Strategy優先株「STRC」急落と、ビットコインの底値サインについて読み解く

Strategy優先株「STRC」急落――Bitwise CIOが語るビットコイン「サイクル終盤」論

Bitwise の最高投資責任者マット・ホーガンは、Strategy の優先株STRCの急落を現在の暗号資産市場サイクルの一部だと述べた。

ビットコインは6月下旬に6万ドルを割り込み、2024年以来の安値をつけた。STRCは昨年ローンチされ、額面100ドル、当初配当率9%だった。利回りは11.5%まで上昇し、Bitwiseによれば投資家は105億ドルを投じたが、その後価格は75ドルまで下落し、実効利回りは約15.4%に達した。Strategy は、Bitwiseの整理によれば約496億ドルのビットコインと26億ドルの現金を保有し、負債は68億ドル、優先株は155億ドルである。

6月29日、Strategy はビットコインを売却して配当原資に充てる新枠組みを導入し、100ドル維持を目的とした機械的な利上げ期待を後退させた。ホーガンは秋までに新たな強気相場が定着すると予想している。

From: 文献リンク‘I think we’re nearing the bottom’: Bitwise CIO says Strategy’s STRC selloff is part of bitcoin’s end-of-cycle dynamics | The Block

【編集部解説】

まず押さえておきたいのは、今回の主役であるSTRCが「ビットコインそのもの」ではなく、その周辺に組み上げられた金融の仕組みだという点です。Strategy は保有するビットコインを担保に株式や社債を発行し、集めた資金でさらにビットコインを買い増す「ビットコイン財務会社」の代表格です。STRCはその調達手段のひとつで、株式と債券の中間に位置し、額面100ドル・高利回りを売りにした永久優先株でした。

この設計には、見えにくい反射性(リフレクシビティ)が潜んでいます。ビットコインが上がれば財務が潤い、高い配当を払いやすくなり、資金が集まってさらに買える。ところが下落局面では逆回転が始まります。配当を払えるのかという疑念が優先株の価格を押し下げ、実効利回りを吊り上げ、資金調達をいっそう難しくする。今回STRCが額面100ドルから一時75ドルまで沈んだのは、この負のループが可視化された瞬間でした。

ここで正確に押さえておきたいのは、STRCの利上げは法的に「自動」だったわけではないという点です。配当率の調整はもともとStrategy の裁量にゆだねられており、6月29日の新方針は「100ドルを下回ったら必ず利上げする」という市場の期待を明確に後退させたものでした。価格を機械的に支える約束が外れたことが、今回の値動きの背景にあります。

ビットワイズのマット・ホーガンは、これを危機ではなく「サイクル終盤の負債圧縮」と読み解きます。ただ、ここには視点の偏りも意識しておく必要があります。ビットワイズはビットコインETFを運用する当事者であり、強気相場の到来は自社の利益と重なります。楽観的な見立ては、ポジショントークの可能性を割り引いて受け取るのが公平でしょう。

反対の声も同じ日に上がりました。JPMorgan は、Strategy が配当のためにビットコインを売る新方針を「回避できたはずの双方向リスク」と批判しています。報道によれば、同社が今年これまでに買ったビットコインは約137億ドル相当で、市場全体の純流入の約7割を占め、供給の約4%を握るとされます。その巨大な買い手が売り手にも回れば、価格の振れ幅は広がる、という理屈です。JPMorgan は、現在17か月分(6月28日時点の現金約25.5億ドル)にとどまる配当・利払いの備えを、24〜36か月分まで厚くすべきだと指摘しました。

一方で強気の分析もあります。報道によれば、ベンチマークはMSTRに「買い」と目標株価570ドルを据え置き、新枠組みを「市場ストレス時に資本を逆回転させる公式の許可」と前向きに評価しました。同じ事実を前にして評価が真っ二つに割れている点こそ、この局面の本質かもしれません。

ホーガンが描くもうひとつの重要な論点は、ビットコイン需要の「担い手交代」です。Strategy という一方向の買い手が退場し、代わって銀行、年金、ソブリンファンドといった機関投資家が主役になるという見立てです。あくまで予測ではありますが、もしこれが現実になれば、ビットコインは投機の対象から、ポートフォリオに組み込まれる資産クラスへと性格を変えていくことになります。

規制の観点でも示唆に富みます。財務会社が配当のために暗号資産を売却する行為は、開示のあり方や優先株保有者の保護をめぐる論点を新たに突きつけます。実際、報道によればJPMorgan は、Strategy が5月末に32BTCを売却した事実が6月1日の規制当局向け提出で明らかになった経緯を指摘しており、こうした売却の透明性は今後の制度設計の焦点になり得ます。

