Ethereum「Strawmap」公開──2029年までに7回のハードフォークで「価値のインターネット」へ

Ethereum Foundationの研究者ジャスティン・ドレイクは、2029年までの潜在的なアップグレードを概説するドラフト版ロードマップ「Strawmap」を公開した。この文書は拘束力を持たないが、5つの目標を中心に据えている。ほぼ即時のトランザクションファイナリティ、より高いスループット、組み込み型プライバシー、量子耐性暗号、レイヤー2との緊密な統合である。現在約16分かかるファイナリティを6〜16秒に短縮することを目指す。Ethereum共同創設者ヴィタリック・ブテリンは、スロット時間を現行の12秒から段階的に短縮する方針を示した。Strawmapはベースレイヤーの強化とレイヤー2の専門化を並行して進めるデュアルトラック戦略への転換を反映している。さらにネイティブなシールド転送によるプライバシー機能やポスト量子暗号の導入も計画に含まれる。Ethereumの時価総額は2,000億ドル超である。

From: 文献リンクHere is why Ethereum’s bold new plan could make the blockchain giant high-speed ‘internet of value’ by 2029

【編集部解説】

今回公開された「Strawmap」は、Ethereum Foundationが過去数年間で示した中で最も包括的な長期ビジョンと言えます。「strawman(たたき台)」と「roadmap」を組み合わせた造語が示す通り、これは確定した計画ではなく、あくまで研究開発の方向性を示す「議論のための文書」です。しかしその射程の広さと具体性において、2022年のThe Merge以来、最も注目すべきレイヤー1ロードマップとなっています。

特に注目すべきは、約6か月ごとに1回のハードフォークを実施し、2029年までに計7回のアップグレードを完了させるという開発サイクルの提示です。2026年前半に予定されているGlamsterdamフォークではEnshrined Proposer-Builder Separation(ePBS)とBlock-level Access Lists(BAL)が主要項目として確定しており、2026年後半のHegotaフォークではVerkle Treesや検閲耐性の改善が候補に挙がっています。従来のEthereumは大規模なアップグレードを年に1回程度にまとめる傾向がありましたが、この半年ごとのリズムへの移行は、開発の遅さに対するコミュニティからの批判を受けた結果でもあります。

技術面で最も実感しやすい変化は、ファイナリティの高速化でしょう。現在のEthereumでは、トランザクションがブロックに取り込まれてから不可逆と見なされるまで約16分を要します。Strawmapではこれを最終的に6〜16秒まで短縮する構想が描かれています。この改善が実現すれば、取引所やブリッジにおける確認待ち時間が劇的に短くなり、大口の資金移動や分散型金融(DeFi)アプリケーションの使い勝手が根本的に変わる可能性があります。

スループットに関しては、レイヤー1で毎秒約10,000トランザクション(1ギガガス/秒)、レイヤー2では毎秒1ギガバイトのデータ帯域幅を確保することで約10,000,000トランザクション(1テラガス相当)の処理を目標に掲げています。これはzkEVMによるリアルタイム証明やデータ可用性サンプリングといった技術によって達成を目指すものです。ただし、この目標は2029年時点のものであり、2026年中に実現する数値ではない点には留意が必要です。

レイヤー2との関係性にも大きな転換が見られます。ブテリン自身が、従来のL2中心のスケーリング戦略の前提が「もはや意味をなさない」部分があると認めた点は重要です。これはL2の否定ではなく、L1自体のスケーリングを進めつつ、L2はプライバシーや特定用途に特化した役割へ進化するという「デュアルトラック戦略」への移行を意味しています。

プライバシー機能の導入も見逃せません。ブテリンは以前からプライバシーを「衛生(hygiene)」と表現し、その必要性を訴えてきました。現在のEthereumではすべてのトランザクションが完全に公開されているため、企業や機関投資家がオンチェーンでの活動を避ける要因にもなっています。ベースレイヤーでのシールド転送が実現すれば、機関投資家のDeFi参入を後押しする可能性がある一方、マネーロンダリング対策(AML)や規制当局との緊張関係が高まるリスクも内在しています。

ポスト量子暗号への対応は、他のブロックチェーンとの差別化ポイントになり得ます。Strategy(旧MicroStrategy)のマイケル・セイラーは量子コンピューターの脅威は10年以上先と見ていますが、ブテリンは2025年11月のDevconnectにおいて、量子研究者スコット・アーロンソンの見解を引用しつつ、量子コンピューターが2028年にも現行の暗号技術を破る可能性があると警告しました。Strawmapでは段階的にハッシュベースの署名方式やSTARK対応の暗号技術への移行を進め、万が一量子コンピューターが出現しても「ファイナリティの保証は失うが、チェーン自体は動き続ける」という耐障害設計が意識されています。

もちろん、実行リスクは小さくありません。Ethereumの歴史を振り返れば、野心的なタイムラインが大幅に遅延した例は枚挙にいとまがなく、分散型ガバナンスの特性上、すべてのステークホルダーの合意を得るプロセスには時間を要します。Strawmap自体もこの点を認めており、四半期ごとの更新を前提とした「生きた文書」として位置づけられています。ウォレット、取引所、バリデーター、L2プロトコルの各レイヤーが同時にアップグレードに対応しなければ、技術的な進歩だけでは目標達成には至りません。

それでも、Ethereum Foundationがここまで具体的かつ長期的なビジョンを一つの文書にまとめて公開したこと自体が、エコシステム全体に対する強いシグナルであることは間違いないでしょう。

【用語解説】

Strawmap(ストローマップ)
「strawman(たたき台)」と「roadmap(ロードマップ)」を組み合わせた造語。Ethereum Foundationの研究チームが作成した、2029年までのプロトコルアップグレードの方向性を示すドラフト文書である。拘束力はなく、四半期ごとに更新される「生きた文書」として位置づけられている。

