DJIは2026年4月23日、新しいカメラドローンシリーズ「DJI Lito」を発表した。空撮初心者を想定したエントリーモデルで、プレミアムモデルの「Lito X1」とスタンダードモデルの「Lito 1」の2機種で構成される。
Lito X1は1/1.3インチCMOSセンサーと有効画素数48MP、f/1.7の絞り、14ストップのダイナミックレンジ、10-bit D-Log M対応のHDR動画撮影、前向きLiDAR、42GBの内部ストレージを搭載する。Lito 1は1/2インチCMOSセンサー、48MP、f/1.8の絞りに対応し、最大8K解像度の写真と4K解像度の動画撮影が可能である。両機種ともに5ルクスでの全方向障害物検知、最大36分の飛行時間、最大10.7 m/sの耐風性能、最高12 m/sの飛行速度、Wi-Fi 6経由で最大50 MB/sのクイック転送に対応する。価格はLito 1が47,520円、Lito 1 Fly Moreコンボ(DJI RC-N3)が69,300円、Lito X1が54,450円、Lito X1 Fly Moreコンボ(DJI RC 2)が95,700円、Lito X1 Fly Moreコンボ Plus(DJI RC 2)が108,900円である。store.dji.comおよび認定ストアで同日発売。DJI Care Refreshも対応する。
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DJI、初めてでも使いやすい新シリーズカメラドローンLito X1とLito 1を発表
【編集部解説】
DJIが今回発表したLitoシリーズは、単なる「廉価版のミニドローン」ではなく、世界最大手のドローンメーカーがエントリー市場の再定義に乗り出した動きとして捉えるべきものです。47,520円から手に入る機体に、つい数年前まで上位機種にしか搭載されていなかった全方向障害物検知やLiDARが降りてきた点に、業界の地殻変動を感じます。
LiDAR(Light Detection and Ranging)は、レーザーパルスを照射し、反射が戻るまでの時間から障害物までの距離を高精度に測定する技術です。自動運転車の「目」としても知られ、暗所でも機能するため、従来のカメラ式ビジョンセンサーでは苦手だった夜間や薄暮、細い木の枝、電線といった対象の検知に強みを持ちます。
DJIが民生用ドローンに前向きLiDARを初採用したのは、2024年発表のAir 3S(当時の価格は1,099米ドル)でした。それからわずか1年半でLiDARはNeo 2、Mini 5 Pro、そして今回のLito X1へと展開され、5万円台のエントリーモデルにまで届いたことになります。「安全機能はプレミアム機の特権」という常識が、急速に書き換わっています。
日本では2022年6月の航空法改正により、屋外で飛行させる100g以上のドローンは機体登録とリモートIDの搭載が義務化されました。Litoシリーズの249g以下という重量設計は、米国FAAの登録閾値(250g)や欧州のC0クラス区分を意識したグローバル設計であり、日本国内でも100g以上に該当するため登録は必要なものの、より厳格な機体認証や飛行ルールが課される250g超の区分には入らない、絶妙なポジショニングとなっています。
注目すべきは、Lito X1のカメラスペックが、上位機種であるMini 4 Proに匹敵する水準にあるという事実です。1/1.3インチセンサー、f/1.7、14ストップのダイナミックレンジ、10-bit D-Log M対応のHDR動画と、SNSやYouTube向けのコンテンツ制作には十分以上の素材が得られます。海外メディアのEngadgetやTechRadarも、X1を「Mini 4 Proに迫る画質と機能を半額近い価格で実現した」と評価しています。
ポジティブな側面として、空撮の民主化が一段と進む点は大きな意義を持ちます。これまで「ドローンは高価で難しい」と二の足を踏んでいた層が、安全機能に守られながら自然や旅、日常をシネマティックに記録できるようになります。アクティブトラックで自分を追尾撮影しながらサーフィンや自転車を楽しむといった、これまで第三者の撮影者の存在が前提だったコンテンツも、一人で完結できる時代に入りました。
一方で、潜在的なリスクも見過ごせません。安全機能が手厚くなったことで、操縦者が「機械が回避してくれる」と過信するモラルハザードが起きやすくなります。プロペラがむき出しの構造である以上、細い小枝やフェンスとの接触は依然としてリスクであり、Engadgetの実機テストでも稀に細い枝の見落としが報告されています。安全機能はあくまで「補助」であり、操縦者の責任が消えるわけではない、という基本姿勢を改めて確認する必要があります。
