『Half-Life 2』および『Portal』の共同脚本家で、現在はValveのコントラクターを務めるエリック・ウォルポウは、2026年3月19日配信のMinnMax Showに出演し、ValveでAIツールを調査している少人数のグループが存在することを明らかにした。
ウォルポウ自身もAIを試したと述べたが、現時点でValveは自社のゲームにAI生成コンテンツを組み込んでいない。AIの活用についてはCapcomも同様の姿勢を示しているが、Capcomはすでにその方針を公式に発表している。
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Half-Life 2 and Portal writer Erik Wolpaw comments on Valve and AI use
【編集部解説】
今回の発言を読み解くうえで、まず押さえておきたいのは「発言者は誰か」という点です。エリック・ウォルポウは、『Portal』シリーズや『Half-Life 2』エピソードなど、ゲーム史に残る傑作の脚本を手がけた、業界屈指のゲームライターです。AIに批判的なクリエイターが声明を出したのではなく、実際に自らAIを試し、可能性と限界の両面を冷静に評価した人物の発言である点が重要です。
Eurogamerの記事は事実関係に大きな誤りはありませんが、他メディアの報道と照らし合わせると、いくつかの重要な発言が省略されています。ウォルポウはポッドキャスト内で、AIをコスト削減の手段として使うことには「完全に反対(fully against)」とも明言しており、あくまで「プレイヤー体験の向上」のみを目的とした探求だと強調しました。この点は、業界全体に広がる「AIによる人員削減」への懸念に対する、明確な意思表明として受け止められます。
AIがゲームライティングに与える可能性として、ウォルポウが具体的に言及したのは「リアクティブ・ダイアローグ(reactive dialogue)」、つまりプレイヤーの行動にリアルタイムで反応するキャラクターの台詞生成です。従来のゲームでは、ライターが無数のシナリオを事前に書き起こし、条件分岐(『Left 4 Dead』を例に挙げていました)によって対応していました。AIはこの「想定外の行動への対応」という、従来の手法では埋めきれなかった空白を補える可能性があります。
一方で、彼が指摘した課題も見逃せません。AIは「文脈の逸脱」が起きやすく、ウォルポウは実例として、10世紀中国の五代十国時代を舞台にしたアクションRPG『Where Winds Meet』のAI駆動NPCが、米国ウィスコンシン州ミルウォーキーの存在を知っていた、というエピソードを紹介しました。世界観の一貫性と没入感の維持は、現状のAIにとって依然として大きな壁です。また、AIボイスについても試験したうえで「本物の俳優と比べると格段に劣る」と述べており、テキスト・音声ともに実用化への課題は残ります。さらにコスト面でも、現時点では量産タイトルへの組み込みに見合うほど安価ではないとされています。
この動きは、すでに実際のゲームに応用されています。GameSpotの報道によれば、デベロッパーEmbarkが手がける『The Finals』と『Arc Raiders』では、状況応答型の台詞にAIベースのテキスト読み上げシステムをすでに採用しています。ValveのAI実験はまだ探索段階ですが、業界全体ではすでに「試験」から「実装」へと移行しているタイトルも存在するのです。
なお、ウォルポウはAIというテクノロジーそのものを「写真の発明と原子爆弾を合わせたようなもの」と表現し、創造的な破壊と同時に、文明的な意味での脅威にもなりえると述べています。この発言は、単なる業界論評ではなく、テクノロジーと人間の創造性の関係を深く問い直す視点を内包しており、innovaTopiaが「Tech for Human Evolution」として向き合うべき問いそのものといえます。
【用語解説】
リアクティブ・ダイアローグ(reactive dialogue)
プレイヤーの行動や発言に対して、ゲーム内のキャラクターがリアルタイムで反応する台詞・会話のこと。従来は開発者が無数の選択肢を事前に書き起こす必要があったが、生成AIを用いることで、想定外の行動にも即座に対応できる可能性がある。
生成AI(ジェネレーティブAI / Generative AI)
テキスト・画像・音声・動画などのコンテンツを自律的に生成する人工知能の総称。大量のデータから学習したモデルが、新たなコンテンツをゼロから生み出す。ChatGPTなどが代表例として知られる。
AIスロップ(AI slop)
品質を顧みず大量生成された、粗悪なAI生成コンテンツを指す俗称。ゲーム・アート・文章など幅広い分野で問題視されており、クオリティコントロールなしにAIを乱用した成果物を批判する文脈で使われる。
コントラクター(contractor)
企業の正社員ではなく、特定のプロジェクトや期間に限って契約ベースで業務を行う外部の専門家。ウォルポウはValveの正社員として復帰したのではなく、コントラクターとして関与している。
【参考リンク】
Valve公式サイト(外部)
『Half-Life』『Portal』などの名作を生み出した米国のゲーム開発会社。Steamの運営元でもある。
The Finals公式サイト(Embark Studios)(外部)
スウェーデンEmbark Studios開発の基本無料FPS。AIベースのTTSを状況応答台詞に採用した実例として注目される。
Where Winds Meet公式サイト(外部)
NetEase Games開発の武俠オープンワールドARPG。AI駆動NPCが世界観と無関係な情報を参照した失敗事例として言及された。
MinnMax(The MinnMax Show)(外部)
元Game Informer編集者らが運営する独立系ゲームメディア。毎週木曜配信のポッドキャストが主力コンテンツで業界著名人も出演する。
【参考動画】
The MinnMax Show(2026年3月19日配信)|エリック・ウォルポウ出演回。AI関連の発言は1:09:33付近から始まる。MinnMax公式チャンネルによる一次ソースである。
【参考記事】
Valve Writer Says Some At The Studio Are Testing Out AI Tools(外部)
Kotakuによる詳細レポート。コスト削減目的のAI活用への反対表明など、省略された重要発言を補足している。
Portal writer Erik Wolpaw is “not worried about AI taking over creative writing”(外部)
「AIは写真の発明と原子爆弾を合わせたようなもの」など、ウォルポウの本質的な発言を豊富に引用したPCGamesNの報道。
Valve Is Experimenting With GenAI To Help With Situational Dialogue(外部)
GameSpotによる報道。The FinalsなどがすでにAI TTSを状況応答台詞に導入済みという実装事例を紹介している。
Half-Life & Portal Writer Details How His Team Has Been Using Generative AI For R&D At Valve(外部)
Where Winds MeetのAI NPCが世界観外の情報を参照した失敗事例を紹介。ゲームの舞台表記に誤りあり、要注意。
Erik Wolpaw (Valve writer) discusses how Valve has been using AI internally(外部)
ResetEraのスレッド。コミュニティによる一次情報の補足・考察が集積されており、ポッドキャスト全体の文脈把握に役立つ。
【編集部後記】
AIがゲームの「創造性」を担う日は、まだ遠い——そう感じた方も多いのではないでしょうか。一方で、プレイヤーの行動にリアルタイムで反応するキャラクター、という可能性には、どこかわくわくしませんか。みなさんは、ゲームにAIが関わることをどう受け止めていますか? ぜひ、聞かせてください。

