Qivalis・MiCA準拠のユーロ建てステーブルコイン、仏財務相が支持表明

Qivalis・MiCA準拠のユーロ建てステーブルコイン、仏財務相が支持表明

フランスの財務大臣ロラン・レスキュール氏は、欧州の銀行各行が2026年に発行を目指すユーロ連動ステーブルコインのイニシアチブを支持した。

これは、2025年9月にオランダのINGやイタリアのUniCreditを含むEUの銀行各行が立ち上げた「Qivalis」計画であり、EUのMiCA規制に準拠した上で、2026年後半の発行が予定されている。レスキュール氏は事前録音のメッセージで発言し、ドル連動型と比較したユーロ連動型の流通量の少なさに不満を示した。CoinMarketCapによると金曜時点でUSDTの時価総額は約1860億ドルである。

1月の世界経済フォーラムでは、フランス銀行総裁フランソワ・ヴィルロワ・ド・ガロー氏が民間マネーや利付きステーブルコインに警戒感を示した。米国では、7月に下院を通過したCLARITY法が上院で停滞している。

From: 文献リンクFrench finance minister backs euro-pegged stablecoins to compete with US

【編集部解説】

このニュースを一言で言えば、フランス政府がこれまでの「ステーブルコイン警戒論」から180度の方針転換を示した瞬間です。同国の前財務大臣ブルーノ・ル・メール氏は、民間発行のステーブルコインを「欧州の土壌にはふさわしくない」と明言し、国家主権への脅威と位置付けていましたが、現職のレスキュール氏は真逆の立場を取りました。

その背景を理解する鍵は、「デジタル・ドル化(digital dollarization)」という現象です。欧州中央銀行(ECB)の2025年11月の金融安定性レビューによれば、流通しているステーブルコインの約99%が米ドル建てで、ユーロ建ては約3億9500万ユーロにとどまります。伝統的な国際金融で大きな存在感を持つユーロが、オンチェーン上ではほとんどシェアを持てていないという非対称が生じているのです。

この非対称が持つ意味は、単なる市場規模の問題ではありません。ステーブルコインはいまやクロスボーダー決済、DeFi、企業間送金の「デジタル決済レール」になりつつあり、その上を流れる通貨がドルばかりになれば、欧州は自らの通貨で自らの経済活動を決済できない構造に陥ります。レスキュール氏が「満足できるものではない」と述べた数値の背後には、通貨主権そのものをめぐる危機感があるわけです。

対する米国は、米国では、2025年7月に成立したGENIUS法でドル建てステーブルコインのルール整備が進む一方、CBDCについては同年1月の大統領令で米政府機関の取り組み停止・禁止が打ち出されました。つまり米国は「民間ドルステーブルコイン推し」、欧州はMiCAの枠組みで「規制された銀行主導型ユーロステーブルコイン」という路線対立の構図が鮮明になっています。

そこで舞台に上がってきたのがQivalisです。2025年9月にING、UniCreditなど9行で発足した当初から、BNP Paribas、BBVA、DZ BANKなどが加わり、現在は12行体制に拡大しています。オランダにある本体は、同国中央銀行(DNB)から電子マネー機関(EMI)としての認可を取得する計画で、準備資産によって1対1で裏付けられるユーロ建てステーブルコインとして設計されており、銀行主導・MiCA準拠の形で発行を目指しています。この「銀行が発行体となり、MiCA準拠で保有者にいつでも額面での償還請求権を認める」という設計思想は、TetherやCircleとは異なるアプローチです。

一方、フランス銀行総裁ヴィルロワ・ド・ガロー氏が反対している「利付きステーブルコイン」は、今回の記事で触れられている米国CLARITY法が上院で停滞する原因のひとつと言えるでしょう。保有するだけで利回りが得られる設計は、既存の銀行預金から資金を吸い上げ、銀行システムの与信創造機能を弱める恐れがあります。欧米の当局者が揃って警戒する理由はここにあります。

レスキュール氏がステーブルコインと並べて「トークン化預金(tokenized deposits)」に言及した点も重要です。これはステーブルコインとは異なり、銀行預金そのものをブロックチェーン上で表現する仕組みで、預金保険など既存の銀行規制の枠組みをそのまま活用できます。金融安定性を損なわずに決済のプログラム化を進める、より保守的だが現実的な選択肢と言えるでしょう。

潜在的なリスクにも目を向ける必要があります。欧州がいまから本気で追いかけても、ドルステーブルコインの流動性と先行者利益は圧倒的で、追いつくのは容易ではありません。また、欧州9か国にまたがる12行もの銀行が足並みを揃えるガバナンスは構造的に複雑で、ユーザー体験やローンチ速度で民間勢に劣る可能性があります。「規制適合」が「使い勝手の悪さ」に直結してしまえば、結局USDT・USDCに流れる構図は変わりません。

