DoorDashは、フードデリバリーアプリのユーザー、配達員(ダッシャー)、加盟店に対し、ステーブルコインによる取引オプションを提供する計画である。
Tempoブロックチェーンが火曜日に発表した。対象は40か国を超えるユーザーに及ぶ見込みで、支払い処理のスピード、クロスボーダーコストの低減、取引の柔軟性が理由に挙げられた。DoorDash共同創業者のアンディ・ワン氏がコメントしている。Tempoは同時にStripe、Paradigm、Coastal Bank、ARQとの連携も発表した。DoorDashは2026年2月、2025年第4四半期に9億300万件の注文を配達し、取扱高297億ドルに達したと発表しており、2026年第1四半期決算は5月6日に予定されている。Stripeは2024年にBridgeを11億ドルで買収合意、Mastercardは2026年3月にBVNKを報道ベースで18億ドルで買収合意、Visaは2025年7月にステーブルコイン決済プラットフォームを拡張した。
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DoorDash to offer stablecoin payments to users via Tempo blockchain
【編集部解説】
今回のニュースで編集部が最も注目するのは、DoorDashが2025年9月以来Tempoの「デザインパートナー」として参画してきた事実を踏まえ、今回その関係が本番運用フェーズ(プロダクション)へ移行したという文脈です。つまり、40か国超で日々動く実決済にステーブルコインが流れ始める、世界最大級の実証ケースが立ち上がろうとしているのです。
一点、訂正を加える必要があります。原文のCointelegraphではDoorDash共同創業者を「Andy Fang」と表記していますが、Decryptなど他媒体の同発表に関する記事では、同じ発言の主を共同創業者のアンディ・ファン(Andy Fang)氏と紹介しています。同社の共同創業者はトニー・シュー氏、アンディ・ファン氏、スタンレー・タン氏、エバン・ムーア氏の4名(ムーア氏は創業17か月後に離脱)とされており、「Andy Fang」は原文側の誤記である可能性が高いと判断しました。以降本記事では「アンディ・ファン氏」と記載します。
原記事ではさらっと触れられているだけですが、Tempoは単なるパートナーブロックチェーンではなく、StripeとParadigmが自らインキュベートした決済特化型のレイヤー1です。2025年9月に構想が公表され、同年12月にテストネット、2026年3月にメインネットが稼働を開始しました。シード資金調達は5億ドル(約795億円、1ドル=159円概算、以下同)、企業評価額は約50億ドル(約7950億円)と報じられており、OpenAI、Shopify、Visaらをデザインパートナーに迎えてきた経緯があります。
技術的な特徴は、汎用型のブロックチェーンとの違いに凝縮されています。EVM互換でありながら実行層にはParadigm製の高性能クライアントRethを採用し、処理性能は毎秒10万トランザクション超、ファイナリティは1秒未満、手数料は米ドル建てで予測可能、しかもネイティブトークンを持たずステーブルコインそのものをガス代として支払えるという設計が採られています。加えて、取引の詳細を当事者のみが参照できる「Tempo Zones」、そしてAIエージェントがAPIやコンピューティングを自律的に購入するための「Machine Payment Protocol(MPP)」の導入も進んでおり、人とモノだけでなく機械が機械に支払う経済の決済レールとしての役割まで視野に入れた作り込みが特徴的です。
DoorDashにとっての実利は具体的です。同社はユーザー、加盟店、配達員(ダッシャー)の三者が絡む「3サイドマーケットプレイス」を運営していますが、40か国超では決済レール、為替、決済タイミング、規制要件が国ごとに異なり、とりわけ海外のダッシャーへの支払いは銀行送金ベースでは数日を要し、送金手数料も重荷でした。Tempo上のステーブルコイン決済へ切り替えると、理論値としては秒〜分単位での着金と大幅なコスト圧縮が見込まれます。ダッシャー視点では「仕事を終えたその日に、どの国にいてもほぼ手数料ゼロで給与が届く」という労働体験の刷新につながる話です。
この動きは業界構造の地殻変動と連動しています。Stripeは2024年10月にステーブルコイン基盤のBridgeを11億ドル(約1749億円)で買収すると発表(2025年2月にクローズ)、Mastercardは2026年3月にBVNKを最大18億ドル(約2862億円、うち3億ドル(約477億円)は業績連動)で買収することに合意済みです。Visaも対応銘柄の拡張に加え、Tempoにおいてはアンカー・バリデータとして運用に関与しています。既存カードネットワークはステーブルコインを「脅威」ではなく、自らのバックエンドに組み込むべき次世代の配管として戦略化し始めている、という構図が鮮明になってきました。
制度面にも追い風があります。米国では2025年に成立した「GENIUS Act」が連邦レベルでのステーブルコイン発行・流通の枠組みを整備し、英国でも決済ルール改定が議論されています。日本でも2022年成立・2023年6月施行の改正資金決済法により、電子決済手段としてのステーブルコイン発行が制度上可能となり、JPYCが2025年8月に国内初の資金移動業者登録を受け、同年10月27日より円建てステーブルコインとしての正式発行を開始しました。テクノロジー、ビジネス、規制の三つ巴がようやく同じ方向を向いた局面であり、今回の発表はその同時進行を象徴する一打と読むべきでしょう。
