Burger Kingが従業員のヘッドセットに搭載するAIチャットボット「Patty」を発表しました。親会社Restaurant Brands International(RBI)が2026年2月26日にマイアミで開催した投資家向けイベントで公開されたこのシステムは、OpenAIを基盤とするBK Assistantプラットフォームの音声インターフェースとして機能します。調理手順の案内や在庫管理の支援といったオペレーション業務に加え、従業員が接客時に「please」「thank you」といったフレーズを使用しているかどうかを追跡する「コーチングツール」としての役割も担います。現在約500店舗でパイロット運用が行われており、2026年末までに全米のBurger King店舗への展開が予定されています。
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Burger King Cooks Up ‘Patty,’ an AI Chatbot to Monitor Employees
【編集部解説】
今回のニュースは、親会社であるRestaurant Brands International(RBI)が2026年2月26日にマイアミ本社で開催した投資家向けイベントの中で発表されたものです。RBIはBurger King、Tim Hortons、Popeyes、Firehouse Subsを傘下に持ち、世界120カ国以上で33,000店舗以上を展開する巨大QSR(クイックサービスレストラン)企業であり、年間システム全体の売上高は約470億ドルに達します。
注目すべきは、Pattyが単なるチャットボットではなく、BK Assistantと呼ばれる統合オペレーションプラットフォームの音声インターフェースである点です。Gizmodoの報道によれば、BK Assistantは食品在庫、厨房機器、POSシステム、従業員シフト、ドライブスルー会話など、店舗運営全体のデータを統合する基盤として設計されています。PattyはOpenAIのベースモデルとBurger King独自のアーキテクチャを組み合わせたものとされ、クラウド接続されたヘッドセットを通じて従業員にリアルタイムの支援を提供します。
AP通信の取材に対し、Burger Kingは「個人のスコアリングやスクリプトの強制を目的としたものではない」と回答し、キーワードの追跡は「マネージャーがサービスパターン全体を理解するための多くのシグナルの一つ」であると説明しています。一方で、The Registerの取材に対しては「特定の単語やフレーズを従業員が言ったかどうかを追跡・評価するようには設計されていない」と述べており、The Vergeでの発表内容とやや矛盾するニュアンスも見られます。
ファストフード業界におけるAI導入は、ここ数年で急速に進んでいますが、成功と失敗が混在しています。McDonald’sは2021年からIBMと提携してドライブスルーの自動注文受付(AOT)を100店舗以上でテストしましたが、アクセントや方言の誤認識、注文の取り違えなどの問題が相次ぎ、2024年6月にパートナーシップを終了しました。その後、McDonald’sはGoogleとの連携に移行しています。Taco Bellもドライブスルー向けAIの見直しを迫られた経緯があります。
一方、Yum! Brands(KFC、Taco Bell、Pizza Hut、Habit Burger & Grillの親会社)は2025年2月にAI駆動のSaaSプラットフォーム「Byte by Yum!」を発表し、NVIDIAとの協業を通じて音声AI、コンピュータビジョン、店舗レベルのAI分析を推進しています。2025年末時点で38,000店舗で少なくとも1つのByte製品が稼働しており、在庫切れを最大85%削減、注文エラー率を最大75%低下させたと報告しています。Burger KingのBK Assistantは、こうした競合他社のAIプラットフォーム戦略に対抗する動きと位置づけられます。
Pattyの「フレンドリーさ監視」機能が最も議論を呼んでいる部分です。SNS上では従業員の監視に対する批判が噴出し、「賃金を上げるべき」「デジタルの監視員をヘッドセットに貼り付けるだけ」といった声が広がっています。米国ではファストフード従業員の平均時給は生活賃金を下回る水準とされており、テクノロジーによる行動管理が労働者の不安やストレスを増大させるリスクは無視できません。
規制面では、2026年は米国における職場AI規制の転換期となっています。カリフォルニア州ではCCPA/CPRA(消費者プライバシー法/プライバシー権法)に基づく自動意思決定技術(ADMT)に関する追加規制が2026年1月に施行され、AIによる雇用判断へのリスク評価や事前通知が義務化されました。コロラド州のAI法も2026年半ばに施行予定で、雇用関連のAIシステムを「高リスク」に分類しています。イリノイ州のHB 3773も2026年施行で、AIによる差別的な雇用判断を禁止しています。連邦レベルでも「No Robot Bosses Act of 2025」が超党派で提出されるなど、AI監視の透明性や人間による監督の義務化が進みつつあります。Pattyのような常時リスニング型のAIシステムは、こうした新たな法規制との整合性が厳しく問われることになるでしょう。
より広い視点で見れば、Burger Kingの取り組みはAIが分析ツールから現場実行ツールへと進化していることを象徴しています。ダッシュボードからヘッドセットへ、アドバイザリーからオペレーションの当事者へ——この移行は、飲食業界にとどまらず、物流、小売、製造業などあらゆるフロントラインワークに波及する可能性を持っています。テクノロジーが労働者を「支援」するのか、それとも「監視」するのか。その境界線をどこに引くかは、企業の設計思想と、社会がそれをどう受け止めるかにかかっています。
【参考情報】
【用語解説】
QSR(Quick Service Restaurant)
クイックサービスレストランの略。ファストフード店を指す業界用語で、カウンターやドライブスルーで迅速に食事を提供する飲食店の業態である。
POS(Point of Sale)システム
販売時点情報管理システム。レジでの会計処理だけでなく、売上データ、在庫情報、メニュー管理などを一元的に処理するクラウド型の店舗管理基盤として近年進化が著しい。
AOT(Automated Order Taking)
ドライブスルーにおける音声AIによる自動注文受付技術。McDonald’sがIBMと2021年から100店舗以上でテストしたが、アクセントの誤認識や注文ミスが相次ぎ、2024年7月までに終了した。
Byte by Yum!
