西濃運輸株式会社と株式会社T2は、2026年4月20日より、西濃運輸が関東〜九州・中四国間で行う中継輸送の一部区間にT2の自動運転トラックを組み込む取り組みを開始した。特別積合せ貨物運送の幹線輸送において、中継輸送に自動運転トラックを活用するのは国内初である。
対象区間は神奈川県〜兵庫県で、往路は相模原支店から姫路支店までの約550km、復路は神明支店から相模原支店までの約515km。うちレベル2自動運転区間は東名高速・厚木ICから中国自動車道・吹田JCTまでの約430kmとなる。今回の運行では、T2が山陽自動車道・神戸西IC近くに設置した「トランスゲート神戸西」にも立ち寄り、無人運転と有人運転の切替手順を確認した。
レベル4が実現すれば1日1往復が可能となり、輸送能力は2倍以上に高まる見込みである。T2はレベル4自動運転トラックによる幹線輸送サービスの実現を2027年度に目指している。
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西濃運輸とT2 レベル4を見据えて「中継輸送」に自動運転トラックを活用
【編集部解説】
このニュースが持つ最大の意味は、自動運転トラックが「実証実験のフェーズ」から「既存物流網への組み込みフェーズ」へと一段進んだことを示している点にあります。これまで国内の自動運転トラックの実証は、特定区間を単独便で走らせるかたちが中心でした。今回の取り組みは、西濃運輸が日常的に運用している「中継輸送」のリレーの一つの区間にT2のトラックを差し込み、通常便と連携させて荷物を運び切るというものです。商用物流オペレーションの内側に自動運転車が「入り込む」段階に到達した、という捉え方ができます。
「中継輸送」というキーワードを少し補足します。これは長距離輸送を複数のドライバーで分担し、中継地点で貨物やトラクターを引き継いでいくリレー方式のことです。物流の2024年問題(働き方改革関連法によるトラックドライバーの年960時間の時間外労働上限規制)への対応策として、業界全体で導入が進められてきた手法でもあります。今回はその中継リレーのうち、関東〜関西の高速道路区間という最も長くて負荷の大きい部分を、自動運転トラックに任せようという発想です。
「特別積合せ貨物運送(特積み)」での自動運転トラック活用が国内初という点も重要です。特積みは、複数の荷主から集めた異なる荷物を1台に積み合わせる、いわば物流ネットワークの基幹を支える運送形態です。単一荷主の専属便と違い、ダイヤや積載パターンが厳密に設計されており、ここに自動運転を組み込めるかどうかは、社会実装の現実性を測る試金石と言えます。
T2の事業構造についても触れておきましょう。T2は2022年8月にPreferred Networks(PFN)の技術提供を受け、三井物産により設立されたスタートアップで、PFNの深層学習技術と、LiDAR・カメラを組み合わせた認識技術をベースに自動運転システムを開発しています。2025年7月には佐川急便、西濃運輸、日本郵便、福山通運、三井倉庫ロジスティクスの5社向けに、国内初となるレベル2自動運転トラックの商用運行を開始しており、ユーザーはその後11社(2026年4月時点)まで拡大しています。
注目したいのが、4月24日に同社が発表した「トランスゲート綾瀬」「トランスゲート神戸西」という新たな拠点です。これは高速道路上の無人運転と一般道での有人運転を切り替える「ドライバーの乗降地点」で、レベル4実用化に向けて不可欠なインフラに位置付けられます。今回の中継輸送実証では、この神戸西のトランスゲートにも立ち寄り、無人/有人切替のオペレーション手順までセットで検証された格好です。技術と物流網と切替インフラ、3つのレイヤーが同時並行で組み上がりつつあることが見て取れます。
