Blockchain.comは、同社のノンカストディアル型DeFiウォレットに無期限先物取引機能を追加した。火曜日の発表によれば、この機能は分散型デリバティブ取引所Hyperliquidを経由し、190を超える暗号資産市場に最大40倍のレバレッジでアクセスできる。ユーザーは自己保管したビットコインを担保とし、取引所へ資金を移すことなくウォレットから直接ポジションを開設・管理・決済できる。ビットコイン(BTC)による口座入金は1回の取引で完了する。同社は今後、外国為替、株式、コモディティへと対象アセットクラスを拡大する方針だ。Blockchain.comは2011年創業でマルタに拠点を置く。CFTC委員長のマイケル・セリグ氏は先月、同契約を今後数週間以内に認可する方針を示した。2月にはKrakenが、3月にはCoinbaseが米国外向けに株式ベースの無期限先物を開始しており、The Informationは火曜日、Kalshiも米国内での参入を検討中と報じた。
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Blockchain.com adds perpetual futures trading to self-custody wallets
【編集部解説】
今回の発表が持つ意味は、「老舗ウォレットが新機能を追加した」という以上に深いものがあります。2011年創業のBlockchain.comは、ビットコイン草創期から数千万人規模のウォレットを運営してきた業界の古参です。その同社が、自社で取引エンジンを構築する道を選ばず、分散型取引所のHyperliquidに接続する形を採った点に、DeFi領域で進行中の構造変化が色濃く表れています。
技術的な仕組みを整理しておきます。従来の先物取引では、ユーザーは中央集権型取引所に資金を送金し、取引所のカストディ下で建玉を取るのが一般的でした。今回のモデルでは、ビットコインはウォレット内にとどまったまま担保として機能し、約定処理はHyperliquid側で行われる設計です。秘密鍵を手放さずにレバレッジ取引が可能となる、いわゆる「セルフカストディ型デリバティブ」の実装例と位置づけられます。
Hyperliquid側にとっても、この統合は大きな意味を持ちます。同プラットフォームは独自のレイヤー1ブロックチェーン上でオーダーブック方式の無期限先物を提供しており、分析プラットフォームArtemisのデータによれば、2026年3月時点で分散型無期限先物のオープンインタレスト(未決済建玉)の70%超を占めるとされています。自社でマッチングエンジンを一から構築するのではなく、流動性プールとしてのHyperliquidへ接続する――この設計判断は、ウォレット事業者にとって合理的な選択肢として定着しつつある兆候と読み取れます。
規制面の文脈も見逃せません。CFTC委員長のマイケル・セリグ氏は3月のMilken Institute Future of Financeカンファレンスで、暗号資産の無期限先物を数週間以内に米国内で認可する方針を示しました。アジア、欧州、バハマへと流出した流動性を国内に呼び戻すことが狙いとされます。今回のBlockchain.comの動きは、この規制解禁の「前夜」に打たれた戦略的な一手として捉えることができるでしょう。ただし、現時点で米国在住ユーザーは依然としてサービス対象外である点は、冷静に記しておく必要があります。
将来への展望として特に注目したいのは、外国為替・株式・コモディティへと対象資産を拡大する計画です。これは、Krakenが2月に、Coinbaseが3月に、それぞれ米国外ユーザー向けに類似の無期限先物を立ち上げた流れと連動しています。ウォレットが単なる暗号資産の保管場所から、株式・為替・商品を含むあらゆる資産クラスへの入口(ユニバーサル・ファイナンシャル・インターフェース)へと変貌しつつある潮流を、端的に示す出来事といえます。
一方で、潜在的なリスクも明確に指摘しておかなければなりません。最大40倍というレバレッジは、価格がわずか2.5%逆行しただけで担保を失いうる水準です。セルフカストディであっても、強制清算のリスクや、スマートコントラクトの脆弱性、Hyperliquid特有のバリデーター構成に由来するシステムリスクが消えるわけではありません。「自分の鍵を持つ」ことと「自分の資金が安全である」ことは、必ずしもイコールではないのです。
日本の読者にとっての視点も添えておきます。国内では金融商品取引法および資金決済法の枠組みのもと、暗号資産の高倍率レバレッジ取引は個人向けに厳しく制限されており、今回のBlockchain.comのサービスが日本居住者へ開放されるかは現時点で不透明な状況にあります。もっとも、「自己保管した資産を担保として、グローバルなデリバティブ市場へ直接アクセスする」という設計思想そのものは、金融システムの中抜き(ディスインターミディエーション)が新たな段階に進んだことを物語っています。テクノロジーが既存の金融インフラを静かに再定義しつつある現場を、先回りして観察しておく意義は十分にあるはずです。
【参考情報】
【用語解説】
ノンカストディアル/セルフカストディ(自己保管)
暗号資産の秘密鍵を第三者(取引所など)に預けず、ユーザー本人が保持する方式である。鍵を失えば資産も失うが、取引所破綻等のカウンターパーティ・リスクを回避できる。
無期限先物(パーペチュアル・フューチャーズ)
満期日が設定されないデリバティブ契約の一種である。通常の先物と異なり期限が存在せず、「資金調達料率(ファンディングレート)」と呼ばれる定期的な支払いを介して、契約価格を現物価格に鞘寄せする仕組みを持つ。
レバレッジ
自己資金を担保に、その数倍の取引を行う仕組みである。40倍レバレッジの場合、1万円の担保で40万円相当のポジションを取ることができるが、価格が2.5%逆行すると担保が消失する。
