PIA Automationは2026年4月14日、新事業部門「Embodied AI & Humanoid Robotics」の立ち上げを発表した。
同社は身体性インテリジェンスを専門とするAGIBOTと合弁会社Joybot Manufactureを設立し、ヒューマノイドロボティクスソリューションの開発・産業化を進める。製品ラインとして、サービス用のP-Bot、産業用のI-Bot、研究・教育用のA-Botの3機種を展開する。またヨーロッパ市場における独自の製造拠点の設立も計画している。
PIA Groupはヨーロッパ、北米、アジアの12拠点に約1,800名の従業員を擁し、8,800件以上のプロジェクト実績を持つ。
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PIA Automation Launches New Business Segment for Embodied AI and Humanoid Robotics
【編集部解説】
今回の発表を正確に理解するためには、PIA Automationという企業の立ち位置を把握しておく必要があります。プレスリリースにはインディアナ州エバンズビルが発信地として記載されていますが、PIA Automationの持株会社はドイツのバート・ノイシュタットに本社を置くグローバル産業自動化企業です。中国では「Ningbo PIA Automation Holding Corp.」として上海証券取引所に上場する関連企業が存在しており、AGIBOTとの協業はこの中国側との接点が起点となっています。自動車分野を含む製造業向け自動化で長年の実績を持つ、本格的な製造現場のプレイヤーです。
パートナーであるAGIBOTについても、その実力を正確に伝えておきたいところです。AGIBOTは中国発の比較的新しいロボティクス企業ながら、調査会社Omdiaの報告によれば2025年に世界のヒューマノイドロボット市場で出荷台数・市場シェアともに世界1位を獲得しています。Omdiaは2025年の世界全体の出荷台数は約13,000台であったのに対し、AGIBOTは5,100台超(約39%)を出荷したとしています。Tesla、Figure AI、Agility Roboticsといった主要な海外プレイヤーと比べても、AGIBOTの量産規模は際立っています。
この両社が設立した合弁会社Joybot Manufactureは、単なる技術提携ではなく、研究開発から製造・組み立てまでのバリューチェーン全体をカバーする垂直統合型の体制です。PIAが持つ欧州・北米での製造現場への深いアクセスと、AGIBOTが持つヒューマノイドロボットの量産技術を組み合わせることで、中国勢が席巻するヒューマノイドロボット市場を西側の製造現場へと橋渡しする役割を担うと考えられます。
この発表が持つ最大の意義は、「ヒューマノイドロボットを実際の工場に統合する」という課題に、現場経験のある企業が正面から取り組む姿勢を示した点にあります。I-Botのように、既存の生産ラインでデータを収集しながら精密製造を支援するユースケースは、プロトタイプの展示とは一線を画す実用志向のアプローチです。従来の産業用ロボットが「特定の動作を繰り返す専用機械」であったのに対し、身体性AIを持つヒューマノイドは環境の変化に適応できる点が本質的に異なります。これにより、これまで自動化が難しかった多品種少量生産の工程や、不規則なレイアウトの物流現場への展開が現実味を帯びてきます。
一方で、慎重に見極めるべき点もあります。現時点でヒューマノイドロボットの産業導入はまだ初期段階にあり、PIAグループ自身の公式サイトでも「現在、産業試験の初期段階にある」と認めています。安全基準や労働規制との整合性、既存の生産ラインとのシステム統合コスト、そして万が一の事故時の責任所在といった課題は、特に欧州市場での展開において避けては通れません。EU AI規制(AI Act)の施行も進む中、安全基準や労働規制、AI関連規制との整合性が今後の重要な論点となりそうです。
長期的な視点では、Omdiaが2035年の世界年間出荷台数を260万台と予測するほど、この市場の成長ポテンシャルは大きく見積もられています。PIAが欧州での独自製造拠点設立を計画していることは、単なる販売代理にとどまらず、欧州のサプライチェーンに深く組み込まれた存在を目指すという戦略的意図の表れといえるでしょう。中国で育まれたヒューマノイドロボット技術が、欧州の産業インフラに根を張ろうとしているこの動きは、製造業の地政学という観点からも注視に値します。
【用語解説】
身体性AI(Embodied AI)
センサーや手足を持つ物理的なロボット本体に直接AIを統合し、環境を認識しながらリアルタイムで行動を決定する技術。画面の中だけで動作する従来のAIとは異なり、現実世界に「身体」を持って存在・介入できる点が特徴だ。
合弁会社(ジョイントベンチャー)