Yum! Brandsが2025年2月に発表したAI駆動のSaaSプラットフォーム。KFC、Taco Bell、Pizza Hut、Habit Burger & Grillの店舗運営を統合し、注文、POS、在庫管理、AIコーチングなどを一元化する。2025年末時点で38,000店舗以上が少なくとも1つの機能を利用している。
CCPA/CPRA(カリフォルニア州消費者プライバシー法/カリフォルニア州プライバシー権法)
カリフォルニア州の包括的データプライバシー法。CCPA(2020年施行)をCPRA(2023年施行)が改正・強化した。2026年1月より、AIによる自動意思決定技術(ADMT)を雇用判断に用いる場合のリスク評価や事前通知に関する追加規制が施行されている。コロラド州、イリノイ州、テキサス州でも類似の法整備が2026年に施行される。
フロントラインワーク
顧客と直接接する現場業務の総称。飲食店の接客、物流の配送、小売の販売など、デスクワーク以外の第一線の業務を指す。
【参考リンク】
Restaurant Brands International(RBI)公式サイト(外部)
Burger King、Tim Hortons、Popeyes、Firehouse Subsを傘下に持つグローバルQSR企業の公式サイト。
Burger King 公式サイト(外部)
BK AssistantおよびPattyが導入されるファストフードチェーン。米国内に約7,000店舗を展開している。
OpenAI 公式サイト(外部)
Pattyの基盤となるAI技術を提供。GPTシリーズなどの大規模言語モデルを開発・提供する企業である。
Yum! Brands — Byte by Yum! プレスリリース(外部)
KFC、Taco Bell、Pizza Hutの親会社によるAI駆動プラットフォーム「Byte by Yum!」の公式発表。
RBI 2026 Investor Day プレスリリース(外部)
BK Assistantの発表が行われた2026年2月26日の投資家向けイベントに関する公式プレスリリース。
【参考動画】
BK AssistantおよびPattyに関する公式動画のYouTube公開は、現時点では確認できませんでした。RBI投資家向けイベントのウェブキャスト録画は rbi.com/investors にて期間限定で公開されています。
【参考記事】
RBI Reaffirms Growth Algorithm — 2026 Investor Day公式プレスリリース(外部)
BK Assistantの導入と2028年までの8%以上のオーガニック営業利益成長、16億ドルの株主還元計画を公表。
Surveillance With a Smile — Gizmodo(外部)
BK Assistantの技術的詳細を報道。OpenAIベースモデル、500店舗パイロット、全米7,000店舗展開計画を詳述。
Yum Brands Battles Rival Restaurants With Proprietary AI — PYMNTS.com(外部)
Byte by Yum!の成果を報道。在庫切れ最大85%削減、注文エラー率最大75%低下などの具体的数値を掲載。
McDonald’s to end AI drive-thru test with IBM — CNBC(外部)
McDonald’sがIBMとのAIドライブスルーテストを100店舗以上で実施後、2024年7月に終了した経緯を報道。
Burger King rolls out employee assistance AI that listens in — The Register(外部)
Burger Kingがメディア各社に対して異なるニュアンスの声明を出している矛盾点を指摘した報道記事。
Burger King is launching an AI-powered employee assistant — Nation’s Restaurant News(外部)
BK US社長トム・カーティス氏の発言やRBI会長の評価を引用し、競合AI施策との比較を含む詳報。
Buns, bots and ad-buys: Burger King talks strategy — Restaurant Dive(外部)
RBI投資家向けイベントの包括的報道。BK Assistantの位置づけやメニュー刷新、マーケティング戦略を分析。
【編集部後記】
AIが「分析する側」から「現場で一緒に働く側」へと変わりつつあります。ファストフード店のヘッドセットに宿ったAIは、やがて物流の倉庫や小売の売り場にも広がっていくかもしれません。テクノロジーが働く人を支えるのか、それとも見張るのか——その線引きは、私たち一人ひとりがどう感じ、どう声を上げるかにもかかっているのではないでしょうか。みなさんはどうお考えですか?