国際比較の視点も持っておきたいところです。米国ではAurora Innovationが2025年4月にダラス〜ヒューストン間でレベル4の商用無人運行を開始し、同年10月にはフォートワース〜エルパソへ拡大、累計10万マイル超を無人で走破しています。一方、日本のT2はあえて「無人化を急がず、まず既存の物流網に組み込む」アプローチを取っています。これは日本の高速道路の混雑状況や法規制、そして商習慣の制約を踏まえた現実的な選択であり、米国型の「ロングホール一気通し型」とは異なる、日本ならではの実装パスとして評価できます。
ポジティブな影響として最も大きいのは、輸送能力の構造的拡張です。プレスリリースによれば、現状の1名体制では関東〜関西間で片道運行が限界であるところ、レベル4が実現すれば1日1往復が可能となり、輸送能力は少なくとも2倍に高まる見通しとされています。今回の検証では、関東〜関西間の往復行程(往路約550km+復路約515kmの合計約1,065km)を24時間以内に完了することにも成功しました。これはドライバー1人あたりの「拘束時間内に運べる量」を物理的に増やすという意味で、人手不足を技術で吸収する典型的なソリューションです。
一方、潜在的な課題も無視できません。まず、サイバーセキュリティと走行責任の所在です。無人運転で事故が起きた際に責任が誰に帰属するのかは、まだ法整備が完全には進んでいません。次に、ドライバーの雇用への影響です。短期的には「切替拠点〜物流拠点」の有人運転や、運行管制側に新たな雇用が生まれますが、中長期的には職務内容の再定義が必要になります。さらに、トランスゲートのような専用インフラの整備コストや、災害時のリダンダンシー(冗長性)確保という地味だが重要な論点も残っています。
規制面では、政府が2025年6月に公表した自動運転サービスの2040年までのロードマップ案で、2030年頃までにレベル4自動運転トラックの運用開始を目指す方針が示されています。T2の「2027年度実現」という目標は、政府想定よりも早いペースであり、業界全体を牽引する存在になりつつあります。
長期視点では、自動運転トラックの普及は単なる「ドライバー代替」にとどまりません。深夜帯運行が当たり前になれば、消費地の倉庫設計や配送リードタイム、さらには製造業のサプライチェーン全体が再設計されることになります。物流が変われば、産業の地理的配置そのものが変わる、ということです。今回の西濃運輸×T2の取り組みは、その大きな地殻変動の最初の地震計の針が振れた瞬間として記録されるかもしれません。
【用語解説】
中継輸送
長距離輸送において、中継地点を設定し複数のドライバー・トラックでバトンを渡しながら荷物を運ぶリレー方式の輸送形態。1人のドライバーが運行する距離を短縮することで、長時間労働を防ぎ、ドライバーの拘束時間を抑える効果がある。物流の2024年問題への対応策として広く導入が進んでいる。
特別積合せ貨物運送(特積み)
不特定多数の荷主から預かった異なる荷物を、1台のトラックに積み合わせて拠点間を定期的に運ぶ運送形態。決まったダイヤで運行されるため、物流ネットワークの「動脈」として機能する。宅配便も広い意味でこの一種に含まれる。
自動運転レベル2/レベル4
レベル2は、ドライバーが監視・操作の主体であり、システムが部分的にハンドル・アクセル・ブレーキを支援する段階。レベル4は、特定の走行環境(高速道路など限られた条件)の中で、システムが運転操作のすべてを担い、ドライバーの介入を必要としない段階。レベル4が実現すると「無人運転」が可能になる。
トランスゲート
T2が設置した、高速道路上の無人運転と一般道の有人運転を切り替えるための拠点。ドライバーがトラックに乗降する「ハブ」としての役割を持つ。「トランス(切替)+ゲート(玄関口)」を組み合わせた造語。今回の運行では、神戸西IC近くの「トランスゲート神戸西」に立ち寄っている。
物流の2024年問題
2024年4月から働き方改革関連法がトラックドライバーにも適用され、年間960時間の時間外労働上限が設定されたことに伴う、輸送能力不足の懸念。対策を講じない場合、2030年度には輸送能力が約34%(約9.4億トン)不足するとの試算がある。
