CLARITY Act、第604条と倫理条項の合意崩壊で上院採決の道狭まる

CLARITY Act、第604条と倫理条項の合意崩壊で上院採決の道狭まる

Digital Asset Market Clarity Act(H.R. 3633)の倫理条項をめぐる超党派の合意が、2026年6月11日に崩壊した。

共和党とホワイトハウスが、州司法長官による連邦職員への倫理規則の執行を認める文言を削除し、連邦司法長官のみの執行権限とした案に対し、キアステン・ジリブランド、ルベン・ガレゴ両上院議員ら民主党が反発し、協議は振り出しに戻った。

上院は6月26日に休会し7月13日まで戻らないため、ホワイトハウスの7月4日成立目標を実現するには、上院での早期採決に加え、下院との文言調整や大統領署名までを極めて短期間で終える必要がある。法案はフィリバスター突破に60票を要する。

同法案は2025年7月に下院を294対134で通過、5月14日に上院銀行委員会を15対9で通過し、6月1日に上院立法カレンダーに掲載された。成立すれば監督権限をSECとCFTCに分割する。Solana Policy Institute Presidentのクリスティン・スミスは第604条の維持を求めている。

From: 文献リンクCLARITY Act July 4 Target at Risk After Ethics Clause Deal Collapses

【編集部解説】

今回のニュースは、表面的には「法案成立のスケジュールが間に合うかどうか」という政治日程の話に見えます。けれども、その奥には、暗号資産という技術を国家がどう扱うのかという、より根の深い論点が二つ折り重なっています。私たちがいまこの動きを追うのは、ここで決まる線引きが、これから世界中の開発者やユーザーが立つ「土俵のルール」そのものになるからです。

まず、CLARITY Act(デジタル資産市場明確化法)が何をする法律なのかを押さえておきます。この法案の核心は、デジタル資産の監督権限を、証券を扱うSECと、商品先物を扱うCFTCのどちらが担うのかを明確に切り分けることにあります(実際には銀行規制当局やステーブルコインの扱いも絡むため、きれいに二分されるわけではありません)。これまで米国では、ある暗号資産が「証券」なのか「商品」なのかが曖昧なまま、当局の摘発によって事後的に線引きされてきました。ルミス議員の言う「明確な役割分担」とは、この長年のグレーゾーンに制度上の地図を引く、という意味合いです。

今回つまずいた「倫理条項」は、この本筋とは別のところで火がついた論点です。複数の媒体によれば、問題になったのは、倫理規則の不執行を理由に州司法長官が司法省(DOJ)を提訴できる、とする執行権限でした。これを共和党とホワイトハウスが取り下げたと報じられています。なぜこの一文がこれほど揉めるのか。背景には、現職大統領であるトランプ氏の一族が暗号資産事業から大きな利益を得ているという構図があります。BeInCryptoは6月11日時点の報道で、トランプ氏一族の暗号資産事業からの収益を推定23億ドル(約3450億円、1ドル=150円換算)と伝えています(いずれも推計値です)。つまりこの条項は、規制を作る側の利益相反をどう縛るか、という生々しい政治問題を内包しているのです。

民主党側がこだわるのはこの点だと報じられています。大統領から独立した州レベルの執行主体である州司法長官を監視役から外し、連邦司法長官(=大統領が任命する立場)だけに執行を委ねる案では、肝心の歯止めが効かないのではないか、という懸念が反発の根にあるとされます。

そしてもう一つ見逃せないのが第604条(Section 604)です。これは2026年1月にルミス議員とワイデン議員が提出した「ブロックチェーン規制確実化法(BRCA)」を取り込んだ条項で、ユーザーの資金を預からない非カストディアルな開発者、バリデーター、オープンソースの提供者を、銀行や取引所と同じ「送金業者(マネー・トランスミッター)」として扱わない、と定めるものです。

これがなぜ重要か。コードを書いて公開しただけの開発者が送金業者扱いされれば、登録義務などの重い規制が一個人にのしかかりかねません。SEC委員のヘスター・パース氏は、オープンソースのコード公開は憲法修正第1条が守る「表現」に近いと述べたと報じられており、Solana共同創業者のアナトリー・ヤコベンコ氏を含む60人超の業界関係者が、保護維持を求める書簡に署名したと伝えられています。これは「誰が責任を負う主体なのか」という、技術の自由と説明責任のバランスを問う論点です。

成立を阻む手続き上のハードルも具体的に理解しておきましょう。上院では議事妨害(フィリバスター)を突破するために60票が必要で、これは多数派だけでは届かず、相手陣営の協力を要する高い壁です。さらに、仮に上院を通っても、内容が下院可決版と食い違っているため両院協議が待っています。市場もこの難しさを織り込み始めており、BeInCryptoが6月11日時点で報じたところによれば、予測市場Polymarketでの2026年内成立の確率は、1か月前の74%付近から48%付近まで下がっています(予測市場の数値は時点によって変動します)。

