MetaMask Card、米国全土に展開──セルフカストディ型デビットカードでニューヨーク初参入

MetaMask Card、米国全土に展開──セルフカストディ型デビットカードでニューヨーク初参入

MetaMaskは2026年2月26日、ブロックチェーンベースのデビットカード「MetaMask Card」を米国全土に展開すると発表した。約1年間のパイロットプログラムを経たもので、ニューヨーク州への参入は今回が初となる。

同カードはMastercardおよび暗号資産決済プロバイダーBaanxと共同開発された非カストディアル型で、ユーザーはセルフカストディアルウォレットから直接デジタル資産を支出できる。Mastercardの加盟店すべてで利用可能で、Apple PayやGoogle Payにも対応する。

オンチェーンのキャッシュバック報酬やDeFiプロトコルを通じたイールドオプションも提供する。年額199ドルのプレミアム版「MetaMask Metal Card」も用意される。EU・英国でのパイロットは2024年8月、米国でのパイロットは2024年12月に開始されていた。競合にはCoinbaseやCrypto.comなどが存在する。

From: 文献リンクMetaMask expands debit card across U.S. after year-long pilot

【編集部解説】

今回の発表の核心は「セルフカストディ(自己管理)型」という設計思想にあります。従来の暗号資産デビットカード、たとえばCoinbaseやCrypto.comが提供するカードでは、ユーザーはまず自分の暗号資産を取引所やカード発行者のプラットフォームに預け入れる必要がありました。MetaMask Cardは、この構造を根本から変えています。ユーザーの資産は支払いの瞬間までウォレット内に留まり、決済時にはじめて法定通貨に変換されてMastercardネットワークを通じて加盟店に送金されます。

この違いは、単なる利便性の問題にとどまりません。2022年のFTX破綻や2025年のBybitへの大規模ハッキング(約14億ドル相当)で明らかになったように、カストディアル(預託型)モデルではプラットフォームの破綻やセキュリティ侵害によってユーザーの資産が失われるリスクが存在します。セルフカストディ型であれば、そうしたカウンターパーティリスクを構造的に排除できるわけです。

ニューヨーク州への初参入も注目に値します。同州は2015年に導入されたBitLicense制度により、全米で最も厳格な暗号資産規制を敷いてきました。2026年1月にはCRYPTO Act法案も提出され、無許可での暗号資産事業を刑事罰の対象とする動きも進んでいます。こうした環境下でMetaMask Cardがニューヨーク参入を果たしたことは、規制当局が求める水準のコンプライアンス体制を構築できたことの証左と見ることができます。

一方で、カード発行の実務はCross River Bankが担い、決済インフラはBaanx(現Monavate)が提供しているという点も理解しておく必要があります。完全な非中央集権ではなく、既存の規制された金融インフラの上に構築されたハイブリッドモデルであり、カード利用にはKYC(本人確認)も求められます。暗号資産の理念であるプライバシーや匿名性とは、一定の緊張関係にあるといえるでしょう。Lineaに加えBaseネットワーク(ニューヨーク州・テキサス州を除く)にも対応していますが、ユーザーは自身の資産を対応ネットワークにブリッジする必要があり、ブロックチェーンに不慣れなユーザーにとっての参入障壁が残ります。

キャッシュバック報酬がMetaMask独自のステーブルコインmUSDで支払われる仕組みも戦略的です。mUSDはStripe傘下のBridgeが発行し、M0プロトコル上で鋳造されるもので、高品質な流動性の高いドル建て資産によって1対1で裏付けられるとされています。キャッシュバックをmUSDで提供することで、MetaMaskは自社エコシステムへのユーザーの定着を促しつつ、暗号資産特有の価格変動リスクを回避しています。

また、MetaMaskはネイティブトークンの発行計画と3000万ドル規模のリワードプログラムも公表しています。カード普及とトークン配布を組み合わせたこの戦略は、Web3ウォレットの主導権争いにおける積極的な布石といえます。

潜在的なリスクとしては、暗号資産の支出が米国では税務上「売却」として扱われる点が挙げられます。IRSは暗号資産を財産(property)として分類しているため、カードで支払うたびにキャピタルゲインまたはキャピタルロスが発生し得ます。日常的な少額決済であっても税務申告の対象となる可能性があり、この点はユーザーにとって実務上の大きな負担となり得ます。

現在、MetaMask Cardは米国のほか、英国、EEA諸国、アルゼンチン、ブラジル、カナダ、コロンビア、メキシコ、スイスでも利用可能であり、グローバル展開が加速しています。暗号資産が「持っているもの」から「使えるもの」へと転換する動きは、Web3の社会実装における重要な転換点として注目されます。

【用語解説】

セルフカストディアル(自己管理型)ウォレット
暗号資産の秘密鍵をユーザー自身が管理するウォレットのこと。取引所や第三者に資産を預けないため、プラットフォームの破綻やハッキングによる資産喪失リスクを回避できる。一方で、秘密鍵やシードフレーズの管理責任はすべてユーザーが負う。