LiDAR(ライダー)
レーザー光を照射し、対象物までの距離や形状を高精度に測定するセンサー技術。自動運転車が周辺環境を立体的に認識するための「眼」として機能する。T2のトラックでは、カメラ・レーダーと組み合わせた360度認識に活用されている。
Preferred Networks(PFN)
ディープラーニング技術を強みとする日本のAIスタートアップ。T2の自動運転システムにおけるAI技術の中核を担う技術提供企業。
【参考リンク】
株式会社T2(外部)
三井物産が設立しPFNが技術提供する、レベル4自動運転トラックによる幹線輸送サービスの実現を目指すスタートアップ。
西濃運輸株式会社(外部)
セイノーホールディングス傘下の総合物流企業。「カンガルー特急便」を軸に関東〜九州・中四国の幹線輸送網を持つ。
株式会社Preferred Networks(外部)
ディープラーニングの研究開発に強みを持つ日本のAIスタートアップ。T2の自動運転システムにAI技術を提供している。
三井物産株式会社(外部)
T2の設立母体である日本の総合商社。事業構想力をベースにT2の立ち上げを主導した、自動運転物流分野の中核プレイヤー。
Aurora Innovation(外部)
米国でレベル4自動運転トラックの商用無人運行を進める自動運転企業。日本のT2と比較される国際的な代表事例。
国土交通省 自動運転に関する取り組み(外部)
日本における自動運転技術の社会実装に関する政府の方針や法整備状況を確認できる国交省の公式情報ページ。
【参考記事】
西濃運輸・T2/特積み中継輸送に国内で初めて自動運転トラック活用(LNEWS)(外部)
本件の業界向け報道。特積み中継輸送への自動運転組み込みが国内初である点を整理している。
西濃とT2が国内初、「レベル4」見据え特積みの中継輸送に自動運転トラック投入(月刊LOGI-BIZ online)(外部)
業界専門誌の解説。レベル2/4の違いと24時間以内の往復行程成功の文脈を整理している。
T2が自動運転トラックの商用運行を開始、運行本数は実証の4倍以上に(MONOist)(外部)
2025年7月のT2商用運行開始の詳報。運送5社連携と運行本数4倍以上の増強を伝える。
気鋭の自動運転企業T2、赤字倍増23億円!三井物産系ベンチャー(自動運転ラボ)(外部)
T2の財務と事業フェーズの詳報。第3期23.5億円赤字と累計54.5億円調達の経緯を伝える。
ドライバー不足をテクノロジーで乗り越える。自動運転トラックという選択肢(オリックス MOVE ON)(外部)
業界キーマン取材。政府ロードマップで2030年頃のレベル4トラック運用開始を目指す方針を伝える。
Aurora Begins Commercial Driverless Trucking in Texas(Aurora Innovation)(外部)
米Auroraが2025年4月にダラス〜ヒューストン間で大型トラックの商用無人運行を開始した発表。
物流の2030年問題とは?2024年問題のその後や対応策のヒント(キヤノンMJ)(外部)
2030年問題の構造整理。輸送能力34%不足やドライバー高齢化の数値を解説している。
【編集部後記】
私たちが普段なにげなく受け取っている荷物の裏側で、物流の仕組みは静かに大きく変わろうとしています。今回の西濃運輸とT2の取り組みは、自動運転が「未来の話」から「今、隣を走っているトラック」へと姿を変える節目かもしれません。
みなさんがもしトラックドライバーだったら、自動運転と「どう協働したい」と感じるでしょうか。あるいは荷物を出す側として、無人で運ばれる安心感やもどかしさは、どんな形になりそうですか。
未来の物流は、技術者だけでなく、私たち一人ひとりの想像力からも形作られていくはずです。一緒に考えていけたら嬉しいです。

