大阪府は2026年(令和8年)7月1日、先駆的金融市場等形成支援事業補助金の公募を開始した。
ブロックチェーンやAIなどの技術を用いた新たな金融サービスの実装や市場形成に向け、大阪府内で行う実証実験が対象で、府民または府内事業者に向けた取組みであること、実証実験後に府内で事業展開する具体的計画を有することが条件となる。補助対象者はフィンテック事業者や、これと連携する金融事業者などである。補助金額は1件あたり上限1000万円、補助率は補助対象経費の2分の1以内。補助事業の実施期間は交付決定日から2027年(令和9年)3月31日まで。書類の受付期間は7月1日午後2時から7月31日午後6時まで。提出先は大阪府政策企画部戦略調整局国際金融都市推進チームである。採択結果は2026年8月下旬に発表予定である。
From: 大阪府先駆的金融市場等形成支援事業補助金
【編集部解説】
まず押さえておきたいのは、この補助金が単独の施策ではなく、大阪府と大阪市が共同で進める「国際金融都市OSAKA戦略」の一手だという点です。大阪市は大阪府や経済界とともに、「金融をテコに発展するグローバル都市」「金融のフロントランナー都市」という2つの都市像を掲げています。今回の制度は、その旗印を府内の実務レベルへ落とし込む「入口」にあたります。
制度の設計思想は、名称以上に踏み込んでいます。対象はブロックチェーンやAIを用いた新しい金融サービスの実証実験ですが、応募の条件として、実験後に大阪府内で事業を展開する具体的な計画まで求めています。つまり大阪は、実証の場を貸すだけでなく、その先の事業拠点まで自地域に根づかせようとしているわけです。
ここで見落とされがちなのが「AI」の存在です。一部の暗号資産・Web3系メディアでは、この制度がブロックチェーン文脈で報じられがちですが、制度の対象にはAIを使った金融サービスも明確に含まれます。AIによる与信審査、保険業務を担う音声エージェント、資産運用のロボアドバイザーなど、暗号資産に限らない広い射程を持つ設計になっています。
この動きを理解するには、東京都との対比が近道です。東京都は2026年4月17日、円建てステーブルコインの社会実装を支援する補助金の公募を開始し、1件あたり最大4,000万円、補助対象経費の3分の2以内を交付するとしています。募集期間は同年6月30日まででした。実際、暗号資産系メディアも大阪の制度を、東京都のステーブルコイン補助金に続く動きとして位置づけています。
両者を並べると、性格の違いが浮かびます。東京は「円建てステーブルコイン」という技術を絞り、金額も大きい。対して大阪は、ブロックチェーンとAIを広く対象に取り、上限1000万円・補助率2分の1と規模は控えめです。特定領域を深掘りする東京と、技術を限定せず裾野を広げる大阪、という対照的な賭け方が読み取れます。
制度の土台には、法整備の進展があります。2023年6月の改正資金決済法の施行により、法定通貨連動型のステーブルコインなどが「電子決済手段」として位置づけられ、銀行・資金移動業者・信託会社などが関わる発行の枠組みが整えられました。こうした法制度の整備を背景に、自治体による社会実装の後押しも進み始めています。
一方で、冷静に見るべき点もあります。上限1000万円・補助率2分の1という設計は、裏を返せば同額以上の自己負担が前提です。金額は小規模な実証や初期段階の検証に向いた規模で、大型実装をまるごと賄うものではありません。応募期間が約1カ月、事業期間も2027年3月末までと短く、腰を据えた実証には期間面で制約があると見る事業者もいそうです。
規制との関係も誤解を避けたいところです。この補助金は資金を出す仕組みであって、規制を一時的に外す「サンドボックス」ではありません。実証実験であっても、資金決済法や金融商品取引法といった既存ルールは当然かかります。お金がつくことと、法的に自由に試せることは別物だという点は、応募を考える事業者ほど注意が要ります。
それでも、この施策が持つ意味は小さくありません。大阪府・大阪市は「国際金融都市OSAKA」の取り組みを第二期(セカンドステージ)へと移し、誘致件数の拡大にとどまらず、地域経済への具体的なビジネスインパクトの創出を重視しています。誘致の目標として、アジア・欧州・中東を中心に、海外から一次進出する金融系外国企業を3〜5社程度掲げています。今回の補助金は、その受け皿となる府内エコシステムを厚くする布石と位置づけられます。
長期的な視点で捉えるなら、注目すべきは金額そのものより、東京と大阪が別々の設計思想で競い始めた構図です。国が制度の土台を整え、自治体が実装の現場を奪い合う――この都市間競争は、日本のデジタル金融をどの都市が主導するかという主導権争いの、静かな号砲だと私たちは考えます。次に見るべきは、8月下旬に発表される採択結果に、どんな顔ぶれと領域が並ぶか。そこに、大阪が描く未来の輪郭が現れます。
