BMW iX・i4 × NTTドコモ——日本初、5G+コンシューマeSIM対応コネクテッドカーが走り出す

NTTドコモとビー・エム・ダブリュー株式会社は、2022年3月1日より日本初となる5GおよびコンシューマeSIM対応のコネクテッドカーサービスの提供を開始した。対象車両はBMW iXおよびBMW i4で、ドコモのワンナンバーサービス(月額550円・税込)を契約することで利用できる。

両社は2018年12月より協業を開始し、DSDA(Dual-SIM-Dual-Active)技術により2つのeSIMを同時にアクティブにする仕組みを共同開発した。これにより、ユーザーはスマートフォンと同じ電話番号・料金プランを車両での音声通話やデータ通信に使用でき、最大10台のデバイスを車内Wi-Fiに接続し5G通信を利用できる。今後、他のBMWモデルへも対応を順次拡大する予定だ。

From: 文献リンク報道発表資料:ドコモとBMWが日本初の5GおよびコンシューマeSIMに対応したコネクテッドカーサービスを開始 | NTTドコモ

【編集部解説】

この発表が持つ意味を正しく理解するには、まず「コンシューマeSIM」「従来の車載SIM」の違いを整理する必要があります。これまでBMW車両に搭載されていたeSIMは、BMWコネクテッド・ドライブ専用のいわば「クルマのためのSIM」でした。今回新たに搭載されたコンシューマeSIMは、ユーザー自身のスマートフォン契約に紐づく「人のためのSIM」です。この2つを同時に稼働させる技術がDSDA(Dual-SIM-Dual-Active)であり、2枚のeSIMを並行してアクティブにすることで、車両の自律的な通信とユーザーの個人通信を切り離すことなく両立させます。

重要な点は、コンシューマeSIMが「車両」ではなくBMW IDというユーザーアカウントに紐づいていることです。これにより、自分のクルマはもちろん、レンタカーやカーシェアでもサービスを継続して利用できます。クルマを「所有するもの」から「利用するもの」へとシフトするMaaS(Mobility as a Service)の潮流と完全に整合した設計といえます。

また、見落とされがちなポイントが受信感度の問題です。スマートフォンはその設計上、金属製の車体に囲まれた車内では電波感度が落ちやすい構造です。一方、車両の外部アンテナに直接接続されるコンシューマeSIMは、物理的に有利な位置で5G電波を受信できます。Bluetooth接続を介さないため音声品質の向上も期待でき、これは単なる「便利機能」ではなく、通信インフラとしての質的な向上を意味します。

ポジティブな側面としては、車内で最大10台のデバイスを5G Wi-Fiに接続できる点が挙げられます。遠距離ドライブ中の同乗者の作業環境や、車内エンターテインメントの質が大きく変わるでしょう。さらに、ソフトウェアのOTA(Over-the-Air)アップデートにも5Gの高帯域が活用できるため、ファームウェアの更新速度が向上し、車両機能の継続的な改善にも寄与します。

一方で、潜在的なリスクも直視する必要があります。コネクテッドカーはサイバーセキュリティの観点から新たな攻撃対象になり得ます。セルラーネットワークやWi-Fiホットスポット、OTAアップデートのプロセスなど、外部との接点が増えるほど侵入経路も広がります。位置情報や通話履歴、走行データといった個人情報の扱いについても、今後の規制環境の整備が急務です。実際、EUではすでに自動車メーカーへの個人データ管理に関する罰則事例も出てきており、日本でも同様の議論が避けられない局面が来るでしょう。

長期的な視点では、このNTTドコモとBMWの連携は「通信キャリアと自動車メーカーの垂直統合モデル」のひとつの先行事例です。スマートフォンのSIMと同じ番号・プランをクルマでも使えるという体験は、ユーザーのキャリア乗り換えコストを上げ、通信会社にとっての顧客ロイヤルティ向上にもつながります。クルマが「走るスマートフォン」として位置づけられる時代において、通信キャリアと自動車メーカーの関係は今後さらに深化していくとみられます。