一方で、楽観だけでは語れないリスクも併存します。ステーブルコインは発行体の信用と準備金構成に価値が依存しており、2023年のUSDC一時ディペッグは、ペグの「静けさ」が永続するとは限らないことを示した事例でした。またダッシャーが受け取った資金を現地通貨に換える「オフランプ」の整備状況は国によってまちまちで、「速く届くが、現金にしづらい」という新たな摩擦が生まれ得ます。加えてTempoはバリデータが現時点で限定されており、「中立的な公共インフラ」としての分散化をどこまで進められるかは、今後の信頼性を左右する論点となるはずです。
長期的な視点に立てば、今回の提携は「ステーブルコインが投機対象からワーキングマネーへ」という性格転換を象徴する出来事であり、その先には、人だけでなくAIエージェントがAPIや計算リソースを自律購入する「機械間経済」の到来も見え始めています。フードデリバリーという日常の接点を持つDoorDashがその入口に立ったという事実は、私たちの経済活動がどのように再設計されていくのかを見定めるうえで、極めて示唆に富んだ観測点になると考えます。
【用語解説】
ステーブルコイン
法定通貨(多くの場合は米ドル)に価値を連動させた暗号資産の一種。1トークン=1ドルのように価格を安定させる設計で、発行体が同等の準備資産を保有する方式が主流である。国際送金や企業間決済の「即時決済レール」として急速に普及しつつある。
レイヤー1ブロックチェーン
他のチェーンに依存せず独立して取引の記録と検証を行う「土台」となるブロックチェーン。ビットコインやイーサリアム、今回登場するTempoも該当する。上位に拡張レイヤー(ロールアップ等)を積み上げる起点となる層を指す。
EVM互換(Ethereum Virtual Machine互換)
イーサリアム上で動く契約コード(スマートコントラクト)と同じ言語・ツールを、そのまま別のチェーンでも使える状態のこと。開発者は新しい言語を学ばずに移植・展開でき、既存のイーサリアム資産のエコシステムと接続しやすい。
Reth(レス)
Paradigmが開発したRust言語製のイーサリアム実行クライアント。高性能・モジュール性を重視して設計され、Tempoの実行層に採用されている。
ファイナリティ
取引が取り消されたり巻き戻されたりしない「確定状態」に到達するまでの時間。Tempoは「サブセカンド(1秒未満)」を標榜しており、レジ決済のようなリアルタイム用途にも耐える水準とされる。
ガス代
ブロックチェーン上でトランザクション(送金やスマートコントラクト実行)を行う際に支払う手数料。Tempoはネイティブトークンを持たず、ステーブルコインで直接ガス代を支払える点が特徴的である。
バリデータ / アンカー・バリデータ
ブロックチェーンの取引を検証し、新しいブロックを承認する役割を担うノード。アンカー・バリデータは立ち上げ期のネットワークで中核的な検証役を担う参加者を指す。Tempoでは当初、指定された複数企業がバリデータを運用し、将来的に分散化(パーミッションレス化)を進める方針が示されている。
デザインパートナー
ブロックチェーンやソフトウェアの開発初期段階から、実際のユースケースを提供しつつ要件を一緒に練り上げる企業パートナーのこと。DoorDashは2025年9月のTempo公表時点からこの立場で参画してきた。
3サイドマーケットプレイス
買い手、売り手、配達員(ワーカー)など、三者の利害と決済が交錯するプラットフォームモデル。Uber Eatsや出前館も同様の構造を持つ。決済レール・為替・規制対応を三方向で同時に最適化する難度が高いのが特徴だ。
オフランプ / オンランプ
暗号資産と法定通貨を相互に変換する出入口のこと。給与としてステーブルコインを受け取っても、それを現地銀行口座の現金に換える「オフランプ」手段が乏しいと、実用上の便益は減衰する。
ディペッグ(de-pegging)
ステーブルコインの価格が、連動させているはずの法定通貨価値から乖離する現象。2023年3月のUSDCは、発行元Circleの預金の一部がシリコンバレー銀行破綻の影響を受けたことで一時的に1ドルを大きく下回った。
GENIUS Act
2025年に米国で成立した、連邦レベルで初のステーブルコイン規制枠組み法。発行体の登録・準備金開示・消費者保護等を定め、決済系ステーブルコインの主流採用に制度的な追い風となった。
改正資金決済法(日本)
2022年6月成立、2023年6月1日施行された日本の法改正。電子決済手段(円建てステーブルコインなど)の発行主体や仲介業者の枠組みが定められた。JPYCは2025年8月に国内初の資金移動業者登録を受け、同年10月27日より円建てステーブルコインの正式発行を開始している。
Machine Payment Protocol(MPP)
Tempoが提唱する、AIエージェントが自律的にAPIや計算リソースに対して支払いを行うためのプロトコル。HTTPステータスコード「402 Payment Required」を活用する設計で、機械対機械(M2M)決済の標準化を狙う。
Tempo Zones
empoに実装されている「プライベート実行環境」。取引の詳細を当事者のみが参照できるようにしつつ、同じチェーンのセキュリティを享受できる。エンタープライズが機密性の高い商取引をオンチェーン化するための設計要素である。