分散型デリバティブ取引所(Perp DEX)
スマートコントラクトによって運営される、デリバティブ取引プラットフォームを指す。中央集権型取引所と異なり、ユーザーは資産の自己保管を維持したまま取引できる。
担保(Collateral)
レバレッジ取引で損失をカバーするために差し入れる資産のことである。本件ではビットコインが担保として用いられる。
コモディティ
原油、金、銀、農産物など、先物市場で取引される商品全般を指す。
オーダーブック
売買注文を価格帯ごとに並べた「板(いた)形式」の取引手法を指す。伝統的な株式取引所と同じ方式であり、自動マーケットメイカー(AMM)型との対比で語られる。
オープンインタレスト(未決済建玉)
市場において決済されずに残存している契約の総量のことである。市場の規模や活況度を測る代表的な指標として用いられる。
レイヤー1(L1)
独自コンセンサスと独自トークンを持つ、基盤となるブロックチェーンのことである。イーサリアムやソラナが代表例であり、Hyperliquidも独自L1を運用している。
スマートコントラクト
ブロックチェーン上に配備され、条件が満たされると自動で処理を実行するプログラムである。DeFiの根幹技術に当たる。
バリデーター
ブロックチェーンの取引を検証し、新規ブロックを生成する役割を担うノード(参加者)である。バリデーターの数や構成は、ネットワークの分散性を左右する要素となる。
ディスインターミディエーション(中抜き)
金融仲介業者を介さず、利用者同士または利用者とプロトコルが直接取引を行う構造を示す概念である。DeFiの思想的な中核をなす。
強制清算(リクイデーション)
担保価値が維持証拠金を下回った際、ポジションが自動的に決済される仕組みを指す。高レバレッジ取引では小さな価格変動でも発動しうる。
CFTC(米商品先物取引委員会)
米国における商品先物および金融デリバティブ取引を監督する連邦独立規制機関である。暗号資産のうち「コモディティ」に分類される資産の取引監督権限を持つ。
【参考リンク】
Blockchain.com(外部)
2011年創業、マルタに本拠を置く暗号資産サービスプラットフォーム。個人・機関投資家向けにウォレットや取引機能を提供する。
Hyperliquid(外部)
独自レイヤー1ブロックチェーン上でオーダーブック方式の無期限先物を提供する、分散型デリバティブ取引所の主要プレイヤー。
CFTC(米商品先物取引委員会)(外部)
米国における商品先物・デリバティブ取引を監督する連邦規制機関。暗号資産デリバティブの規制方針を所管している。
Kraken(外部)
2011年設立の暗号資産取引所。2026年2月、米国外向けにトークン化株式の無期限先物取引を開始した。
Coinbase(外部)
米国最大級の暗号資産取引所。2026年3月、米国外向けに株式連動型の無期限先物の提供を開始した。
Kalshi(外部)
CFTC監督下で運営される米国の規制対応型予測市場。暗号資産デリバティブ市場への参入が報じられている。
Artemis(外部)
ブロックチェーンおよびDeFiの分析データプラットフォーム。オンチェーン指標の参照元として用いた。
【参考記事】
Blockchain.com Launches Global Self-Custodied Perpetual Futures Trading(PR Newswire)(外部)
2026年4月21日付のBlockchain.com公式プレスリリース。製品特性や共同創業者ニック・ケアリー氏のコメントを収録する。
CFTC chief Selig to clear path for U.S. perpetual futures in coming weeks(CoinDesk)(外部)
CFTC委員長マイケル・セリグ氏による、無期限先物を数週間以内に米国内で認可する方針を伝える報道記事である。
CFTC to Allow Crypto Perpetual Futures in US Within Weeks, Chair Says(Bloomberg)(外部)
米国がアジア・欧州・バハマへ流出した流動性を呼び戻す意図を強調する、Bloombergの一次報道である。
DEXs Surge to 10% of Perpetuals: A $80 Trillion Market Shift(BeInCrypto)(外部)
無期限先物市場の75%成長と、DEXシェアが2%から10.2%へ拡大した構造変化を数値で解説した記事である。
Blockchain.com taps Hyperliquid to bring perpetual futures into its DeFi wallet(Crypto Briefing)(外部)
今回の連携をHyperliquidにとっての流通面での勝利と位置づけ、市場支配力を文脈化した分析記事である。
The Perp DEX Wars of 2026(BlockEden.xyz)(外部)
Hyperliquidの取引量・オープンインタレスト・HIP-3フレームワークなど、市場構造の定量的分析を提示する。
【編集部後記】
「自分のウォレットの中にある資産を、預け替えることなく、世界中の市場とつなぐ」——今回のニュースが指し示しているのは、そんな未来像の輪郭です。40倍というレバレッジの数字は刺激的ですが、むしろ私たちが注目したいのは、ウォレットという小さなアプリが、株式・為替・å商å品へと広がっていく「入口」に変わろうとしている点です。みなさんは、金融機関を介さず自己管理で資産を動かせる世界を、どのように受け止められますか。感じたこと、疑問に思ったことがあれば、ぜひ聞かせてください。一緒に未来を観察していきましょう。
