OpenAIは2026年6月、Codexの利用データを分析したレポート「The Shift to Agentic AI: Evidence from Codex」を公表した。ドリュー・ジョンストンらが、外部の個人ユーザー、組織ユーザー、OpenAI従業員の3集団を比較した。Codexの週次アクティブユーザーは2026年1月1日から6月1日に5倍以上に増加した。
6月11日時点で、CodexがChatGPTとCodex全体のアウトプットトークンに占める割合は、OpenAI従業員で99.8%、組織ユーザーで63.3%、個人ユーザーで16.5%だった。組織アカウントの平均的エンジニアは26.8%をCodexで生成し、年初の5倍となった。8時間以上を要すると推定されるタスクを依頼する個人ユーザーの割合は2.1%から25.6%へ増加した。スキルを利用するユーザーは26.6%で、OpenAI従業員では96.2%だった。法務職のOpenAI従業員の月間アウトプットトークン中央値は2025年11月の13倍、研究職は50倍超となった。
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The Shift to Agentic AI: Evidence from Codex
【編集部解説】
OpenAIが自社の研究組織「Economic Research」名義で公表したこのレポートは、AIの使われ方が「会話」から「委任」へと移る転換点を、自社の内部データという稀有な観測点から描き出したものです。なぜ今これを取り上げるのか——それは、私たちが日々触れているChatGPTのようなチャット型AIが、すでに次の段階へと移行を始めている証拠が、初めて大規模な数字で可視化されたからにほかなりません。
まず押さえておきたいのは「エージェント型(agentic)」という言葉の意味です。従来のチャットボットは、質問に答え、文章を生成するところで役割が終わります。一方エージェント型AIは、ファイルを読み、コマンドを実行し、成果物そのものを作り変える——つまり人間に代わって「作業を遂行する」存在です。レポートはこの違いを、利用者が何を「委任」しているかという観点で測っています。
数字の捉え方には注意が必要です。OpenAI社内でCodexがアウトプットトークンの99.8%を占めるという数字は強烈ですが、これはあくまで同社従業員という極めて特殊な集団のものです。外部の組織ユーザーでは63.3%、個人ユーザーに至っては16.5%にとどまります。OpenAI自身も「典型的な組織を代表しない」と明記しており、社内の数字は「摩擦が消えた未来の姿」を映す実験室として読むのが妥当でしょう。
非開発者への広がりは、このレポートの核心です。OpenAIの公式ブログ「How agents are transforming work」によれば、2025年8月以降の非開発者ユーザーは個人で137倍、組織で189倍に増えたとされます。法務や採用といった、コードとは無縁に見えた職種でもCodexが主要ツールになったという指摘は、エンジニアリングの外側でAIエージェントが何ができるかを示す好例です。
ここで一段、批判的な視点も挟んでおきます。The RegisterやThe Next Webといった海外メディアは、本レポートの全データがOpenAIの自己申告であり、第三者検証を経ていない点を指摘しています。The Registerは、法務チームのトークン量が13倍に増えた一方、同社に対する米連邦訴訟は同期間で35件から39件(約11%増)しか増えていないと皮肉交じりに報じました。トークン生成量という「投入量」の指標が、必ずしも「成果の量」や「品質向上」を意味しないという論点は、読者が冷静に受け止めるべき重要な留保です。
それでも、この変化が現実であることは複数のメディアが認めています。私たちが注目したいのは、レポートが引く歴史的アナロジーです。著者らは、蒸気機関から電力への移行を研究したデイヴィッド(1990年)を引用し、技術の真価は「既存の作業に置き換える」段階ではなく「作業そのものを再設計する」段階で発揮されると論じています。エージェント型AIが工場の再設計のような巨額の固定費を必要としない分、その普及は過去の汎用技術より速いかもしれない——この見立ては示唆に富みます。
技術が可能にするものは、すでに輪郭を見せています。10%超のユーザーが週に3つ以上のエージェントを並行管理し、OpenAI内部では99パーセンタイルの従業員が1日あたり約71時間分のエージェント作業を走らせています。人間が複数のエージェントを束ねて「監督」する働き方は、個人が手を動かす働き方とは質的に別物です。
長期的な影響として見逃せないのが、仕事の再編成です。レポートは、ルーティン的な実行作業の重要性が下がり、判断・監督・調整・レビューの比重が増すと予測しています。チーム構成、採用ニーズ、キャリアの階段、スキル水準ごとの仕事の配分——これらが組み替えられる可能性に踏み込んでいる点で、本レポートは単なる製品宣伝を超えた政策的射程を持ちます。
規制やガバナンスの観点では、エージェントが自律的に長時間動くほど、その出力の検証コストや責任の所在が問われます。レポート自身も、人間によるレビュープロセスの整備が価値実現の前提だと繰り返し強調しています。「速く作れること」と「正しく仕上がること」の間には依然ギャップがあり、そこを埋める組織能力こそが次の競争軸になる、というのが私たちの読みです。
【用語解説】