注視したいのは、目先の底値予想そのものよりも、この一件が映し出す構造転換です。ビットコインを企業財務に組み込む実験は、成熟の過程で必ず「レバレッジの巻き戻し」という試練を経ることになります。その痛みを経て、より頑健な担い手と制度へと世代交代していく――今回のSTRCショックは、暗号資産が金融インフラへと編み込まれていく長い歴史の、ひとつの通過点として記憶されるはずです。

【用語解説】

STRC(ストレッチ)
Strategy が発行する永久優先株。正式名称はVariable Rate Series A Perpetual Stretch Preferred Stock。額面100ドルに近い価格を保ちつつ高い配当利回りを提供する設計で、集めた資金はビットコイン購入に充てられてきた。

MSTR
Strategy の普通株のティッカーシンボル(Nasdaq: MSTR)。同社の株価はビットコイン価格と連動しやすい。

ビットコイン財務会社(ビットコイン・トレジャリー企業)
ビットコインを主要な準備資産として大量に保有し、株式や社債の発行で調達した資金でさらに買い増す企業。Strategy は自らを世界最大級のビットコイン・トレジャリー企業と位置づける代表例である。

リフレクシビティ(反射性)
市場参加者の認識と価格が相互に影響し合い、上昇も下落も自己増幅していく現象。今回のSTRCは、価格下落が資金調達難を招き、それがさらなる下落を呼ぶ構図を示した。

デレバレッジ(負債圧縮)
過剰に積み上がった借入やレバレッジを縮小する動き。相場の過熱後にしばしば起こり、痛みを伴うが市場の健全化につながるとされる。

【参考リンク】

Bitwise Asset Management(公式サイト)(外部)
暗号資産に特化した米国の資産運用会社。2017年に世界初の暗号資産インデックスファンドを立ち上げた運用大手。CIOはマット・ホーガン。

Bitwise CIOメモ「STRC, MSTR, and End-of-Cycle Dynamics」(外部)
ホーガンによる今回の見解の一次情報。STRCの急落を「サイクル終盤のダイナミクス」と読み解いたメモ本体である。

Strategy(旧MicroStrategy/公式サイト)(外部)
世界最大級のビットコイン保有企業。会長はマイケル・セイラー。STRCなど優先株での資金調達とビットコイン購入で知られる。

JPMorgan Chase & Co.(公式サイト)(外部)
米国最大手の金融機関。今回、Strategy の新方針が暗号資産市場に「双方向リスク」をもたらすとの分析を公表し波紋を広げた。

【参考動画】

CoinDesk がホーガンにインタビューし、機関投資家の資金流入を軸にビットコインの長期見通しを論じた回。今回の「担い手交代」論と地続きの内容である。

暗号資産ETFがウォール街に浸透していく流れを、ホーガン本人がCNBCで解説した動画。機関投資家の需要を理解するうえで参考になる。

【参考記事】

JPMorgan says Strategy’s bitcoin sales policy adds ‘two-way risk’ to crypto markets(CoinDesk)(外部)
Strategy の新方針を「回避可能な双方向リスク」と批判。年初来購入137億ドルは純流入の約7割、供給の約4%保有と指摘。

JPMorgan cast doubts on Strategy’s Bitcoin sales policy(Cryptopolitan)(外部)
報道によればベンチマークはMSTRに買い・目標株価570ドルを維持。新方針後にMSTRとSTRCは反発したと伝える。

Bitwise says STRC selloff signals crypto cycle nearing a bottom(CoinDesk)(外部)
Strategyは流動資産約520億ドルに対し負債約70億ドルで健全と説明。公開時BTCは約6万1400ドル、STRCは88ドルと伝える。

Matt Hougan says Bitcoin bottom may be near ahead of fall rally(crypto.news)(外部)
STRCで約105億ドルを調達。新枠組みで配当を年12%へ引き上げ、最大20億ドルの買い戻しを承認。最安値73.62ドルにも言及。

JPMorgan warns of risks from Strategy’s Bitcoin sales policy(TheStreet)(外部)
現金25.5億ドルは配当・利払いの17か月分にとどまり、24〜36か月分が望ましいと指摘。MSTRは年初来34%安と報じる。

Strategy Announces Digital Credit Capital Framework(Strategy公式)(外部)
6月29日発表の一次資料。BTC売却プログラム、USD準備金方針、STRC配当方針の変更などを定めた公式リリースである。

【関連記事】

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【編集部後記】

数字が乱高下すると、つい「いつ上がるか、いつ下がるか」に目を奪われてしまいます。けれど今回のSTRCが教えてくれたのは、その裏側で静かに進む「担い手と仕組みの入れ替わり」の方かもしれません。派手な値動きの奥にある構造の変化を、これからもみなさんと一緒に丁寧に追いかけていきたいと思います。

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