【用語解説】

eSIM(Embedded SIM)
物理的なSIMカードの代わりに、機器の基板に直接組み込まれた電子SIMのこと。遠隔でのプロファイル書き換えが可能なため、キャリアの変更や追加を物理カードなしで行える。スマートウォッチやタブレットでもすでに普及している技術。

コンシューマeSIM
GSMAの「Remote SIM Provisioning」規格に準拠した、個人向け機器に搭載されるeSIM。車両メーカーが管理する法人向けの組み込みeSIMとは異なり、ユーザーが自身の通信プランに紐づけて使用することができる。

DSDA(Dual-SIM-Dual-Active)
2枚のSIM(またはeSIM)を同時にアクティブ状態で並行稼働させる技術。片方が通話中でも、もう片方でデータ通信を継続できる。今回のサービスでは、BMW専用eSIMとコンシューマeSIMを同時に動作させるために使用されている。

OTA(Over-the-Air)アップデート
インターネット経由でソフトウェアやファームウェアを無線更新する仕組み。ディーラーへの入庫なしに車両機能を最新化できるため、コネクテッドカーの重要な特性のひとつである。

MaaS(Mobility as a Service)
交通手段を所有ではなくサービスとして提供・利用するコンセプト。カーシェアや公共交通などを一元的に組み合わせ、ユーザーのニーズに合わせた移動を提供することを目指す。

ワンナンバーサービス
NTTドコモが提供するオプションサービスで、スマートフォンの電話番号・料金プランを別のデバイスでも共有できる仕組み。Apple Watchなどウェアラブル端末での利用実績があり、今回はBMW車両への適用が実現した。

【参考リンク】

NTTドコモ 公式サイト(外部)
NTTドコモの公式サイト。ワンナンバーサービスを含む各種通信サービスの詳細や申込みページを掲載している。

NTTドコモ ワンナンバーサービス(外部)
1つの電話番号をスマートフォンと別デバイスで共有するオプションサービスの公式ページ。クルマ向けの申込み手順も掲載されている。

ビー・エム・ダブリュー株式会社(BMW Japan)(外部)
BMWの日本法人公式サイト。BMW iX・BMW i4をはじめとした車種情報やコネクテッドサービスの詳細を確認できる。

BMWコネクテッド・ドライブ 概要ページ(外部)
BMWが提供するデジタルサービス群の公式解説ページ。テレマティクスからドライビングアシストまで各種サービス内容を網羅している。

ドコモ クルマ向けワンナンバーサービス サービスサイト(外部)
BMW車両でのワンナンバーサービス申込み・利用手順専用のページ。dアカウントとBMW IDの連携方法についても掲載されている。

【参考記事】

BMW Group and Telekom integrate 5G and Personal eSIM networking into a vehicle(BMW Group Press)(外部)
BMWグループとDeutsche Telekomによる公式発表。1997年の車両SIM初搭載からの歴史的文脈とDSDA技術の世界初量産車実装を詳述。ドイツでの月額9.95ユーロ。

T-Mobile drives unlimited 5G to BMWs with $20 per month connected car plan(Fierce Network)(外部)
T-MobileとBMWの提携を報じた業界誌。米国月額20ドルのプランとAT&T・Verizonほか各社の自動車メーカーとの垂直連携競争を伝えている。

Driving Compliance: The Data Protection Risks of Connected Car Technology(Infosecurity Magazine)(外部)
コネクテッドカーのデータプライバシーリスクを解説。VW罰金110万ユーロ、Tesla漏洩100GB超など具体的事例を交えて警鐘を鳴らしている。

Cybersecurity in connected vehicles(UST)(外部)
コネクテッドカーのサイバーセキュリティ動向を詳述。市場規模は2023年の39億ドルから2025年に59億ドルへ拡大予測。100万台超への攻撃が急増中。

【編集部後記】

クルマがスマートフォンと同じ番号を持つ時代が、静かに始まっています。「所有するクルマ」から「自分に紐づくデバイスとしてのクルマ」へ——この変化をどう感じますか?

利便性の裏にあるプライバシーやセキュリティの問題も含め、私たちと一緒に考えていただけると嬉しいです。

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