エージェント型AI(agentic AI)
ユーザーに代わって自律的に行動するAI。質問に答えて終わる会話型と異なり、ファイルを読み、コマンドを実行し、成果物を作り変えるなど、複数ステップの作業を委任して実行できる点が特徴である。
Codex
OpenAIのエージェント型コーディング・業務プラットフォーム。2025年4月に初リリースされ、当初はソフトウェア開発向けだったが、文書作成やデータ分析など非コーディング業務にも利用が広がっている。
アウトプットトークン(output tokens)
AIモデルが生成する情報の最小単位。本レポートでは利用の「強度」を測る指標として、アクティブユーザー数よりもトークン量を重視している。ただし投入量であり、成果の量や品質とは必ずしも一致しない。
スキル(skills)/プラグイン(plugins)
反復作業を再利用可能な形に体系化する仕組み。スキルは作業手順を規定する指示セット、プラグインはスキルや外部ツール統合をまとめた配布単位である。チームや組織間で共有でき、ワークフローの定型化を助ける。
並行度(concurrency)
ユーザーが複数のCodexエージェントを同時に走らせる度合い。人間がエージェントのチームを束ねて監督する働き方への移行を測る指標として用いられる。
外延的margin/内包的margin(extensive/intensive margin)
経済分析の用語。前者は「そもそも使うかどうか」、後者は「使う人がどれだけ深く使うか」を指す。本レポートは両者を分けて導入の実態を測っている。
汎用技術(general-purpose technology)
経済全体に波及し、生産様式そのものを変える基盤技術。蒸気機関や電力が代表例で、レポートはエージェント型AIをこの系譜に位置づけている。
ハーネス(harness)
AIモデルの周囲を取り囲み、ツールの使い方・記憶・ガードレールを制御する仕組み一式。Codex製品責任者ティボー・ソティオーは「エージェントはモデルとハーネスで構成される」と説明している。
【参考リンク】
OpenAI公式レポート「How agents are transforming work」(外部)
本レポートを紹介するOpenAI公式ブログ。非開発者の利用が個人で137倍に増えたなど、論文の要点を図解とともに解説している。
Codex(OpenAI公式製品ページ)(外部)
Codexの製品紹介ページ。並行作業を担うCodexアプリ、スキル、自動化(Automations)機能など、エージェント型コーディングの全体像を確認できる。
Codex Developers(開発者向けドキュメント)(外部)
スキルの作り方、AGENTS.mdによる設定、MCP連携など、Codexを実務で使うための公式技術ドキュメントが集約されている。
OpenAI(企業トップページ)(外部)
ChatGPTやCodexを開発するAI企業の公式サイト。製品発表や研究レポートの一次情報が掲載される。
【参考記事】
Exclusive: Codex agents are inching into the mainstream(Axios)(外部)
OpenAI・コロンビア大・デューク大・ペンシルベニア大の共同レポートを紹介。トークン比でCodexの占有率が従業員99.8%、組織63%、個人16.5%である点を中核に報じる。
OpenAI says employees moving beyond chat to agents(The Register)(外部)
社内導入率が約40%から97.9%へ、外部組織17.3%、個人0.7%と提示。法務職のトークン13倍と訴訟件数の対比から、量と成果の不一致を指摘する。
OpenAI says 98% of its employees now use Codex agents, but all the data is self-reported(The Next Web)(外部)
非開発者利用が個人137倍・組織189倍に伸びた点を紹介しつつ、全データが自己申告で第三者検証を欠く点を批判している。
How agents are transforming work(OpenAI公式ブログ)(外部)
本レポートの公式紹介ブログ。非開発者利用の倍率(個人137倍・組織189倍・社内12倍)の一次出典にあたる。
OpenAI launches new Codex tools for white-collar work(TechCrunch)(外部)
6月2日の「Codex for every role」発表を報道。週次5百万人超、知識労働者が約20%を占めること、Sites機能や連携先に言及する。
OpenAI reports Codex usage is surging(Fortune)(外部)
Codex製品責任者ティボー・ソティオーへの取材記事。非技術職への展開戦略と、Cisco・Nvidia・楽天などの導入事例を伝える。
【編集部後記】
このレポートを読んで、私たち編集部がいちばん考え込んだのは「自分の仕事のどこを”任せられる”だろう」という問いでした。コードを書く人だけの話ではなく、文章をまとめる、データを整える、連絡を調整する——そんな日々の作業が委任の対象になりつつあります。
みなさんなら、AIエージェントに最初に手放したい作業は何でしょうか。逆に、これだけは自分の手元に置いておきたい、と感じる部分はありますか。「速く作れること」と「正しく仕上がること」の間にある手応えを、一緒に確かめていけたら嬉しいです。