Gemini Enterprise Agent Platform正式発表——Google Cloud Next ’26が告げる「エージェント時代」の本番開幕

2026年4月22日、Google CloudのCEOトーマス・クリアンはGoogle Cloud Next ’26の基調講演で複数の新機能を発表した。主な発表はGemini Enterprise Agent Platform、第8世代TPU(TPU 8tおよびTPU 8i)、Agentic Data Cloud、Agentic Defense、Workspace Intelligenceである。

Google Cloudの顧客の約75%がAI製品を活用しており、過去12か月で330社が1兆トークン以上を処理、うち35社が10兆トークンに到達した。ファーストパーティモデルは毎分160億トークンを処理する。TPU 8tはIronwood比で処理能力が3倍、TPU 8iは前世代比で推論のコストパフォーマンスが80%向上した。今年のNextでは世界500以上の組織の導入事例が紹介される。

From: 文献リンクWelcome to Google Cloud Next ’26

【編集部解説】

Google Cloud Next ’26は、AIが「実験段階」から「本番稼働」へと完全に移行したことを宣言する場となりました。Google CloudのCEOトーマス・クリアンは2026年4月22日の講演冒頭で「Agentic Enterpriseはすでに現実のものとなった」と述べましたが、これは単なる宣伝文句ではありません。同社の顧客の約75%がすでにAI製品をビジネスに活用しており、AIエージェント市場そのものが急拡大しているという事実が背景にあります。

今回の発表でとりわけ注目すべきは、Gemini Enterprise Agent Platformが「作る」から「管理する」へと企業の問いを変えた点です。昨年まで企業の関心は「エージェントを構築できるか?」でした。しかし今は「数千のエージェントをどう管理するか?」に移っています。Agent Identity(暗号化IDによるエージェント認証)やAgent Gateway(エージェント間通信の一元管理)といった機能は、AI時代の”ガバナンスインフラ”と位置づけられます。

ハードウェア面では、第8世代TPUが2チップ体制となった点が構造的に重要です。TPU 8tはトレーニング特化、TPU 8iは推論特化という役割分担は、AIのワークロードが「モデルの学習」と「エージェントのリアルタイム稼働」という2つのフェーズに明確に分離されてきた現実を反映しています。TPU 8iが実現する「数百万の同時エージェントのコスト効率的な稼働」は、これまでコストと性能がボトルネックだった大規模エージェント展開を、現実的な選択肢にするものです。

セキュリティ領域では、2026年3月に完了したWizの買収(320億ドル、Google史上最大の買収案件)の意義が今回の発表で明確になりました。これはセキュリティ製品の追加にとどまらず、コードからクラウド、ランタイムまでを一気通貫で守るAIネイティブなセキュリティ基盤の構築です。Wiz Red Agent・Blue Agent・Green Agentという色分けされた役割分担は、サイバーセキュリティが「人間の監視下でのアラート対応」から「AIエージェントによる自律防衛」へと転換しつつあることを示しています。

一方、潜在的なリスクにも目を向ける必要があります。自律的に動作するAIエージェントが企業の重要データにアクセスし、ビジネスプロセスを実行するという構造は、ひとたびエージェントが誤動作・悪用・ハッキングされた際の被害範囲が非常に広くなることを意味します。Googleが「Agent Anomaly Detection」や「Secure Sandboxes」を前面に打ち出しているのは、そのリスクを同社自身が強く認識しているからにほかなりません。エージェントの自律性と安全性のトレードオフは、今後の企業導入において最大の論点のひとつになるでしょう。

規制の観点からも無視できない動きがあります。WizのEU競争当局による審査通過(2026年2月)に見られるように、AI企業の大型買収は各国の規制当局の厳しい目にさらされています。EU AI法(EU AI Act)の本格適用が進む中、自律エージェントによる意思決定の透明性・説明責任については、今後さらなる規制強化が予想されます。

長期的な視点で見ると、今回のNext ’26はGoogleがクラウド市場において「AIモデルの提供者」から「アジェンティック企業への変革パートナー」へとポジションを明確に移した転換点として記憶されることになるはずです。Microsoft・AWSとの競争は、モデルの性能よりも「いかにエンタープライズのオペレーションにAIを組み込めるか」という実装力の勝負へとシフトしており、Googleの垂直統合戦略はその文脈において明確な競争優位を打ち出そうとするものです。

