランドへ、どんな形で伝播していくのか。innovaTopiaは引き続きその動きを追っていきます。