非カストディアル型カード
ユーザーの暗号資産をカード発行者に預託せず、支払い時にウォレットから直接引き落として法定通貨に変換する仕組みのデビットカードである。従来のCoinbaseやCrypto.comのカードはカストディアル型(預託型)で、事前に暗号資産をプラットフォームに移す必要がある。

Linea
ConsenSysが開発したEthereumベースのレイヤー2ネットワーク。zkEVM(ゼロ知識証明を用いたEthereum仮想マシン)技術を採用し、Ethereumのメインネットより低いガス代と高速なトランザクション処理を実現する。MetaMask Cardの決済基盤として機能している。

mUSD(MetaMask USD)
MetaMask独自のドルペッグ型ステーブルコイン。Stripe傘下のBridgeが発行し、M0プロトコル上で鋳造される。高品質な流動性の高いドル建て資産で1対1の裏付けがあるとされる。MetaMask Cardのキャッシュバック報酬として使用される。

BitLicense
ニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)が2015年に導入した暗号資産事業者向けのライセンス制度。米国で最も厳格な暗号資産規制の一つで、資本要件、サイバーセキュリティ、AML(マネーロンダリング対策)などの厳格な基準を満たす必要がある。

DeFiプロトコル
分散型金融(Decentralized Finance)の略で、銀行などの仲介者を介さずにブロックチェーン上で金融サービスを提供する仕組みである。MetaMask Cardでは、未使用残高をAaveなどのDeFiプロトコルに預けてイールド(利回り)を得ることができる。

KYC(Know Your Customer)
本人確認手続きのこと。金融規制に基づき、サービス利用者の身元を確認する手続きである。MetaMask Cardの利用にはKYCの完了が必須となっている。

【参考リンク】

MetaMask Card 公式ページ(外部)
MetaMask Cardの製品概要、対応地域、対応トークン、Metal Cardの特典や料金体系を確認できる。

MetaMask公式サイト(外部)
ConsenSys開発のセルフカストディアル型ウォレット。世界で1億人以上のユーザーに利用されている。

ConsenSys公式サイト(外部)
MetaMask、Infura、Lineaなどを開発するEthereumソフトウェア企業。2014年設立。

Mastercard公式サイト(外部)
200以上の国と地域で決済ネットワークを展開。MetaMask Cardの決済ネットワークを提供する。

Baanx(Monavate)(外部)
暗号資産決済インフラ企業。MetaMask Cardのプロバイダーでありカード発行者としても機能する。

Linea公式サイト(外部)
ConsenSys開発のzkEVMベースEthereumレイヤー2。MetaMask Cardの決済処理基盤として使用。

MetaMask USD(mUSD)公式発表ページ(外部)
MetaMask初のネイティブステーブルコインmUSDの技術的仕組みとエコシステムにおける役割を解説。

【参考記事】

MetaMask and Mastercard launch US payment card with onchain rewards(外部)
The Block報道。mUSDキャッシュバック、標準1%・Metal最大3%の詳細、Bridgeとの連携を確認。

MetaMask Crypto Debit Mastercard Launches Across United States(外部)
Decrypt報道。3000万ドルのリワードプログラム、ネイティブトークン計画、欧州パイロットの実績を報告。

MetaMask and Mastercard Officially Launch Crypto Card in the United States(外部)
1億5000万以上の加盟店対応、バーモント州除外、Metal Card月間ATM無料上限1,200ドルを詳報。

MetaMask Launches Self-Custodial Crypto Card With Mastercard in the U.S.(外部)
mUSDの発行構造、M0分散型インフラでの鋳造、ドルペッグによるリスク回避戦略を分析。

Mastercard Brings MetaMask Crypto Payments to US Shoppers(外部)
Mastercardシェリー・ヘイモンド氏コメント掲載。グローバル展開地域一覧と市場拡大計画を報告。

Proposed New York CRYPTO Act Seeks To Criminalize Unlicensed Crypto Activities(外部)
2026年1月提出のCRYPTO Act法案の詳述。無許可暗号資産事業の刑事罰対象化を解説。

MetaMask Card FAQ(MetaMask Help Center)(外部)
米国対応トークン(mUSD、USDC、aUSDC)、Baanx・Monavateの役割分担、手数料体系を公式記載。

【編集部後記】

暗号資産を「持つ」時代から「使う」時代へ。MetaMask Cardの全米展開は、その転換点を象徴する動きかもしれません。みなさんは、暗号資産で日常の買い物をする未来を身近に感じますか? セルフカストディの自由と、KYCや税務申告といった現実のはざまで、Web3の「使いやすさ」はどこまで進化できるのか。この問いの答えを、一緒に追いかけていければ嬉しいです。

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