日鉄ソリューションズ株式会社(NSSOL)とN.Avenue株式会社は、2026年6月30日、両社が共同で事務局を務める「暗号資産インデックス協議会」(座長:森下哲朗 上智大学法学部教授)の報告書を公表した。
報告書は、国内暗号資産ETFの組成等に必要となる、日本円建て暗号資産インデックスの算出に向けた議論の成果をまとめたものである。2024年1月に米国で現物ビットコインETFが承認され、運用資産残高が1年間で1000億ドルに迫る規模まで拡大したこと、日本国内で規制の根拠が資金決済法から金融商品取引法へ移行しつつあることが背景にある。
協議会は2025年に設立され、2025年11月から2026年5月にかけて全6回開催された。両社は2026年6月からBTC・ETHのテスト算出を開始し、2027年1月にシステム接続・配信開始を予定している。
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国内暗号資産ETFの実現へ、暗号資産インデックス協議会の報告書を公表|プレスルーム|日鉄ソリューションズ
【編集部解説】
このニュースは、一見すると地味な「報告書の公表」にすぎません。しかし日本の暗号資産市場に「ものさし」を据える動きだという見方もできます。ETFという商品そのものではなく、その値動きを測る基準(インデックス)を先に整えようとする点に、この発表の本質があります。
なぜ「円建て」でなければならないのでしょうか。暗号資産は世界中の取引所で24時間取引され、同じビットコインでも市場ごとに価格が微妙に異なります。日本では海外相場より高値で取引される「ジャパンプレミアム」が生じやすいとされ、報告書の観測期間でも海外指標に対し平均8〜14bps(ベーシスポイント)のプレミアム傾向が確認されています。海外のドル建て指数を為替換算して流用するだけでは、この国内特有の需給がこぼれ落ちてしまいます。国産のベンチマークは、その歪みを織り込んだ「日本の正価」を映す装置なのです。
「トラッキングエラー」という言葉も補足しておきましょう。ETFは連動を目指す指数からどれだけズレたかで運用の巧拙が測られます。土台となる指数が日本市場の実態とずれていれば、そのETFは出発点から狂った地図を持たされることになります。信頼できる円建て指数は、いわば正確な地図の作成に相当します。
タイミングも見逃せません。日本では暗号資産の根拠法を資金決済法から金融商品取引法へ移す改正案が、2026年4月10日にすでに国会へ提出されています。成立すれば、施行時期は公布後の政令等で定められる見込みで、2027年中の施行が想定されるとの見方もあります。税制も、総合課税(最高55%)から株式並みの申告分離課税(税率20%、正確には20.315%)へ移行する方向が令和8年度税制改正大綱で示され、金商法改正の施行を条件に適用される見通しです。金融庁は暗号資産を所管する部署を2026年夏に「課」へ格上げする組織再編も予定していると報じられています。制度の扉が開こうとするまさにその局面で、市場の計測インフラが用意されようとしている、という構図です。
この技術基盤が整うと何が可能になるのか。金融機関はNAV(純資産総額、ファンドの中身の時価)を客観的な国産指標で算定でき、投資家は日本円の視点でパフォーマンスを比較できるようになります。国内ETFや投資信託の組成コストと信頼性が上がれば、これまで税負担や利便性の壁で二の足を踏んでいた層にも、暗号資産が資産運用の選択肢として届きやすくなるでしょう。
主体が日本製鉄グループのNSSOLである点も、innovaTopia の視座から見ると示唆に富みます。鉄という重厚長大産業を源流に持つ企業のITアームが、Web3金融の「配管」を敷設する。旧来の産業インフラを支えてきた技術力が、次の金融インフラへ接続されようとしているのです。
一方で、楽観だけでは語れません。指数の算出方法や採用取引所の選定には、恣意性や利益相反が入り込む余地があります。事務局を務める2社が算出・運用まで担う体制は、迅速さと引き換えに「作る側と使う側の距離の近さ」という論点を残します。報告書自体も独立したガバナンスや外部諮問体制の必要性に触れており、この点は今後の運用で問われる部分でしょう。加えて、米国のビットコインETFはAUMが大きく変動しており、一部データではピーク時に1600億ドル台まで拡大した後、2026年に1000億ドルを割り込む局面もあったとされています。指数の信頼性とは別に、原資産そのもののボラティリティは残り続けます。
長期的に見れば、これは暗号資産が「投機的な例外」から「制度に組み込まれた金融資産」へと位置づけ直される過程の一里塚だと捉えられます。指数という共通言語ができて初めて、金融機関・監督当局・投資家が同じ地図の上で対話できるようになります。派手さはなくとも、こうした土台づくりこそが、未来の市場の輪郭を静かに決めていくのだと考えます。
