2026年4月7日、PolymarketはXにて今後数週間以内に取引所の全面的なアップグレードを実施すると発表した。
再構築された取引エンジン、更新されたスマートコントラクト、および新担保トークン「Polymarket USD」(USDCと1対1で裏付け)を導入し、従来のUSDC.eから移行する。同社のCMOは2025年10月にPOLYトークンの計画を認めているが、詳細は現時点で未発表だ。Polymarketはこれまで市場結果の決定にUMAの「楽観的オラクル(Optimistic Oracle)」を活用してきた。
同社は2022年に米国内での事業を停止し、2025年7月にCFTC登録済みの取引所QCEXを買収した。2025年11月25日には、CFTCがDCMに関する修正承認を行っている。現在の企業価値は200億ドル規模と報じられている。
From:
Polymarket Reveals a Full Exchange Upgrade to Take Control of Its Own Trading and Truth
【編集部解説】
今回のアップグレードの本質は、「インフラの刷新」という技術的な話にとどまりません。Polymarketが自社のプラットフォームにおける「取引の仕組み」と「真実の決め方」の両方を、自らの手に取り戻そうとしている――そういう宣言として読むべきニュースです。
まず、技術面の変更から整理しましょう。これまでPolymarketはPolygonチェーン上で動作するブリッジ型ステーブルコイン「USDC.e」を担保として使用してきました。ブリッジ型とは、別のブロックチェーン(この場合はイーサリアム)上のUSDCを、橋渡し(ブリッジ)プロトコルを介してPolygon上で使えるようにしたものです。便利な反面、ブリッジプロトコル自体がハッキングの標的になりやすく、過去にも業界全体で多額の被害が発生してきました。新しい担保トークン「Polymarket USD」はCircleが発行するネイティブUSDCを1対1で裏付けとしており、このブリッジリスクの低減が期待されます。
同時に導入される「CTF Exchange V2」は、取引エンジンの再構築版です。注文処理の高速化、ガス代の削減、スマートコントラクトウォレットへの対応(EIP-1271)などが打ち出されており、より高度な取引ニーズを意識した設計とみられます。これにより、これまでは参入をためらっていたプロのトレーダーや金融機関が、より本格的に流入してくることが期待されます。
より大きな問いは、「真実の管理」をめぐる変化です。現在Polymarketは、市場の決着(例:「選挙でAが勝ったかどうか」)をUMAという外部プロトコルに委ねています。このUMAの「楽観的オラクル」では、UMAトークンの大口保有者が結果に影響を与えられる構造に懸念の声も上がっていました。Polymarketが独自トークン「POLY」を通じてこの機能を内部化すれば、外部依存から脱却できる一方で、結果判定の仕組みを自社側に近づける設計になれば、新たな集中リスクが生じる可能性もあるでしょう。分散型の理念と事業上の管理強化は、常に緊張関係にあります。
規制面では、2025年7月にCFTC登録済みの取引所「QCEX」を約1億1,200万ドルで買収したのが最初の動きです。2025年11月25日には、CFTCによる指定契約市場(DCM)に関する修正承認(Amended Order of Designation)が下りています。いずれにせよ、2022年に140万ドルの制裁金を払って米国市場から撤退を余儀なくされた同社が、今や規制当局と正面から向き合う形で米国に戻ってきたという事実は、業界全体にとって重要なシグナルです。
長期的な視点で見ると、今回の動きはPolymarketが「暗号資産ネイティブのギャンブルサイト」から「金融インフラ」へと自己定義を変えようとしているプロセスの一部です。NYSE親会社のIntercontinental Exchange(ICE)は、2025年10月に初回の10億ドル投資を行い、2026年3月にはさらに6億ドルの追加投資を発表しました。こうした動きは、伝統的な金融インフラ企業がPolymarketを重要な市場基盤候補として見始めていることを示しています。予測市場のデータが、株価や債券利回りと並んで機関投資家の意思決定に使われる未来は、以前より現実味を増しています。
リスクとしては、スマートコントラクトの移行に伴うバグの可能性、移行期間中の流動性の断絶、そしてPOLYトークンのガバナンス設計次第では新たな利益相反が生まれる点が挙げられます。また、Polymarket USDがCircleのネイティブUSDCと同水準の第三者監査を受けるかどうかも、現時点では明確にされていません。
【用語解説】
ブリッジ型ステーブルコイン(USDC.e)
あるブロックチェーン上の資産を、別のブロックチェーンで使えるよう橋渡し(ブリッジ)する仕組みで発行されたステーブルコインだ。ブリッジプロトコル自体がハッキングの標的になりやすく、過去に業界全体で多額の被害が発生してきた。
楽観的オラクル(Optimistic Oracle)
市場の結果を決定するためのシステム。UMAが開発した仕組みで、誰でも結果を提案でき、一定期間内に異議がなければそのまま確定する。紛争が起きた場合はUMAトークン保有者の投票で解決される。
CTF Exchange V2
Polymarketが今回導入する新しいスマートコントラクトの名称。注文処理の高速化、ガス代の削減、スマートコントラクトウォレットへの対応(EIP-1271)などが実装されている。
POLYトークン
