株式会社モナトカ(東京都千代田区、代表取締役:渡邉潤平)は2026年4月28日、モナコインブロックチェーンの秘密鍵をノンカストディアルで管理する「モナトカ・キーボックス」をリリースした。
ニーモニック(シードフレーズ)に関連するデータをサーバとクライアントに分割保存し、サーバ側データの取得にパスキー認証を用いる。対応サービスはウォレットのmonashell、マーケットプレイスのもなこっと(利用料2.4%)、AIカードバトルゲームのKnights of Monadom(モナダム)の3つである。
ニーモニックはテキスト、NFC、二次元バーコードによるエクスポート/インポートに対応し、WIF形式は今後対応予定である。コア技術は株式会社AndGoによるプロトコル診断を受けており、当該技術は特許出願中で出願内容は非公開である。
From:
パスキーを利用した、ノンカストディアル・モナコイン秘密鍵管理システム「モナトカ・キーボックス」をリリース!
【編集部解説】
このリリースは、一見すると日本国内のニッチな暗号資産「モナコイン」のウォレット周辺サービスの話題に見えるかもしれません。しかし、その本質は「自己責任で資産を守る世界」と「使いやすさ」をどう橋渡しするかという、Web3全体に通底する課題への日本発の解答であると言えるでしょう。
ここで採用された「パスキー」は、2026年現在、AppleやGoogleなど主要プラットフォーマー主導で急速に普及している、パスワードレス認証の世界標準になりつつある仕組みです。フィッシング耐性が高く、生体認証で完結するため、UXを損なわずに強固なセキュリティを実現できる点が支持されています。
注目したいのは、モナトカ・キーボックスが採用している「分割保存」の設計思想です。秘密鍵の復元に必要なデータをクライアント(利用者の端末)とサーバの双方に分割して保管し、どちらか片方だけでは鍵を復元できない仕組みになっています。これにより、サーバが破られても、あるいは同期パスキーが攻撃者の端末に不正同期されても、それ単体では資産は流出しません。
この発想は、グローバルではJoyIDやCoinbase Smart Wallet、Para、Dynamicといった、パスキーやアカウント抽象化、組み込み型ウォレットを活用するプロジェクトが先行している「鍵管理UX改善」の流れと重なります。ただし、それらの多くがイーサリアム系の「アカウント抽象化(ERC-4337)」と組み合わせる前提で設計されているのに対し、モナトカはBitcoin系のチェーン(モナコインはライトコインから派生したPoWチェーン)に対してニーモニック分割という比較的軽量なアプローチで応用しており、設計上のローカライズが効いている点が興味深いところです。
「ノンカストディアル」の徹底ぶりも見逃せません。同社はニーモニックをテキスト/NFC/二次元バーコードで持ち出し可能にし、同じ復元仕様のウォレットへ移行できる設計を明示しています。今後はWIF(Wallet Import Format)形式での秘密鍵入出力にも対応予定とされており、いわゆる「ベンダーロックイン回避」が設計に織り込まれています。これは「セルフカストディ(自分の資産は自分で守る)」というブロックチェーンの根本理念に対する誠実な姿勢の表れと言えるでしょう。
セキュリティ検証の透明性も特筆すべき点です。コア技術のプロトコル診断を担当した株式会社AndGoは、東京理科大学発の暗号技術スタートアップで、署名鍵管理ソリューションを金融機関向けに提供する、この分野の専門集団です。第三者の専門企業による外部検証を経ている事実は、個人事業者規模に近い体制の暗号資産プロダクトとしては、信頼性の担保として重要な意味を持ちます。
一方で、過信は禁物です。リリース文中にも明記されているとおり、今回の診断は「プロトコル(設計)」に対するもので、「実装」までを対象とするものではありません。設計が堅牢でも実装にバグがあれば資産は危険に晒されます。また、パスキーそのものはAppleやGoogleアカウントのセキュリティに依存するため、これらクラウドアカウントの保護がユーザー側の責任として残ります。さらに、コア技術は特許出願中で出願内容は非公開のため、外部研究者による独立した精査がしづらい状況にもあります。
「なぜ今このニュースか」を最後に整理します。2026年は、AIの発展により攻撃側の能力が劇的に底上げされ、フィッシングや認証情報の不正取得が量産化しつつある年です。一方で、欧州MiCA規則の経過措置終了(2026年7月)が迫り、過去のFTX破綻を受けた「自己保管へのシフト」も世界的に加速しています。「使いにくいから取引所に預ける」と「自己保管したいけれど鍵管理が怖い」のジレンマを、パスキーで解こうとする試みは、Web3を一般層に届ける最後の一里(ラストワンマイル)を埋めるピースです。
モナコイン自体は時価総額ランキング1000位前後と決して大きな通貨ではありません。しかし、ニッチで身軽だからこそ実装できる先端的な設計が、いずれビットコインやイーサリアム系の主要ウォレットへ波及する可能性は十分にあります。日本のサブカルチャーから生まれた通貨が、グローバルなWeb3 UX革命に対して一つの答案を提出した ── そう捉えると、このリリースの解像度は一段上がるはずです。
【用語解説】
ノンカストディアル / セルフカストディ
利用者が自身の秘密鍵を自身で保有・管理する方式である。事業者はユーザー資産を動かす権限を持たない。「自分の資産は自分で守る」という暗号資産の根本思想を技術的に体現する。
