GPA共同声明:AI生成画像とプライバシー保護で世界61のデータ保護当局が結束

GPA共同声明:AI生成画像とプライバシー保護で世界61のデータ保護当局が結束

2026年2月23日、香港の個人情報プライバシー専門公署(PCPD)は、世界60のプライバシーまたはデータ保護当局とともに「AI生成画像とプライバシー保護に関する共同声明」を発出した。署名者にはカナダ、フランス、ドイツ、イタリア、韓国、ニュージーランド、シンガポール、英国の当局が含まれる。

本共同声明は、Global Privacy Assembly(GPA)のInternational Enforcement Cooperation Working Group(IEWG)を通じて調整された。声明は、本人の知識や同意なく識別可能な個人を描写するリアルな画像・動画を生成するAIシステムへの懸念を表明し、すべての組織に対し、AIコンテンツ生成システムの合法的な開発・使用、強固なセーフガードの実装、透明性の確保、有害コンテンツの削除メカニズムの提供、子どもに対する特有のリスクへの対処を求めている。PCPDのエイダ・チョン・ライリン専門員はIEWG共同議長としてこの取り組みを主導した。

From: 文献リンクAI-Generated Harmful Imagery Raises Concerns Worldwide PCPD, together with 60 Privacy Protection Authorities, Issue a Global Joint Statement

【編集部解説】

今回の共同声明は、AI画像生成技術がもたらすプライバシーリスクに対し、PCPD自身を含む世界61のデータ保護当局が足並みを揃えて意思表示を行ったという点で、注目に値します。Global Privacy Assembly(GPA)は130を超えるデータ保護当局が参加する国際フォーラムですが、そのうち約半数にあたる61機関が単一の声明に署名したことは、この問題に対する国際的な危機感の高さを示しています。

声明が直接的に問題視しているのは、本人の知識や同意なく生成される「非同意の親密画像(Non-Consensual Intimate Imagery, NCII)」や名誉毀損的なコンテンツです。とくにソーシャルメディアプラットフォームへのAI画像・動画生成機能の統合が、こうした有害コンテンツの作成を容易にしている点が指摘されています。

この問題が深刻なのは、被害が著名人だけにとどまらない点にあります。日本でも2025年以降、生成AIで作成した性的ディープフェイク画像の販売や、同級生の顔写真を悪用した事案で逮捕者が相次いでおり、一般市民や子どもへの被害が拡大しています。警察庁のまとめによれば、2024年中に把握された青少年の性的ディープフェイク被害は100件以上にのぼり、そのうち17件で生成AIが使用されていました。

各国の法規制も急速に動いています。米国では2025年5月にTAKE IT DOWN Actが成立し、非同意の親密画像の公開を最大2年(未成年の場合は3年)の禁錮刑とする連邦法が初めて整備されました。同法はプラットフォーム事業者に対し、2026年5月までに通知から48時間以内の削除対応体制の構築を義務付けています。さらに2026年1月には、被害者が民事上の損害賠償を請求できるDEFIANCE Actが上院を全会一致で通過しています。EU AI Actも2026年8月から高リスクAIシステムへの要件適用が始まり、AI生成コンテンツの機械可読な形式での標識付けが求められる見通しです。

一方、今回のGPA共同声明は、GPAの国際執行協力ワーキンググループ(IEWG)を通じて調整されたものであり、各国政府ではなく、独立したデータ保護機関の連合体による発信である点に留意が必要です。声明には法的拘束力がなく、あくまで「原則」の共有にとどまります。この連携した姿勢が具体的な執行行動へとつながるかどうかが、今後の焦点となるでしょう。

日本に目を向けると、個人情報保護委員会(PPC)は2023年にOpenAIへの注意喚起を行い、2025年にはAI推進法が成立するなど、制度整備が進んでいます。しかし、性的ディープフェイクに特化した包括的な法規制はまだ存在せず、現行では刑法175条(わいせつ物頒布罪)や名誉毀損罪を援用して対処しているのが実情です。政府は2026年度中に対策をまとめるとしており、国際的な協調の流れが国内法整備を加速させる契機となる可能性があります。

AI画像生成技術そのものは、クリエイティブ産業や教育、医療シミュレーションなど幅広い分野で革新をもたらしうる技術です。今回の声明が求めているのは技術の禁止ではなく、セーフガードの実装、透明性の確保、削除メカニズムの整備、そして子どもの保護の強化という4つの原則に沿った責任ある開発と利用にほかなりません。技術の進化と人権の保護を両立させるための国際的な枠組みが、いま本格的に形成されつつあります。

