東京商工リサーチが2026年4月27日に公表した生成AIに関する企業向けアンケート調査で、生成AIツールを「会社として活用を推進」している企業は20.3%(1,289社)だった。
「方針は決めていない」は37.5%で、前回調査(2025年8月)の50.9%から13.4ポイント低下した。大企業では組織的活用が59.1%に達し、前回から15.8ポイント上昇した。産業別では情報通信業が64.4%でトップ、金融・保険業が42.4%、サービス業他が38.5%で続いた。
今後5年以内にホワイトカラーの早期退職を募集する可能性が「ある」と回答した企業は3.6%(211社)。組織的活用を進める企業のうち53.4%が人員構成への影響を想定し、「既存業務の効率化で、従業員を配置転換する可能性がある」が28.9%だった。大企業の同回答は46.7%と中小企業の26.6%を上回った。
調査期間は2026年3月31日から4月7日、有効回答は6,327社である。
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「生成AI」 大企業の約6割が組織で活用推進 将来的に人員配置・抑制の見直し検討 53.4%
【編集部解説】
東京商工リサーチが2025年8月に実施した前回調査では、生成AIの方針未定企業が50.9%と過半数を占めていました。それからわずか8ヶ月で「様子見」が13.4ポイント減少した今回の結果は、日本企業の生成AI活用が「様子見」から、少なくとも一部企業で組織的な導入・運用を進める段階へ移りつつあることを示しています。
特に注目すべきは、大企業における「個人利用は微減(△0.5ポイント)、組織的活用は大幅増(+15.8ポイント)」という非対称な動きです。これは単なる導入率の上昇ではなく、「シャドーAI」から「ガバナンス下のAI活用」への移行という構造変化を意味していると読み解けます。
シャドーAIとは、IT部門の承認や監視を経ずに従業員が個人アカウントで業務に生成AIを利用する状態を指します。情報漏えいやコンプライアンス違反の温床となることから、IBMをはじめ多くのセキュリティベンダーが警鐘を鳴らしてきました。大企業が個人利用を減らし、法人プランや自社専用環境へと舵を切っている背景には、こうしたリスク管理の成熟があると考えられます。
一方、産業別の数値には不均一な現実が見て取れます。情報通信業の組織的活用率64.4%に対し、農・林・漁・鉱業や建設業では「方針未定」が約半数。総務省『令和7年版 情報通信白書』も同様の業種間ギャップを指摘していますが、TSRの最新データはその格差がさらに拡大しつつあることを示唆しています。AIトランスフォーメーションは、産業間の競争力をこれまで以上に決定的に分ける要素になり得るでしょう。
雇用への影響については、慎重な読み方が求められます。「5年以内の早期退職募集の可能性あり」が3.6%にとどまる一方、組織活用を進める企業の53.4%が人員構成への何らかの影響を見込み、大企業の46.7%が「配置転換の可能性」を挙げました。
ここで海外の動向と比較してみます。欧米では2025年から2026年にかけて、Amazon、Workday、Salesforceなど主要企業が人員削減を相次いで発表し、その理由の一つにAIが挙げられていました。米Challenger, Gray & Christmas社の集計を引用した報道では、2025年の米国における人員削減のうち、AIが重要な要因として挙げられたものが約55,000人規模に上るとされ、これは同年の総人員削減数約117万人の一部に位置づけられています。これに対し、少なくとも今回のTSR調査では、日本企業の回答は早期退職募集よりも配置転換の可能性に重きが置かれており、現時点では「削減」よりも「再配置」を検討する傾向が強いと読めます。
この差は、日本特有の雇用慣行と、生成AIの効果実感の遅れの両面から生まれていると見られます。PwC Japanの2025年春調査によれば、日本企業は他国に比べて生成AI活用を「ツール」として捉える傾向が強く、ビジネス変革の中核に据える動きが弱いと指摘されています。今回のTSR調査が示す「業務効率化を起点とする配置転換」は、その文脈の延長線上にあると言えるかもしれません。
長期的には、2026年は生成AIが「対話するツール」から「自律的に行動するAIエージェント」へと進化する転換点とも目されています。AIエージェントが普及すれば、配置転換だけでは吸収しきれないタスクの再編が起きる可能性も否定できません。今回の3.6%という早期退職の数字は、現時点のスナップショットに過ぎないと捉えるべきでしょう。
規制環境にも触れておきます。EUのAI法は、人員削減そのものを直接規制する法律ではなく、AIシステムのリスク管理や透明性義務を定める包括的な規制です。一方、日本は総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン」を中心に、非拘束的なソフトローを基盤とするアプローチを採っています。企業のAIガバナンス整備が労働組合や株主との対話、ESG評価にも直結する局面が近づいています。