【用語解説】
ブロックチェーン
取引データを鎖のようにつなげ、多数のコンピューターで分散管理する技術である。改ざんが極めて難しく、設計によっては管理者を介さずに取引や送金を行える仕組みとしても使われる。
AI(人工知能)
大量のデータから規則性を学び、判断や予測、生成を行う技術の総称である。金融分野では与信審査や不正検知、資産運用の助言などに使われる。
フィンテック(FinTech)
Finance(金融)とTechnology(技術)を組み合わせた造語である。ITを駆使して決済・融資・投資などの金融サービスを刷新する事業や領域を指す。
実証実験(PoC)
新しい技術やサービスが実際に機能するかを、限定した範囲で試す取り組みである。本格導入の前段階として、有効性や課題を検証するために行われる。
ステーブルコイン
法定通貨などと価値が連動するよう設計されたデジタル資産である。暗号資産に比べ価格変動が小さく、迅速・低コストな決済や送金の手段として期待される。
電子決済手段
2023年6月施行の改正資金決済法で新設された法的区分である。円などに連動する法定通貨連動型のステーブルコインがこれに位置づけられ、発行主体や利用者保護のルールが定められた。
補助率
補助対象となる経費のうち、行政が負担する割合である。大阪府の制度は2分の1以内、東京都のステーブルコイン制度は3分の2以内と設定されている。
金融商品取引法
株式や投資信託など金融商品の取引ルールを定めた法律である。実証実験であっても、扱うサービス次第でこの法律や資金決済法の規制対象となる。
規制のサンドボックス
新技術を試すために、既存規制を一時的に緩和・免除する制度である。今回の補助金は資金を支援する仕組みであり、規制そのものを外すサンドボックスとは異なる。
ロボアドバイザー
AIが利用者の運用方針に応じて、資産配分の提案や自動運用を行うサービスである。フィンテックの代表例のひとつとされる。
【参考リンク】
国際金融都市OSAKA(Global Financial City OSAKA)(外部)
国際金融都市OSAKA推進委員会の公式ポータル。進出企業やイベント、インセンティブ情報を発信している。
大阪府「国際金融都市OSAKAの実現に向けた取組み」(外部)
補助金の上位施策である国際金融都市OSAKA戦略の全体像を示すページ。誘致事業や税制特例など関連施策を横断的に確認できる。
大阪市 報道発表資料「大阪府先駆的金融市場等形成支援事業補助金の公募開始について」(外部)
本補助金が大阪府・大阪市の共同事業であることを示す大阪市側の発表。めざす国際金融都市像も併記されている。
東京都産業労働局「ステーブルコイン社会実装促進事業補助金」(外部)
比較対象として触れた東京都の制度ページ。円建てステーブルコインの補助対象や上限額、募集要領を掲載している。
【参考記事】
東京都が円建てステーブルコインの普及支援を開始、最大4,000万円の補助金公募(ビジネス+IT)(外部)
東京都が2026年4月に開始した制度を報じる記事。最大4,000万円・補助率3分の2、募集は6月30日まで、改正資金決済法の経緯を数値で整理する。
大阪府がAI・Web3実証実験を支援、東京都に続く動き(Cryptonews 日本語版)(外部)
本補助金を報じる記事。上限1,000万円、受付は7月31日までといった要点に加え、東京都の制度に続く都市間競争の動きとして位置づける。
東京都、円建てステーブルコインの社会実装支援へ。最大4000万円補助(あたらしい経済/Yahoo!ニュース)(外部)
東京都の制度概要を伝える記事。最大4,000万円・補助率3分の2、募集4月17日〜6月30日、発行自体は補助対象外など大阪との違いがわかる。
「令和8年度国際金融都市OSAKA金融系外国企業等誘致事業」の最優秀提案事業者として採択(PR TIMES)(外部)
国際金融都市OSAKAが第二期へ移行し、誘致件数だけでなく地域経済への具体的インパクト創出を重視する方針を示した記事。補助金の背景を補う。
【編集部後記】
1000万円という金額だけを見れば、地味なニュースに映るかもしれません。けれど私たちが目を凝らしているのは、金額の大小ではなく、東京と大阪がそれぞれ異なる設計思想で「未来の金融をどこで育てるか」を競い始めた、その構図のほうです。
実証実験は、未来に触れるための最初の一歩です。8月下旬の採択結果に並ぶ顔ぶれは、日本のデジタル金融が次にどこへ向かうのかを映す小さな地図になります。私たちinnovaTopiaは、その続きを引き続き見届けていきます。