ファイナリティ(Finality)
ブロックチェーン上のトランザクションが不可逆と見なされる状態のこと。現在のEthereumでは約16分を要する。Strawmapではこれを最終的に6〜16秒まで短縮することを目指している。

スロット時間(Slot Time)
Ethereumにおいてネットワークが新しいブロックを生成する固定間隔のこと。現在は12秒で、Strawmapでは段階的に2秒まで短縮する構想が示されている。

ハードフォーク(Hard Fork)
ブロックチェーンネットワーク全体に適用されるソフトウェアアップグレード。すべてのノードが更新しなければネットワークから取り残されるため、最もリスクの高い変更手段である。

レイヤー1(L1)/ レイヤー2(L2)
L1はEthereumのメインブロックチェーン(ベースレイヤー)を指す。L2はArbitrumやOptimismなど、L1の上に構築されたネットワークで、トランザクションをオフチェーンで処理しL1に決済を戻すことでスケーリングを実現する。

デュアルトラック戦略
L1自体のスケーリングを強化しつつ、L2には特定用途やプライバシーなど専門的な役割を担わせるという、Strawmapが示す新たなスケーリング方針のこと。

ギガガス / テラガス
Ethereumのスループット目標を表す単位。ギガガスはL1で毎秒約10,000トランザクション相当のスループットを指す。テラガスはL2向けの目標で、毎秒1ギガバイトのデータ帯域幅を確保し、結果として毎秒約10,000,000トランザクションの処理を可能にすることを目指す。gasはEthereumにおける計算処理量の単位である。

zkEVM(ゼットケー・イーブイエム)
ゼロ知識証明技術を用いてEthereum Virtual Machine(EVM)の実行を検証する仕組み。すべてのトランザクションを再実行する代わりに数学的な証明で正しさを確認でき、スループット向上の鍵となる技術である。

Minimmit(ミニミット)
Strawmapで提案されている1ラウンドBFT型のファイナリティアルゴリズム。現行のGasperコンセンサスに代わり、ファイナリティ時間を秒単位に短縮することを目指す。

ポスト量子暗号(Post-Quantum Cryptography)
将来の量子コンピューターによる解読に耐えうる暗号技術の総称。Strawmapではハッシュベースの署名方式やSTARK対応の暗号関数への段階的移行が計画されている。

シールド転送(Shielded Transfers)
トランザクションの詳細(送金額・送信元・送信先)を公開せずにETHを移動できる機能。現在のEthereumではすべてのトランザクションが完全に透明であるため、プライバシーを確保する新機能として検討されている。

ePBS(Enshrined Proposer-Builder Separation)
ブロックの提案者(Proposer)と構築者(Builder)の役割をプロトコルレベルで分離する仕組み。2026年のGlamsterdamフォークで導入予定であり、MEV(最大抽出可能価値)の集中を緩和し、検閲耐性と分散性の向上を目指す。

Verkle Trees(バークルツリー)
Ethereumのノードがデータをより効率的に保存・検証するための新しいデータ構造。ノード運営のハードウェア要件を下げ、分散性向上に寄与する技術として、Hegotaフォーク以降の導入が検討されている。

【参考リンク】

Ethereum Foundation 公式サイト(外部)
Ethereumのプロトコル開発を支援する非営利組織。技術仕様やアップグレード情報を提供している。

Strawmap 公式ページ(外部)
Ethereum Foundation研究チームが公開したStrawmap原文。5つの目標と7フォークの依存関係を図表で整理。

Arbitrum 公式サイト(外部)
Optimistic Rollup技術を用いたEthereumレイヤー2ネットワーク。手数料削減と高速化を実現している。

Optimism 公式サイト(外部)
Ethereumのレイヤー2ネットワーク。OP Stackフレームワークも提供し、エコシステムの拡張に貢献している。

【参考記事】

Ethereum Foundation Drafts Seven-Fork ‘Strawmap’ Through 2029(外部)
Decryptによる包括的報道。Minimmitへの移行やスロット時間削減の段階(12→8→6→4→3→2秒)を詳述。

Ethereum Foundation researchers publish ‘strawmap’ outlining seven forks through 2029(外部)
The Blockによる技術詳細。ファイナリティ短縮経路(16分→8秒)の具体的数値をブテリン投稿に基づき記載。

Ethereum in 2026: Glamsterdam and Hegota forks, L1 scaling and more(外部)
Cointelegraphの2026年アップグレード分析。ガスリミット(60M→最大300M)やL1の10,000 TPS目標を解説。

Ethereum’s ‘Hegota’ upgrade slated for late 2026 as devs accelerate roadmap(外部)
CoinDeskのHegotaフォーク報道。Verkle Trees導入候補や半年ごとのアップグレードサイクル移行背景を解説。

Ethereum Foundation Unveils “Strawman” Roadmap Through 2029(外部)
BanklessTimes分析。The Merge以来最も詳細なL1ロードマップとの評価とアナリスト見解を紹介。

Vitalik Buterin Warns Quantum Computers Could Break Blockchain by 2028(外部)
Blockonomiの報道。2025年11月Devconnectでのブテリンの量子脅威警告とアーロンソンの見解を紹介。

   

【編集部後記】

Ethereumが「価値のインターネット」を目指すこのStrawmapは、ブロックチェーンの未来像を考えるうえで興味深い素材です。ファイナリティが秒単位になったとき、私たちの金融体験はどう変わるでしょうか。プライバシーと透明性のバランスは、どこに落ち着くのが理想でしょうか。皆さんはこのビジョンをどうご覧になりますか。ぜひご意見をお聞かせください。

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