京都大学、断層破壊が「突然止まる」ことを世界初観測――停止波が地震の規模を決める

京都大学理学研究科の金子善宏教授とジェシー・キアース研究員(現:Victoria University of Wellington研究員)らの研究グループは、大地震の断層破壊が「突然止まる」ことを示す観測結果を明らかにした。

世界で起きた内陸の大地震12例を対象に断層近傍の地面の動きを解析した結果、断層の端に近い場所で地面が一度動いた後に逆向きに戻るオーバーシュートが共通して観測された。コンピューターシミュレーションにより、この現象は断層のずれが急停止する際に発生する停止波(ストッピングフェーズ)によるものと解明された。本研究成果は2026年4月23日、国際学術誌「Science」にオンライン掲載された。

From: 文献リンク断層破壊は突然止まる―停止波の系統的出現を観測・解明―

【編集部解説】

「地震はどのように終わるのか」——この問いに、地震学者たちは長年明確な答えを出せずにいました。今回の研究は、その謎に初めて観測データという確かな形で迫ったものです。

断層破壊とは、地殻の割れ目(断層面)に蓄積された応力が限界を超えた瞬間に始まる、岩盤のすべりの連鎖です。この「すべり」がどこまで広がるかが、地震の規模を決定します。従来の地震学では、破壊は障壁にぶつかって「じわじわと減速・停止する」モデルと「突然停止する」モデルの両方が理論的に存在していましたが、近傍での観測データが極めて少なく、どちらが実態に近いかは未解決のままでした。

今回の発見の核心は、「地面の逆向きの動き(オーバーシュート)」というシンプルな観測事実にあります。断層端の近くにいると、地震で一方向に揺れた直後、一瞬逆方向に引き戻されるような動きが起きます。研究チームはこれを世界12の内陸大地震で系統的に確認し、数値シミュレーションによって「断層が突然止まるときにだけ発生する停止波(ストッピングフェーズ)」がその原因であることを突き止めました。数値モデルで破壊を「徐々に減速させる」設定にすると、このシグナルは消えてしまったといいます。

この研究が持つ意義は、二つの方向に広がります。

一つ目は、「地震がなぜ大きくなるのか」の解明への貢献です。大きな横ずれ断層(ストライクスリップ断層)は複数のセグメントが連なって構成されており、破壊がセグメントの境界で止まれば局地的な地震に留まりますが、突破すれば次のセグメントへと連鎖し、いわゆる「巨大地震(メガクエイク)」へとエスカレートします。今回の研究によって、この「セグメント境界での急停止」という現象が初めて観測的に裏付けられました。過去のデータを遡ってセグメント境界を同定し、各バリアがどの程度のエネルギーを吸収できるかを評価する道が開けたことは、ハザードマップの精度向上に直結します。

二つ目は、耐震工学への示唆です。停止波が地表に到達すると、地面はほんの一瞬で向きを逆転させ、場合によっては1メートル以上の「ムチのような揺れ(seismic whiplash)」を引き起こします。これは既存の耐震設計が想定してきた揺れとは性質が異なり、特に断層端付近やセグメント境界の近傍に立地する構造物にとっては新たなリスク要因となります。現行の耐震基準がこの動きを十分に考慮していない可能性があり、今後の見直しが求められるでしょう。

一方で、研究の射程には現時点で制約もあります。今回の対象は横ずれ断層に限定されており、日本でより警戒されるプレート沈み込み型(サブダクション型)の巨大地震——南海トラフや日本海溝を震源とするもの——への適用はまだ確認されていません。研究チームも「停止メカニズムはすべての地震に共通すると予想しているが、現時点では確認できていない」と率直に述べています。この点は今後の研究課題として明示されており、過度な期待は禁物です。

また、この観測が可能になった背景として、近年の地震観測網の高密度化が挙げられます。断層ごく近傍に設置されたセンサーが増加したことで、これまで「ノイズ」として見過ごされていた微細なシグナルを再評価できるようになりました。技術インフラの進化が科学的発見を可能にした好例でもあります。