ダッシャー(Dasher)
DoorDashの配達業務を担う独立契約者(デリバリーワーカー)の呼称。日本の「配達クルー」に相当する。
【参考リンク】
DoorDash(公式サイト)(外部)
米国最大級のフードデリバリー企業の公式サイト。サービス概要、対応エリア、加盟店や配達員向けの各種情報がまとめられている。
DoorDash Investor Relations(IR公式)(外部)
四半期決算資料・プレスリリース・年次報告書などの一次情報が閲覧できる、DoorDash社の投資家情報ページである。
Tempo(公式サイト)(外部)
StripeとParadigmがインキュベートした決済特化型のレイヤー1ブロックチェーン。技術仕様・導入事例・ブログを掲載する。
Tempo Blog(DoorDash導入発表・一次情報)(外部)
今回の発表の一次情報ページ。DoorDash、Stripe、Coastal、ARQのオンボーディングに関する詳細が記載されている。
Stripe(公式サイト)(外部)
グローバルなオンライン決済基盤を提供する決済企業の公式サイト。Tempoの共同インキュベーターでありBridge買収も完了した。
Paradigm(公式サイト)(外部)
暗号資産・Web3領域に特化した米国のベンチャーキャピタル。Tempoの共同インキュベーターであり、Rethの開発主体でもある。
BVNK(公式サイト)(外部)
英国拠点のステーブルコイン・インフラ企業。2026年3月にMastercardによる最大18億ドルでの買収が合意された。
Mastercard(公式サイト)(外部)
グローバル決済ネットワーク大手の公式サイト。BVNK買収を通じてステーブルコイン領域への本格参入を進めている。
Visa(公式サイト)(外部)
世界最大級の決済ネットワーク。ステーブルコイン決済基盤を拡張し、Tempoのアンカー・バリデータも務めている。
Coastal Community Bank(公式サイト)(外部)
米国拠点の銀行。BaaS(Banking as a Service)で知られ、Tempo上でのステーブルコイン決済統合に参加している。
JPYC(公式サイト)(外部)
日本円と価値を連動させた円建てステーブルコインの発行体。2025年10月に国内初の資金移動業者型ステーブルコインを正式発行開始。
【参考記事】
DoorDash to Pay Delivery Workers in Stablecoins via Stripe’s Tempo Blockchain(Decrypt)(外部)
共同創業者アンディ・ファン氏の実名発言を掲載した記事。原文の氏名表記の誤りを特定する根拠となった。
DoorDash joins massive fintech push to bring stablecoins payouts to merchants(CoinDesk)(外部)
ステーブルコイン市場が3000億ドル規模に拡大した点や、Tempoの本稼働時期と参加企業を詳述した報道。
DoorDash Teams Up with Tempo on Stablecoin Payments for Its Global Marketplace(The Defiant)(外部)
DoorDashが2025年9月以来のデザインパートナーとして本番運用に移行する経緯と、同時発表企業の規模を詳述。
DoorDash to offer stablecoin payouts with Tempo in push toward everyday crypto payments(The Block)(外部)
Tempoの技術仕様(ファイナリティ・手数料設計・決済専用ブロックスペース等)を詳説した解説記事。
Mastercard acquiring stablecoin startup BVNK in $1.8 billion bet on future of payments(CNBC)(外部)
MastercardによるBVNK最大18億ドル(うち3億ドルは業績連動)買収合意を伝える報道。決済大手の戦略転換を示す。
Stripe Completes US$1.1bn Bridge Acquisition(FinTech Magazine)(外部)
StripeによるBridge買収(2024年10月発表・2025年2月クローズ・11億ドル)完了報道。Stripe史上最大の買収案件。
DoorDash’s founders share the food delivery company’s origin story(The Business of Business)(外部)
DoorDashの共同創業者4名(Xu、Fang、Tang、Moore)の経緯と、Moore氏の早期離脱の背景を伝える記事。
【編集部後記】
いつも使うフードデリバリーの裏側で、決済のレール自体がブロックチェーンに静かに乗り換わろうとしています。もし皆さんがダッシャーのような立場で、給与が国境を越えて数秒で届くとしたら、働き方の選択肢はどう変わるでしょうか。また、日本で円建てステーブルコインを日常の支払いに使う日が来たら、財布の中身はどんな風景になるでしょう。今回の一件は、遠い海の向こうの話ではなく、私たちの暮らしにじわりと近づく未来の予兆かもしれません。ぜひ皆さんの感触を聞かせてください。

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