【用語解説】
暗号資産ETF(上場投資信託)
ビットコインなどの暗号資産の価格に連動するよう設計された、証券取引所で売買できる投資商品である。投資家は暗号資産そのものを保有・保管せず、証券口座を通じて値動きに投資できる。実際に原資産を保有する「現物型」と、先物で連動させる「先物型」がある。
現物ビットコインETF
運用会社が実際にビットコインを購入・保管し、その価格をファンドに反映させる方式のETF。米国では2024年1月にSEC(米証券取引委員会)が初めて承認した。なお、SECの承認文書上は「ETP(上場取引商品)」と表記される。
NAV(Net Asset Value/純資産総額)
ファンドが保有する資産の時価から負債を差し引いた正味の価値。ETFや投資信託の「中身の値段」にあたり、算定には信頼できる基準価格が不可欠となる。
bps(ベーシスポイント)
金利や利回り、価格差を表す単位。1bpsは0.01%にあたる。
申告分離課税/総合課税
総合課税は他の所得と合算して累進税率(暗号資産では最高55%)で課す方式。申告分離課税は他の所得と分けて一定税率(株式等は約20%)で課す方式で、暗号資産もこの方式へ移行する方向が示されている。
令和8年度税制改正大綱
2026年度の税制改正方針をまとめた文書。与党大綱が2025年12月19日に、政府大綱が同年12月26日に公表された。暗号資産への申告分離課税(税率20%)の導入と、ETFの国内組成に向けた方針が明記された。
【参考リンク】
日鉄ソリューションズ株式会社(NSSOL)(外部)
日本製鉄グループのITソリューション企業。金融や製造など幅広い業界を支援し、本協議会の共同事務局を務める。
N.Avenue株式会社(外部)
2018年設立のWeb3・デジタル資産分野の情報サービス企業。メディア運営やインデックス事業を手がける本協議会の主催者。
NADA NEWS(ナダ・ニュース)(外部)
N.Avenueが運営するデジタル資産特化メディア。CoinDesk JAPANを前身とし、2025年末に独自ブランドへ刷新した。
暗号資産インデックス協議会 報告書(PDF)(外部)
本協議会が公表した報告書の本体。円建てインデックスの算出方針に関する議論の成果を記した一次資料である。
金融庁(外部)
暗号資産の金商法移行やETFの組成環境整備を所管する行政機関。関連法案を2026年4月に国会へ提出済み。
【参考動画】
【参考記事】
US spot Bitcoin ETFs set to hit $2 trillion cumulative trading volume milestone(The Block)(外部)
米国の現物ビットコインETFが累計取引高2兆ドルに接近し、運用資産残高760億ドル超に達したと報じた記事。
Bitcoin Spot ETFs Reach $1.25T AUM in Two Years(KuCoin)(外部)
承認から2年でビットコインETFの運用資産残高が1248億ドルに達し、金の金融商品化になぞらえて論じた記事。
金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案 説明資料(金融庁)(外部)
暗号資産規制を資金決済法から金商法へ移管する法案の資料。2026年4月10日に国会提出された一次資料。
【関連記事】
「QUICKビットコイン指数」×リアルタイム指数 日本のビットコイン市場インフラが一段階進化
日経グループQUICKによる円建てビットコイン指数の本格算出開始を報じた記事。同じ潮流の続報として必読。
日本、XRPを含む暗号資産の金商法移行を検討、2026年に向け税制改革と規制強化が進展
資金決済法から金商法への移行と税率20%化という、今回記事の制度的背景を整理した記事。
ビットコイン・イーサリアムが金融商品に―日本が2026年税制改革で暗号通貨市場の大転換
BTC・ETHの金融商品化と国内ETF組成への期待という、今回記事の前提を解説した記事。
トークンかステーブルコインか。それともPayPayか? 6月1日「新仲介業」がひらく、日本のデジタル金融インフラ
金商法・資金決済法改正後の日本のデジタル金融インフラを俯瞰する直近の補完記事。
【編集部後記】
ETFという商品よりも先に、それを測る「ものさし」が用意されようとしている──今回のニュースからは、市場がかたちになる前の静かな準備が見えてきます。皆さんは、暗号資産が株式や投資信託と同じ土俵に並ぶ未来を、どう受け止めるでしょうか。制度が整った先で、ご自身の資産運用の選択肢はどう変わっていくのでしょうか。あるいは、鉄を源流とする企業が金融の土台を築くという構図に、どんな可能性を感じるか。よければ一緒に考えていければうれしいです。