複数の企業が出資・技術・人材を持ち寄り、共同で新会社を設立する形態。単純な業務提携と異なり、損益・意思決定を共同で担う。
バリューチェーン
製品の研究開発から製造、販売、保守サービスに至るまでの一連の価値創造プロセスのこと。「バリューチェーン全体をカバーする」という表現は、開発から製造・販売までを自社グループ内で完結させる垂直統合型の戦略を指す。
マルチモーダルインタラクション
音声・画像・テキスト・ジェスチャーなど、複数の異なる情報チャンネルを同時に処理・活用したコミュニケーション能力のこと。P-Botが対応するとされている機能であり、より自然な人間とロボットの対話を可能にする。
Industry 4.0(インダストリー4.0)
IoT・AI・ビッグデータ・自動化などのデジタル技術を製造業に統合する第4次産業革命の概念。ドイツ政府が主導して提唱した。PIA AutomationはこのIndustry 4.0領域で独自ソリューションを持つ企業として位置付けられている。
【参考リンク】
PIA Group 公式サイト(外部)
ドイツ・バート・ノイシュタット拠点のグローバル産業自動化企業。欧州・北米・アジアの12拠点に約1,800名が在籍し、自動車・エネルギー・ライフサイエンス向けに自動化ソリューションを提供する。
PIA Automation|Embodied AI & Humanoid Robotics 専用ページ(外部)
今回発表された新事業部門の公式ページ。I-Bot・P-Bot・A-Botの製品ラインと、ヒューマノイドロボティクスへの取り組みが紹介されている。
AGIBOT 公式サイト(外部)
2023年創業の中国・上海のロボティクス企業。2025年に世界最多の5,168台を出荷し、Omdia調査で世界市場シェア39%を獲得。産業・サービス・研究など多用途のロボットポートフォリオを持つ。
Ningbo PIA Automation Holding Corp.(Yahoo Finance)(外部)
上海証券取引所に上場する中国側PIA Automation関連法人の株式情報ページ。ドイツの持株会社との関係性や事業領域を確認できる。
【参考記事】
Omdia Ranks AGIBOT No.1 Worldwide in Humanoid Robot Shipments in 2025(外部)
Omdiaのレポートに基づくAGIBOT公式発表。2025年の世界出荷台数約13,000台のうちAGIBOTが5,168台(39%)で世界1位を獲得したことを報告している。
Chinese Robot Company AGIBOT Took 39% of the Global Humanoid Market in 2025(Gizmochina)(外部)
AGIBOTの2025年市場シェアを第三者メディアが報じた記事。Unitree約32%が2位、米国勢は大きく差をつけられている実態を数値で示す。
Humanoid Robot Market Size, Share & Trends, 2025 To 2030(MarketsandMarkets)(外部)
世界市場が2025年の約29.2億ドルから2030年に約152.6億ドルへ、年平均成長率39.2%で拡大すると予測する市場調査レポート。
China’s Pia Automation, AgiBot Set Up Robotics Venture(Yicai Global)(外部)
PIA・AGIBOT間の合弁会社設立を報じた中国経済メディアの英語記事(2025年4月8日付)。寧波のPuzhi Future Roboticsが年間1,000台規模の工場を建設する計画が詳述されている。
PIA Automation Launches Humanoid Robotics Unit(ASSEMBLY Magazine)(外部)
米国の製造業専門誌による今回の発表の報道。変動の多い製造現場への対応という産業界視点の解説が加えられている。
New business segment for the factory of the future(PIA Group 公式ニュース)(外部)
PIAグループ自身が公開した補足ページ。ヒューマノイドロボット市場が2030年までに約300億ドル規模、2050年には数億台が稼働するという市場見通しを記載している。
Ningbo PIA Automation Holding Corp.(Yahoo Finance)(外部)
上海証券取引所上場の中国側PIA Automation関連法人の株式情報。事業内容と資本関係を確認できる。
【編集部後記】
ヒューマノイドロボットが「実験室の夢」から「工場の現実」へと歩み始めています。自分の仕事や暮らしとの距離感はどれくらい感じますか。期待と不安、どちらが先に浮かびますか。正解はないけれど、その問いを持ち続けることが、これからの時代を自分ごとにする第一歩かもしれません。私たちも一緒に考え続けていきたいと思っています。