【用語解説】

Agentic Enterprise(アジェンティック・エンタープライズ)
AIエージェントが業務プロセスを自律的に実行・管理する企業の形態を指す。従来の「人間がAIに指示を出す」モデルとは異なり、エージェントが目標を設定され、計画・実行・判断を自ら行う。Google Cloud Next ’26における全発表の中心概念である。

TPU 8t / TPU 8i
Googleが開発した第8世代のTPU(Tensor Processing Unit=テンソル処理装置)。AIの演算に特化したGoogle独自のプロセッサで、一般的なCPUやGPUとは異なる設計思想を持つ。今世代から役割が2つに分割され、TPU 8tはモデルの「学習(トレーニング)」、TPU 8iはモデルの「推論(インファレンス)」をそれぞれ専門に担う。

Agent Identity / Agent Gateway
Gemini Enterprise Agent Platformのガバナンス機能。Agent Identityはエージェントごとに一意の暗号化IDと認可ポリシーを付与する仕組みで、誰がどのエージェントに何をさせているかを追跡・監査可能にする。Agent Gatewayはエージェント同士の通信を一元管理し、不正なデータアクセスや外部への情報漏洩を防ぐ「エージェント版ファイアウォール」として機能する。

Agent Anomaly Detection
エージェントの行動パターンを常時監視し、意図から逸脱した動作(ツールの誤用、無認可アクセス、推論の暴走など)を自動検知する機能。大量のエージェントを同時稼働させる際のリスク管理に不可欠な仕組みである。

EU AI Act(EU AI法)
欧州連合(EU)が制定した世界初の包括的AI規制法。AIシステムをリスクレベルに応じて分類し、高リスクとされるシステムには厳格な透明性・説明責任・人間による監督を義務付ける。自律的に判断・行動するAIエージェントは規制対象になる可能性が高く、企業のエージェント展開戦略に直接影響を与える法的枠組みである。

【参考リンク】

Google Cloud(外部)
GoogleのクラウドサービスおよびAIプラットフォームの公式サイト。本記事で紹介した全プロダクト・サービスの詳細情報を掲載している。

Wiz(外部)
2020年創業のクラウドセキュリティ企業。Googleが320億ドルで買収。マルチクラウド環境を横断したセキュリティリスクの可視化・対処を行う。

Anthropic(外部)
AIの安全性研究を専門とする米国のAI企業。Claude Opus 4.7など、Gemini Enterprise Agent Platformでも利用可能なLLMを提供している。

【参考記事】

Google completes $32B acquisition of Wiz|TechCrunch(外部)
GoogleのWiz買収(320億ドル)完了を報じた記事。Google史上最大の買収で、米EU両当局の審査を経て2026年3月に成立した。

Sundar Pichai shares news from Google Cloud Next 2026|Google(外部)
Google CEOサンダー・ピチャイによる公式ブログ。毎分160億トークン処理など、Next ’26の主要数値を一次ソースとして確認できる。

Google Cloud Next 2026 Highlights 4 Positive Signals for the Agentic AI Era|WORLDEF(外部)
Gartner予測を引用し、2026年末にエンタープライズアプリの40%がAIエージェントを組み込む見通しと、市場規模109億ドルを報じた記事。

Google launches Gemini Agent Platform, eighth-generation TPUs|Computer Weekly(外部)
TPU 8tの9,600チップ・2PB構成やTPU 8iの80%推論コスト改善など、第8世代TPUの技術的詳細を解説した英国メディアの記事。

Google Cloud Next 2026: Businesses Are Moving Into the ‘Agentic Era’|BizTech Magazine(外部)
4月22日開催のオープニング基調講演をラスベガスで現地取材。トーマス・クリアンの登壇日時を一次情報として確認できるレポート。

What to Expect at Google Cloud Next: TPUs, Gemini, and Agents|AI2Work(外部)
Wiz買収完了日(2026年3月11日)とアジェンティックAI市場規模(109億ドル規模)の数値確認に参照した分析記事。

【編集部後記】

「エージェントに仕事を任せる」という感覚、まだ少しだけ遠い話に聞こえますか?でも気づけば、私たちが使っているサービスの裏側で、すでにエージェントが動いているかもしれません。

あなたの仕事や日常の中で、「これ、エージェントに任せられたら」と思う瞬間はありますか?ぜひ一緒に考えてみてください。

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