ニーモニック(シードフレーズ)
秘密鍵を人間が読み書き可能な形式で復元するための単語列。多くのウォレットで12語または24語の英単語が用いられる業界標準である。
WIF形式
Wallet Import Formatの略。Bitcoin系で広く採用されている秘密鍵のテキスト表現フォーマットで、ウォレット間移行の際の事実上の標準とされる。
MPC(マルチパーティ計算)
Multi-Party Computation。複数の当事者が秘密データを互いに露出させずに共同計算を行う暗号技術。鍵を分割管理する次世代ウォレットで応用が進む。
アカウント抽象化(ERC-4337)
イーサリアム上で「アカウント」自体をスマートコントラクトとして扱う仕様だ。鍵紛失時の復旧、ガス代の肩代わり、バッチ送信など柔軟な機能を可能にする。
PoW(プルーフ・オブ・ワーク)
ブロックチェーンの合意形成方式の一つ。計算量を競うマイニングで取引を検証する。Bitcoin、ライトコイン、モナコイン等で採用されている。
モナカード
モナコインのブロックチェーン上で発行されるFT/NFTの総称である。
Web3
ブロックチェーンを基盤とした分散型インターネットの概念。ユーザー自身がデータと資産の所有権を持つことを前提とする。
MiCA規則
Markets in Crypto-Assets。EUの暗号資産包括規制で、2023年6月に発効し、2024年6月30日にステーブルコイン関連、2024年12月30日に暗号資産サービスプロバイダ(CASP)規制を含む全面適用が開始された。既存事業者向けの経過措置は2026年7月1日に終了する。
FTX破綻
2022年11月に経営破綻した米国の大手暗号資産取引所。顧客資産流用が発覚し、世界的にセルフカストディ志向を加速させた事件である。
【参考リンク】
株式会社モナトカ 公式サイト(外部)
モナコイン普及を掲げ2022年に設立された東京・神保町の事業会社。ウォレット、NFTマーケット、AIゲームを展開する。
monashell(外部)
株式会社モナトカが提供するモナコイン・モナカード対応の個人向けウォレットで、モナトカ・キーボックスにも対応する。
もなこっと(外部)
モナコインブロックチェーン上のFT/NFT「モナカード」専門マーケットプレイスである。利用料2.4%は売れたとき払い。
Knights of Monadom(モナダム)(外部)
モナカードのなまえとプロフィールを基に、AIがバトルストーリーを生成して勝敗を決める新感覚カードバトルゲーム。
株式会社AndGo 公式サイト(外部)
東京理科大学発の暗号技術スタートアップ。秘密計算とFinTechセキュリティを軸に署名鍵管理を金融機関等へ提供する。
Monacoin Project(モナコイン公式サイト)(外部)
2013年12月にネット上で構想が生まれ、2014年1月から運用が開始された日本初の暗号資産「モナコイン(MONA)」の公式サイトで、技術仕様や歴史を確認できる。
【参考記事】
モナコインの今後・将来性・オワコンと言われる理由を解説(icobench)(外部)
2026年時点のモナコイン時価総額1800万ドル、決済速度90秒、店舗55店舗の実用例を解説した記事である。
仮想通貨MONA(モナコイン)とは?将来性や今後の見通しについて徹底解説!(CRYPTO INSIGHT / ダイヤモンド・ザイ)(外部)
2026年1月時点のモナコイン時価総額9.9億円、ランキング1234位を伝える日本国内向け解説記事である。
AndGo – STARTUP DB(外部)
AndGoが東京理科大学発で、2025年4月にインタートレードの持分法適用関連会社化したと報じる企業情報記事。
Markets in Crypto-Assets Regulation (MiCA) – ESMA(外部)
欧州MiCA規則の正式な時系列・条文・経過措置(2026年7月1日終了)を示す欧州証券市場監督機構の公式ページ。
EU regulator clarifies expectations ahead of MiCA deadline(CoinGeek)(外部)
ESMAが2026年7月1日のMiCA経過措置満了とライセンス未取得事業者の制裁内容を確認した最新の報道記事。
Revolutionizing the Future of Web3: In-Depth Insights into Passkey Wallets(The Block)(外部)
JoyIDのAA口座と2-of-2鍵分割設計、EIP-7212によるEVM上のパスキー検証コスト低減策を解説した英語記事。
Top 10 Embedded Wallets for Apps in 2026(Openfort)(外部)
2026年時点で主要10社の埋込型ウォレットSDKを比較し、パスキーとアカウント抽象化の潮流を整理した記事である。
【編集部後記】
「自分の資産は自分で守る」と言われても、シードフレーズを紙に書いて金庫にしまうのはどうにも気が重い ── そう感じてきた方は、きっと少なくないはずです。今回のモナトカ・キーボックスは、その違和感を正面から受け止めた一つの設計解だと、編集部は受け取りました。皆さんがふだんスマホのロック解除に使っている指紋や顔認証が、そのままWeb3資産の入口になる時代は、もうすぐそこまで来ています。皆さんはどんなUXであれば「自己保管」を始めてみたいと思えますか。お聞かせいただけたら嬉しいです。