innovaTopiaの読者であるアーリーアダプター層にとって、この調査結果は「自分の組織がどこに位置するか」を測るベンチマークであると同時に、自身のキャリア戦略を見直す契機でもあります。組織導入が進めば、求められるスキルは「AIを使うこと」から「AIと協働して新しい価値を生むこと」へとシフトしていくと予想されます。
数字が示すのは、日本企業がついに観望から行動へ動き出したという事実です。ただし、業種・規模による格差、人員再配置の行方、AIエージェント時代への備え——「次の8ヶ月」で問われる課題は、むしろ今回の調査が浮かび上がらせた本質的な論点ではないでしょうか。
【用語解説】
シャドーAI(Shadow AI)
従業員がIT部門の承認や監視を経ずに、個人アカウントなどで業務に生成AIを利用する状態を指す。情報漏えいや機密データの意図しない学習利用など、企業ガバナンス上の重大なリスク要因とされる。
AIガバナンス
企業がAIを倫理的・法的・技術的に適切に管理・運用するための枠組みである。リスクベースで利用範囲を統制し、責任の所在や説明可能性を確保する仕組みづくりが含まれる。
AIエージェント
曖昧な目標を与えるだけで、自律的に複数ステップのタスクを完遂するAIを指す。従来の対話型生成AIから一歩進み、業務プロセスそのものを実行する存在として2026年にかけて注目が高まっている。
ソフトロー
法律のような強制力を持たない、ガイドラインや業界自主規範による緩やかなルール体系である。日本のAI規制はEU AI法のようなハードローと異なり、ソフトロー中心のハイブリッド路線を採用している。
ESG評価
Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の3つの観点から企業の持続可能性を評価する枠組みである。AI活用に伴う雇用配慮や倫理的運用は、ESGの「S」「G」と直結する論点となっている。
アーリーアダプター
新しい製品や技術を早期に採用する層を指すマーケティング用語である。エベレット・ロジャースのイノベーター理論に基づく分類で、市場全体への普及を左右する初期採用者層に位置づけられる。
【参考リンク】
東京商工リサーチ(外部)
企業情報・与信管理サービスを提供する日本の代表的な信用調査会社。今回の調査の実施主体である。
総務省『令和7年版 情報通信白書』 企業におけるAI利用の現状(外部)
日米独中の4か国比較で日本企業のAI活用状況を整理した政府公式の調査結果が掲載されている。
AI事業者ガイドライン(経済産業省)(外部)
日本国内のAI活用指針。開発者・提供者・利用者の3区分で行動指針を示すLiving Documentである。
PwC Japan『生成AIに関する実態調査2025春 5カ国比較』(外部)
日米英独中の5カ国比較で、日本企業の生成AI活用効果実感の低さや成功企業の特徴を分析している。
IBM『シャドーAIとは』(外部)
シャドーAIの定義、シャドーITとの違い、企業が直面するリスクと対策を体系的に解説したリファレンスだ。
【参考記事】
「生成AI」 活用は企業の25%にとどまる 「業務効率化」が9割超、専門人材不足がネック(東京商工リサーチ)(外部)
2025年7月30日〜8月6日に実施されたTSRの前回調査。有効回答6,645社のうち「方針は決めていない」が50.9%(3,388社)で最多、組織的活用は大企業43.3%・中小企業23.4%。今回調査と比較する基準となる重要な一次情報である。
Top 20 Predictions from Experts on AI Job Loss(AIMultiple Research)(外部)
2026年最初の2か月でテクノロジー企業が約32,000人を削減。2025年にはChallenger, Gray & Christmas集計で約55,000人がAIに起因する人員削減で職を失ったとする。Amazon 14,000人、Workday 8.5%(約1,750人)など具体例を整理した記事だ。
How Will AI Affect the Global Workforce?(Goldman Sachs)(外部)
ゴールドマン・サックスのリサーチ部門による分析。生成AIが米国などの先進国で労働生産性を約15%押し上げる一方、技術主導の生産性1pt上昇あたり失業率は0.3pt上昇するが、職業転換による失業は通常約2年で解消される傾向があると論じている。
Tech Layoffs 2026: How AI Is Driving the Biggest Workforce Shift(Tech Insider)(外部)
2026年第1四半期のテクノロジー業界における人員削減動向を分析。EU AI法が労働市場の混乱に直接対応していない点や、サンフランシスコ・シアトルなど従来のテックハブで再就職競争が激化している現状にも言及している。
【編集部後記】
今回の調査が映し出すのは、皆さんの会社や、皆さん自身のキャリアにも静かに迫る変化ではないでしょうか。「組織で活用」が広がる一方、大企業の個人利用は微減という数字は、私たち一人ひとりがAIとどう向き合うかという問いを投げかけているように感じます。配置転換が現実の選択肢となるなか、AIに置き換えられる仕事ではなく、AIと共に新しい価値を生み出す仕事をどう作っていくか。皆さんの職場では、いま生成AIはどんな存在になっていますか。innovaTopiaは、そうした問いを皆さんと一緒に考え続けていきたいと思っています。

