スティーブ・アオキは2021年8月、CoinDeskに「NFTは5年以内に文化の一部になる」と語った。Arkham Intelligenceのデータによると、同氏のウォレットは2026年4月14日(月)に17億8500万枚のSHIBを約1万300ドルで売却し、7.25ETHを約1万5900ドルと交換、合計2万9650ドルのUSDTをGeminiに送金した。2週間前には同ウォレットから41億5500万枚のPEPEを1inchで1万4700ドルで売却している。2021年のブーム時に購入したBored Ape Yacht ClubのNFT7体は、購入総額80万ドル超に対し、現在の総額は約9万7000ドルで88%下落している。NFTテレビ番組「Dominion X」はNifty Gatewayで500枚のNFTを30秒で完売したが、放送には至らなかった。Bored Apeのフロア価格は2022年初頭の40万ドル超から、現在1万4000ドル以下となっている。
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Steve Aoki dumps his last SHIB and ETH as Bored Apes he bought for $800K sit at $97K | MEXC News
【編集部解説】
スティーブ・アオキという名前を聞いたことがない読者のために、まず補足します。同氏は世界的に活動するDJ・音楽プロデューサーであり、2021年のNFTブームにおいて最も積極的に支持を表明したセレブリティの一人です。単なる「お布施」ではなく、自身でNFTテレビ番組「Dominion X」を企画・制作資金調達するなど、業界を文化として定着させようとした当事者でした。その人物が今、残っていた暗号資産をほぼすべて換金している——この事実の重みは、数字以上のものを語っています。
今回の売却情報の根拠となっているのは、Arkham Intelligence(アーカム・インテリジェンス)というオンチェーン分析サービスです。ブロックチェーン上のウォレットアドレスを追跡・分析することで、誰がいつ何を売買したかを可視化する企業であり、その信頼性は業界内で広く認められています。「本人が公表した」わけではなく、ブロックチェーンの透明性がこの情報を誰でも確認可能にしているという点も、暗号資産ならではの特性です。
今回の売却額は合計約4万4000ドル(約660万円換算)と、決して大きな金額ではありません。しかし注目すべきは「何を売ったか」ではなく「何を売らずに残しているか」です。アオキが唯一手放していないのは、7体のBored Ape Yacht Club(BAYC)NFTです。総額80万ドル超で購入したそれらは、現在の総評価額が約9万7000ドルに下落しています。売却すれば損失を確定させることになるため、「塩漬け」の状態が続いています。これは個人投資家に限らず、機関投資家にも共通する心理であり、NFT市場の「買い手不在」を象徴する光景といえます。
元記事には「BAYCのフロア価格は2022年初頭に40万ドルを超えていた」と記されていますが、The BlockやDecryptなど複数の一次情報によると、正確なピーク時期は2022年4月29日で、152 ETH(約43万4000ドル)でした。「2022年初頭」という表現は厳密には2022年春が正確であり、元記事の表現はやや不正確です。いずれにせよ、現在の1万4000ドル以下という水準との落差は変わりません。
ビットコインが2025年10月に過去最高値となる12万6000ドル超を記録した一方で、NFT市場はその恩恵をほぼ受けられませんでした。これは偶然ではなく、市場の「選別」が起きているためです。2023年以降の強気相場で資金が集まったのは、スポットETFによる機関投資家の参入や、ステーキング・DeFiといった「明確な経済的ユーティリティ」を持つ資産でした。JPEGの所有権という物語だけで価値を維持するには、常に新規の買い手が必要です。その買い手が市場から消えたとき、価格を支えるものは何も残りません。
NFT市場全体を見ると、2025年の総取引量は約55億ドルと、2024年比で37%減少しています。ただし、すべてのNFTが終わりを迎えているわけではありません。ゲーム内アイテム、リアルワールドアセット(RWA)のトークン化、AIエージェントとの連携といった「実用的な機能を持つNFT」には、資本が継続的に流入しています。市場は投機から実用へと成熟しつつあり、2021年型の「アート・ステータスシンボル」としてのNFTと、次世代の「機能するNFT」は、もはや同じカテゴリーで語れない段階に来ています。
アオキの売却が象徴するのは、NFTの終わりではなく、「第一世代のNFT文化」の終焉です。同時に、これはウォッシュトレードや過熱した期待が剥落した後に残る、本質的な価値とは何かを問い直す機会でもあります。テクノロジーとしてのNFTはまだ存在し続けています——問われているのは、それが何の役に立つか、という一点です。
【用語解説】
NFT(Non-Fungible Token/非代替性トークン)
ブロックチェーン上に記録される、唯一無二のデジタル資産だ。JPEGなどの画像ファイルそのものではなく、「その画像の所有権を証明するトークン」をチェーン上に発行する仕組みである。コピーは誰でも作れるが、オリジナルの所有権記録は改ざんできない。