「地震の止まり方を知る」ことは、「地震の始まり方を知る」のと同じくらい、防災に直結する知識です。今回の成果が地震ハザード解析の新しい基準点となる可能性を、innovaTopia編集部は注目しています。

【用語解説】

断層破壊(fault rupture)
地震が発生する際、地殻内の断層面に蓄積された応力が限界を超えることで岩盤が急激にすべり、そのすべりが断層に沿って伝播していく現象。このすべりがどこまで広がるかが、地震の規模(マグニチュード)を決定する。

停止波/ストッピングフェーズ(stopping phase)
断層のすべり(破壊)が障壁に衝突して急停止した際に発生する、破壊の進行方向とは逆向きに伝わる波。断層端や内部のセグメント境界付近で観測され、地表では「オーバーシュート」として記録される。

オーバーシュート(overshoot)
断層近傍の地点において、地面が一方向に動いた直後に逆向きに少し戻るような動き。停止波が地表に到達した際に生じる。研究によれば、地表では1メートル以上の逆向きの変位が起きる場合もある。

セグメント(segment)
大きな断層を構成する複数の区間(節)のこと。横ずれ断層はこれらが連なって構成されており、地震破壊が一つのセグメントから次のセグメントへと連鎖する際に大規模地震へ発展する。

サブダクション型地震(subduction zone earthquake)
一方のプレートが別のプレートの下へ沈み込む「沈み込み帯(サブダクションゾーン)」で発生する地震。南海トラフや日本海溝を震源とする巨大地震がこれにあたる。今回の研究対象である横ずれ断層型とは発生メカニズムが異なり、今後の研究対象として位置付けられている。

ハザード解析(seismic hazard analysis)
ある地域において将来の地震動の大きさや頻度を確率的に評価する手法。耐震設計基準やハザードマップの基盤となる。本研究の成果は、このハザード解析に停止波の影響を組み込む必要性を示している。

【参考リンク】

京都大学(外部)
1897年創立の国立大学。ノーベル賞受賞者を多数輩出する日本屈指の研究機関。今回の研究を主導した金子善宏教授が所属する理学研究科を擁する。

Victoria University of Wellington(外部)
ニュージーランドの首都ウェリントンに位置する国立大学。本研究の筆頭著者ジェシー・キアース研究員の現所属機関である。

Science誌|原著論文(DOI: 10.1126/science.aef3733)(外部)
米国科学振興協会(AAAS)発行の世界最高峰学術誌。本研究成果が2026年4月23日付でオンライン掲載された論文ページ。

【参考記事】

New insights into how earthquakes stop|EurekAlert!(外部)
京都大学公式プレスリリース。3段階の手法と「急停止時のみ信号が発生する」という核心的知見を詳述。

Here’s what stops huge earthquakes in their tracks|Scientific American(外部)
12例中5例で停止波の単独抽出が可能だった点や、セグメント境界が地震規模を左右するメカニズムを解説。

Seismic ‘whiplash’ – new research shows what happens when earthquakes stop suddenly|The Conversation(外部)
著者本人による解説。地表での1メートル超の逆変位や2023年トルコ・シリア地震での停止波検出について記述。

Stopping phase reveals abrupt arrest of large strike-slip earthquakes|Science(外部)
原著論文。世界12の内陸大地震を対象に、オーバーシュートが破壊の突然停止を示す診断シグネチャーであることを実証。

【編集部後記】

「地震はなぜ止まるのか」という問いは、私たちが日常的に意識することはほとんどありません。でも今回の研究を知ると、その「止まり方」が私たちの命や暮らしに直結していることに気づかされます。

あなたの街の近くにある断層は、どんなセグメント構造をしているのでしょうか。この研究が、そんな身近な問いを持つきっかけになれば嬉しいです。

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