長期的な視点で見ると、この法案の帰趨は「米国がブロックチェーン開発の拠点であり続けるか」という問いに直結します。Solana Policy Institute Presidentのスミス氏が繰り返し警告するのは、保護条項が弱まれば開発者と技術が国外へ流出するリスクです。ルミス議員が「今年逃せば次は2030年ごろ」と語ったように、政治の窓が閉じれば、空白の数年間に主導権が他国へ移る可能性は現実味を帯びます。

ポジティブに捉えれば、ルールが定まることで企業も開発者も腰を据えて長期投資ができるようになります。一方でリスクは、急いで通すことを優先するあまり、倫理の歯止めや開発者保護といった「中身」が削られたまま成立してしまう展開です。速さと質のどちらを取るのか——7月4日という象徴的な期限の裏で問われているのは、結局のところその一点だと言えるでしょう。

【用語解説】

州司法長官と連邦司法長官
州司法長官は各州の法執行を担う役職で、多くの州で大統領から独立した立場にある。連邦司法長官は連邦政府の法務トップで、大統領が任命する。今回は、執行権限をどちらに持たせるかが対立点となり、より独立性が高いとされる州側の権限が外された点に民主党が反発したと報じられている。

非カストディアル
ユーザーの資産(秘密鍵)を第三者が預からず、本人が自分で管理する方式。預かり型(カストディアル)と対になる概念で、開発者やウォレット提供者が資金を握らない点が規制上の争点となる。

バリデーター
ブロックチェーン上で取引を検証し、ネットワークを維持する参加者。Solanaなどのネットワークを支える基盤的な役割を担う。

修正第1条(米国憲法)
言論・表現の自由を保障する条項。オープンソースのコード公開を「保護される表現」とみなせるかが、開発者規制の議論で参照されている。

【参考リンク】

Solana Policy Institute(外部)
分散型ネットワークと開発者の法的確実性を訴える非営利団体。Presidentはクリスティン・スミス氏で、第604条の維持を求めている。

U.S. Securities and Exchange Commission(SEC)(外部)
米国の証券市場を監督する連邦機関。本法案ではデジタル資産のうち「証券」に当たる領域の監督を担う想定。

U.S. Commodity Futures Trading Commission(CFTC)(外部)
米国の商品先物・デリバティブ市場を監督する連邦機関。本法案では「商品」に当たる領域を担う想定。

Polymarket(外部)
出来事の結果に賭けて将来を予測する市場プラットフォーム。本件では法案の年内成立確率が指標として参照された。

Solana(外部)
高速・低コストを特徴とする公開ブロックチェーン。本法案の行方がエコシステム全体の事業環境に直結する。

【参考記事】

Clarity Act Stumbles Over 2 Hurdles on Path to Senate Vote(BeInCrypto)(外部)
Polymarketの年内成立確率が74%から約48%へ低下、トランプ氏一族の暗号資産収益を推定23億ドルと報じる。

CLARITY Act July 4 Deadline Dead as Ethics and Section 604 Talks Collapse(cryptonews.com)(外部)
倫理条項と第604条の交渉が同時難航。60票・両院調整・署名が要り7月4日成立は困難との見方を示す。

Solana Institute CEO Pushes Senate to Pass CLARITY Act With Open-Source Protections(cryptonews.com)(外部)
第604条と第601条の意義を解説。60人超の業界関係者が開発者保護を求め署名したことを伝える。

CLARITY Act Stumbles Over Two Major Hurdles on Path to Senate Floor Vote(Coinspeaker)(外部)
合意難航を日程の遅れでなく連立の構造的脆さと分析。二つの弱点が同時に表面化した危うさを指摘する。

Solana Institute CEO says CLARITY Act must shield open-source developers(Cointelegraph / TradingView)(外部)
スミス氏の主張とパース委員の発言を結ぶ。コード公開は修正第1条が守る表現に近いと整理する。

Chairman Scott, Senate Banking Committee Advance CLARITY Act(米上院銀行委員会)(外部)
委員会が2026年5月14日に15対9で法案を可決したことを伝える公式発表。票数確認の一次情報。

Solana Policy Institute Welcomes Kristin Smith as President(Solana Policy Institute)(外部)
スミス氏がPresidentに就任、CEOは創設者ホワイトハウス=レヴィン氏と公式に明記。肩書き訂正の一次情報。

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【編集部後記】

遠い米国の法案の話に見えて、これは「コードを書く人をどう扱うか」という、私たち自身にも返ってくる問いを含んでいます。資産を預からない開発者まで金融業者と同じ規制で縛るべきか——もしあなたが何かを作る側だったら、どこに線を引いてほしいと感じるでしょうか。答えはきっと一つではありません。みなさんが日々触れている技術の「土俵のルール」がいま定まりつつあること、その手応えを一緒に追いかけていけたら嬉しいです。

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