【用語解説】

非同意の親密画像(NCII:Non-Consensual Intimate Imagery)
本人の同意なく作成・公開される性的な画像や動画を指す。AI生成によるディープフェイクを含む。いわゆる「リベンジポルノ」に加え、生成AIで一から作り出された合成画像も対象となる概念である。

ディープフェイク
ディープラーニング(深層学習)とフェイク(偽物)を組み合わせた造語。AIを用いて特定の人物の顔や声を本物そっくりに合成し、実際には存在しない画像・動画・音声を生成する技術、またはその生成物を指す。

データ主体
個人データによって識別される、または識別されうる個人のこと。データ保護法制において、権利を保護される対象となる人物を指す用語である。

セーフガード
悪用やリスクを防止するために設けられる安全策・保護措置の総称。本声明では、AIコンテンツ生成システムにおける個人情報の悪用防止や、有害コンテンツの生成を阻止するための技術的・制度的な対策を意味する。

TAKE IT DOWN Act
2025年5月19日に成立した米国初の連邦法で、非同意の親密画像(AI生成含む)の公開を刑事罰の対象とする。違反者には最大2年(未成年被害の場合は3年)の禁錮刑が科される。プラットフォームには通知から48時間以内の削除義務が課せられ、2026年5月までの対応体制整備が求められている。

DEFIANCE Act
非同意の性的ディープフェイクの被害者が、作成者・配布者に対し民事上の損害賠償を請求できる権利を定める米国連邦法案。2026年1月に上院を全会一致で通過した。法定損害額は最大150,000ドル、性的暴行等が関連する場合は最大250,000ドルとされている。

EU AI Act
EUが制定した包括的なAI規制法。リスクレベルに応じた4段階の規制を設ける。2026年8月から高リスクAIシステムへの要件が適用され、AI生成コンテンツの機械可読な形式での標識付けなどが義務化される。違反の種類に応じ、制裁金は最大1,500万ユーロまたは年間売上の3%から、最も重い違反では最大3,500万ユーロまたは年間売上の7%に及ぶ。

【参考リンク】

Global Privacy Assembly(GPA)(外部)
世界130以上のデータ保護当局が参加する国際フォーラム。1979年設立、2019年に現名称に改称。

Office of the Privacy Commissioner for Personal Data, Hong Kong(PCPD)(外部)
香港の個人情報プライバシー専門公署。個人データ保護の監督・執行を担い、GPAのIEWG共同議長を務める。

European Data Protection Board(EDPB)(外部)
EU加盟国のデータ保護当局で構成される独立機関。GDPRの一貫した適用を確保し、今回の共同声明にも署名。

UK Information Commissioner’s Office(ICO)(外部)
英国のデータ保護・情報の権利に関する独立規制機関。今回の共同声明の署名機関の一つである。

個人情報保護委員会(PPC)(外部)
日本における個人情報保護法の監督機関。2023年6月に生成AIサービスの利用に関する注意喚起を実施した。

【参考記事】

61 Regulators Warn on AI-Generated Imagery Privacy Risks(外部)
61当局が署名した共同声明を分析。署名機関が全大陸に及ぶ点と法的拘束力の限界を指摘している。

Deepfakes-as-a-Service Meets State Laws(Jones Walker LLP)(外部)
TAKE IT DOWN ActやEU AI Act第50条の具体的数値を整理。2022年以降46州のディープフェイク立法も報告。

社会問題化する性的偽画像 生成AI、卒アル悪用も(時事通信)(外部)
2024年中の青少年ディープフェイク被害100件以上、うち生成AI使用17件という警察庁データを報道。

Deepfake Legislation Tracker: Federal & State Laws(STACK Cybersecurity)(外部)
米国の連邦・州ディープフェイク規制を網羅的に追跡。DEFIANCE Actの法定損害額等の数値を体系的に整理。

Data Protection Authorities Globally Highlight Privacy Issues(Hunton Andrews Kurth)(外部)
共同声明の4原則を法律事務所の視点から分析。非同意の親密画像が多くの法域で刑事犯罪となる点を強調。

AI-generated imagery and protection of privacy(EDPB)(外部)
EDPB議長が署名した経緯と活動計画2026-2027年における本声明の位置づけを公表した一次ソース。

【編集部後記】

AIが生み出す画像や動画のリアリティは、日々驚くほどの速度で向上しています。その恩恵を受ける一方で、自分や身近な人の顔が知らぬ間に悪用されるリスクも、もはや他人事ではなくなりました。世界各地の61の当局が同時に声を上げたという事実は、この問題の緊急性を物語っています。「技術の進化」と「個人の尊厳」のバランスをどう取るべきか——みなさんはどうお考えになりますか。ぜひご意見をお聞かせください。

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