長期的に見れば、この動きは「通貨のデジタル化をめぐる国際秩序の再編」の一コマです。日本にとっても他人事ではありません。円建てステーブルコインの流通量はさらに小さく、同じ構造的課題を抱えています。2026年後半のQivalisローンチは、ユーロ圏だけでなく、通貨主権とデジタル決済インフラの関係を考えるすべての国にとって、重要なケーススタディとなるはずです。

毎日何気なく使っている「お金」が、気づかないうちにデジタル空間では別の通貨へと置き換わっているかもしれません。欧州の銀行12行が連合を組んでまでユーロ建てのステーブルコインを急ぐ背景には、「決済インフラを他国通貨に握られたら何が起きるのか」という切実な問いがあります。これは対岸の話でしょうか。円建てステーブルコインがほとんど流通していない日本にとっても、同じ構造の課題が足元に広がっています。通貨主権とテクノロジーが交差する現場から、みなさんはどんな未来が見えますか。

【用語解説

ステーブルコイン
法定通貨(ドル、ユーロなど)や国債などの資産を裏付けとすることで、価格変動を抑えた暗号資産の一種である。主に決済、国際送金、暗号資産取引の仲介役として用いられる。

MiCA(Markets in Crypto-Assets)規制
EUが2024年から段階的に施行した、暗号資産に関する包括的な規制枠組みである。2024年12月に全面適用された。ステーブルコイン発行者には、EU内の認可取得、1対1の準備資産裏付け、いつでも額面で償還に応じる義務などが課される。

GENIUS法
米国で2025年にトランプ大統領が署名した、ドル建てステーブルコインに関する連邦法である。発行体の認可要件や準備資産のルールを定め、米国のドルステーブルコイン育成を国家戦略に位置付けた。

CLARITY法
米国の暗号資産市場構造法案である。2025年7月に下院を通過したが、上院ではステーブルコインの利回り、トークン化株式、倫理規定などの論点で審議が停滞している。

DeFi(分散型金融)
中央管理者を介さず、スマートコントラクトによって貸借、交換、運用などの金融サービスを提供する仕組みの総称である。

参考リンク】

Qivalis(外部)
欧州12行連合が設立した、MiCA準拠ユーロ建てステーブルコイン発行体の公式サイト。2026年後半ローンチ予定。

UniCredit(外部)
Qivalis創設メンバーのイタリア大手銀行グループ。欧州全域に展開する汎欧州型金融機関として知られている。

Tether(外部)
世界最大のステーブルコインUSDTを発行する事業者。2026年4月時点の時価総額は約1860億ドル規模とされる。

CoinMarketCap(外部)
暗号資産の時価総額・取引高などを集計する、業界で最も広く参照される市場データプラットフォーム。

World Economic Forum(外部)
毎年1月にスイス・ダボスで年次総会を開催する国際機関。各国首脳や経済界リーダーが一堂に集う場である。

De Nederlandsche Bank(外部)
オランダの中央銀行。QivalisがEMI認可を申請している監督当局として、今回の計画に関わっている。

参考記事

Stablecoins on the rise: still small in the euro area, but spillover risks loom(ECB, 2025年11月)(外部)
流通ステーブルコインの約99%がドル建てで、ユーロ建ては約3.95億ユーロにとどまることを示したECB公式分析。

Euro stablecoins and their potential effect on sovereign bond markets(ECB, 2026年4月)(外部)
2026年1月時点のユーロ建て時価総額約4.5億ユーロ。発行体形態と国債需要の関係を分析する最新論考。

France Backs Euro Stablecoin to Fight Dollar(SpazioCrypto)(外部)
ユーロが伝統金融では主要通貨の一つである一方、オンチェーン上では存在感が極めて小さいという構造的非対称を指摘する解説記事。

French minister urges banks to expand euro stablecoins, tokenized deposits: report(The Block)(外部)
ドル建てステーブルコイン市場が3000億ドル超、レスキュール氏の事前録音メッセージの詳細を整理。

Qivalis, joint venture of a European banking consortium, to launch euro stablecoin(CaixaBank)(外部)
Qivalis法人化、アムステルダム本社設置、DNBからのEMIライセンス取得方針を発表した公式リリース。

BBVA Joins Banking Consortium to Issue European Stablecoin(BBVA)(外部)
BBVAのQivalis参加を伝える公式発表。参加12行の国籍構成や加盟タイミングを確認できる一次情報である。

【編集部後記】

今回のニュースで感じたのは、通貨をめぐる競争がもはや国家対国家ではなく、「ドル建てデジタル決済レール」対「ユーロ建てデジタル決済レール」という技術基盤の覇権争いに移りつつあるということでした。興味深いのは、欧州が対抗の主体として民間の銀行コンソーシアムを選んだ点です。民間金融機関に舞台を任せる発想は、欧州らしい現実主義の表れにも映ります。一方で日本はこの構図のなかで自分たちをどう位置付けていくのでしょうか。議論を始めるタイミングはすでに訪れているのかもしれません。

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