フロア価格(Floor Price)
あるNFTコレクション内で、現在最も安く出品されている1点の価格のことだ。コレクション全体の「最低値」として市場の健康状態を示す指標として広く使われる。フロア価格の下落は、買い手の減少や市場の冷却を意味する。
ステーブルコイン
米ドルなどの法定通貨に価値が連動するよう設計された暗号資産だ。USDT(テザー)はその代表格で、1USDT=1米ドルに固定されている。価格変動リスクを避けながら暗号資産市場内で資金を保管・送金するために使われる。
オンチェーン分析
ブロックチェーン上に公開されたすべての取引データを解析する手法だ。ブロックチェーンはその性質上、全取引が誰でも閲覧可能なため、特定のウォレットアドレスがいつ、何を、どこへ送金したかを追跡できる。Arkham Intelligenceはその代表的なツールである。
ウォッシュトレード(Wash Trade)
同一の売買当事者(または共謀した複数者)が意図的に繰り返し取引を行い、出来高や価格を人為的に操作する行為だ。NFT市場では、フロア価格を維持・吊り上げるために使われたとして問題視されてきた。
リアルワールドアセット(RWA:Real World Assets)
不動産、債券、美術品など、現実世界に存在する資産をブロックチェーン上でトークン化したものだ。投機的なNFTとは異なり、裏付け資産があるため実用性が高く、近年の機関投資家の注目を集めている分野である。
スポット Bitcoin ETF
ビットコインの現物を裏付け資産とする上場投資信託(ETF)だ。2024年1月に米国で承認されたことで、機関投資家が株式市場を通じてビットコインに投資できるようになった。これがビットコインの強気相場を牽引した主要因の一つとされている。
DeFi(分散型金融)/ ステーキング
DeFiとは、銀行などの中央管理者を介さずにスマートコントラクトで運営される金融サービス群の総称だ。ステーキングはその一形態で、暗号資産をネットワークに預けることで利息に相当する報酬を受け取る仕組みである。
【参考リンク】
Arkham Intelligence(外部)
ウォレットアドレスと実在の人物・企業を紐づけるオンチェーン分析プラットフォーム。AIで取引データを解析する。
Bored Ape Yacht Club(Yuga Labs)(外部)
BAYCを運営するYuga Labsの公式サイト。メタバース「Otherside」の開発なども手がける。
Gemini(外部)
ウィンクルボス兄弟が2014年に設立した規制準拠の暗号資産取引所。今回の売却資金の送金先として登場する。
1inch(外部)
複数のDEXから最良レートを自動探索するDEXアグリゲーター。記事中でPEPEの売却に使用されたプラットフォーム。
MetaMask(外部)
イーサリアム対応のブラウザ拡張型暗号資産ウォレット。記事中でステーブルコインの小口移動に使用された。
Nifty Gateway(外部)
クレジットカード決済対応のNFTマーケット。「Dominion X」のNFT500枚が30秒で完売した場として登場する。
CoinDesk(外部)
米国発の暗号資産・ブロックチェーン専門メディア。本記事の一次情報源であり、2021年のアオキへのインタビューを掲載。
【参考記事】
Bored Apes’ floor price hits lowest point since 2021, down more than 90% from all-time high|The Block(外部)
BAYCのフロア価格がATH(152 ETH、約43万4000ドル)から90%超下落したことを複数データと照合しながら報じた記事。
NFT Market Shows Signs of Recovery in 2026 Amid Lingering Challenges|KuCoin(外部)
2025年のNFT市場取引量が約55億ドルと2024年比37%減だったことを詳報。市場構造の変化を分析した記事。
Bitcoin Price Hits All-Time High Above $126K|Carbon Credits(外部)
ビットコインが2025年10月6日に12万6000ドル超の過去最高値を記録した経緯と背景を詳報した記事。
If You Bought Bored Ape NFTs at the Peak, You’ve Lost 93% of Your Investment|Decrypt(外部)
ピーク時(2022年4月:152 ETH、約42万9000ドル)からBAYCの下落幅を分析。複数情報源の照合に使用した記事。
【編集部後記】
2021年のあの熱狂を、私たちも覚えています。セレブリティがこぞってNFTを購入し、「ブロックチェーンが文化を変える」という言説があふれていた時代です。スティーブ・アオキの売却は、その時代にひとつの句読点を打つような出来事でした。ただ、私たちが今回の記事を書きながら感じたのは、「NFTが死んだ」という単純な結論ではありません。投機の文脈から切り離され、ゲームや金融インフラの文脈で静かに生き続けているNFTの姿が、その先にあるように思えます。次の5年で、何が本物として残るのか——引き続き、みなさんと一緒に追いかけていきたいと思います。