Polymarketが計画している独自のガバナンストークンだ。2025年10月にCMOが存在を認めたが、詳細・発行時期は未発表。将来的には紛争解決や市場の管理など、プラットフォームのガバナンスに活用される可能性が示唆されている。
ガス代
ブロックチェーン上でトランザクションを実行する際に支払う手数料だ。ネットワークの混雑度によって変動し、高頻度取引においては無視できないコスト要因となる。CTF Exchange V2ではこの削減が主要な改善点の一つとされている。
EIP-1271
イーサリアムの標準規格の一つで、スマートコントラクトウォレットが取引に署名できるようにする仕様。
指定契約市場(DCM:Designated Contract Market)
CFTCが認定する米国の規制下先物取引所の区分だ。CMEグループやICEと同等の監視・清算・報告義務が課される。Polymarketをめぐっては、2025年11月25日にCFTCがDCMに関する修正承認を行った。
【参考リンク】
Polymarket(外部)
世界最大の予測市場プラットフォーム。政治・経済・スポーツなどのテーマについて、ユーザーがUSDCで結果を予測・取引できる。Polygon上のスマートコントラクトで動作する。
Circle(外部)
USDCを発行する米国の金融テクノロジー企業。USDCは米ドルと1対1で裏付けられたステーブルコインであり、Polymarket USDの担保となるネイティブUSDCの発行元。2026年2月にPolymarketとの提携を発表した。
UMA Protocol(外部)
分散型金融(DeFi)向けの「楽観的オラクル」を提供するプロトコル。Polymarketはこれまで同社のオラクルを市場結果の決定に活用してきた。
Intercontinental Exchange(ICE)(外部)
ニューヨーク証券取引所(NYSE)の親会社であり、世界有数の金融市場インフラ企業。2025年10月に10億ドル、2026年3月にさらに6億ドルをPolymarketに追加投資し、最大20億ドルの投資枠組みを完了している。
Polygon(外部)
Polymarketが稼働するブロックチェーンネットワーク。イーサリアムのLayer 2として設計され、低いガス代と高い処理速度を特長とする。
CFTC(米国商品先物取引委員会)(外部)
米国の先物・デリバティブ市場を監督する連邦規制機関。Polymarketは2022年に140万ドルの制裁金を支払い、その後2025年11月25日にはDCMに関する修正承認を受けた。
【参考記事】
Intercontinental Exchange Announces New $600 Million Investment in Polymarket(外部)
ICE公式プレスリリース(2026年3月27日)。2025年10月の10億ドルに続く6億ドルの追加投資を完了してことについて記載している。最終バリュエーションは資金調達ラウンド完了後に開示予定としている。
Polymarket Announces CTF Exchange V2 in Major Protocol Upgrade(外部)
CTF Exchange V2の技術的な内容を詳細に解説した記事。最適化された注文構造、EIP-1271対応、ガス代削減、Polymarket USDへの移行など、今回のアップグレードの全体像を網羅している。
NYSE Owner ICE Pours Another $600M Into Polymarket(外部)
ICEによる6億ドル追加投資の背景と意義を分析した記事。企業価値の急拡大の経緯や、2026年3月30日からの手数料導入、MLBとの最大3億ドル規模のパートナーシップなどを詳述している。
Polymarket Receives CFTC Approval of Amended Order of Designation(外部)
2025年11月25日付のPolymarket公式プレスリリース。CFTCがDCMに関する修正承認を行ったことを伝える一次情報で、CEOシェイン・コプランのコメントを含む。
Polymarket US Launch 2025 | CFTC Approval Complete Guide(外部)
米国再参入の経緯を時系列で整理した記事。2025年7月のQCEX買収、11月25日のAmended Order of Designation、12月3日のiOSアプリ公開までの流れをまとめている。
Polymarket Launches Native Stablecoin and Faster Exchange Engine(外部)
Polymarket USDの技術的意義と移行リスクを多角的に論じた記事。CircleとのUSDCインフラ連携の背景、CFTC登録との整合性、スマートコントラクト移行に伴う潜在的リスクについても言及している。
ICE/Polymarket: The Investment Is About Data, Not Prediction Markets(外部)
ICEの投資本質を「金融データインフラ」として読み解く独自の視点が参考になった記事。「Polymarket Signals and Sentiment」ツールへのデータ統合の経緯を詳述している。
【編集部後記】
「予測市場が、真実の判定まで自社で担う」という構造は、私たちの情報との関わり方に、静かな変化をもたらすかもしれません。あなたはPolymarketのような場所を、どんな目的で使ってみたいと思いますか?あるいは、少し怖いと感じる部分はあるでしょうか。ぜひ、周囲の方と話題を共有してみてください。