地政学的な文脈も無視できません。米連邦通信委員会(FCC)は2025年12月22日、外国製ドローンを「Covered List」に追加することを決定し、新規モデルのFCC認証取得が事実上停止しました。Lito X1とLito 1も、この決定の影響でアメリカでの正規販売が見送られる見込みで、これは「世界に開かれた製品が、特定市場にだけ届かない」という、グローバルテクノロジーの分断を象徴する事例となっています。
日本市場については、JCAB(国土交通省航空局)と総務省(電波法/技適)の枠組みで規制が完結しており、米国の措置は直接の影響を及ぼしません。むしろ、米国で買えない最新DJI製品が日本では正規に入手できるという、これまでとは逆転した状況が生まれつつあります。日本のクリエイターやアーリーアダプターにとっては、世界最先端のドローン技術にアクセスし続けられる地理的アドバンテージが、当面は維持される構図となります。
長期的視点で見ると、Litoシリーズが示唆するのは「センサーフュージョンの大衆化」という大きな潮流です。ビジョンセンサー、赤外線、LiDARを組み合わせた多層的な状況認識は、自動運転、ロボティクス、AR/MR機器とも共通する技術トレンドであり、ドローンはその最も身近な実装プラットフォームになりつつあります。空撮初心者の手元に届くLiDARが、やがて配送ドローン、災害救助、インフラ点検など社会インフラ用途の標準装備となっていく流れは、今後数年でさらに加速するでしょう。
「初心者向け」というラベルの裏側で、ドローンは静かに「飛ぶカメラ」から「空間を理解する自律機械」へと進化しています。Litoシリーズは、その進化を消費者の手の届く価格帯にまで引き下げた象徴的な製品であり、私たちの「空との関わり方」そのものを変える起点となるかもしれません。
【用語解説】
LiDAR(ライダー)
レーザーパルスを照射し、反射光が返ってくるまでの時間を計測することで、対象物までの距離や形状を高精度に測定するセンシング技術である。光の飛行時間(Time of Flight)を利用するため、暗闇や低照度環境でも機能し、自動運転車やロボティクス、3D計測などで広く採用されている。
CMOSセンサー
デジタルカメラの心臓部である撮像素子の一種で、レンズから入った光を電気信号に変換する半導体である。サイズが大きいほど取り込める光量が増え、高画質・高感度・広いダイナミックレンジを実現できる。1/1.3インチは1/2インチよりも受光面積が広い。
ダイナミックレンジ(ストップ)
画像センサーが同時に表現できる「最も明るい部分」と「最も暗い部分」の幅を示す指標である。「ストップ」は2倍の明るさ差を表す単位で、14ストップは1ストップにつき2倍の差を14段階分捉えられることを意味する。逆光や夕景でも白飛び・黒つぶれを抑えられる。
D-Log M/10-bit
DJI独自のログ形式の動画記録モードで、撮影時に階調情報を圧縮せず保持することで、編集(カラーグレーディング)の自由度を高める。10-bitは色情報を1ピクセルあたり10ビットで記録し、約10億7,000万色を表現可能にする規格である。
全方向障害物検知(オムニディレクショナル・ビジョンシステム)
機体の前後左右上下に配置された複数のカメラセンサーが、リアルタイムで周囲の障害物を検出する仕組みである。検出した情報をもとに自動回避や緊急停止を行い、操縦者の判断ミスによる衝突を防ぐ。
ルクス(lx)
照度の単位である。5ルクスは満月の夜や夕暮れの薄暗い屋外に相当する明るさで、この水準でも障害物検知が機能することは、夜間飛行や森林内でのフライト安全性に直結する。
アクティブトラック
DJIドローンが備える被写体追尾機能で、人物や車両などをカメラで認識し、自動的に追従しながら撮影を続ける。Litoシリーズでは最高12 m/sで動く被写体まで追尾可能となっている。
O4映像伝送システム(DJI OcuSync 4)
DJI独自の長距離・低遅延の映像伝送技術である。Litoシリーズでは最大15kmの伝送距離(地域・規制による)と1080p/60fpsのライブビューを実現し、混雑した電波環境でも安定した接続を保つ。
Wi-Fi 6
無線LAN規格の第6世代(IEEE 802.11ax)である。従来規格より高速かつ多数同時接続に強く、Litoシリーズでは最大50 MB/sのファイル転送に活用されている。
インテリジェント フライトバッテリー
DJIが採用する高度制御機能付きのリチウムポリマーバッテリーである。残量、温度、充放電サイクルを管理し、安全な飛行と長寿命を両立する。Litoシリーズでは標準版で最大36分、Plus版で最大52分の飛行時間を実現する。
機体登録制度/リモートID
日本では2022年6月20日施行の改正航空法により、屋外で飛行させる100g以上のドローンは国土交通省への機体登録が義務化された。それ以前の対象基準は200g以上であったが、引き下げによりほぼすべての民生用ドローンが対象となっている。リモートIDは飛行中の機体から識別情報を電波で発信する仕組みで、自動車のナンバープレートに相当する役割を果たす。
FAA登録閾値(250g)
米連邦航空局(FAA)が定める、レクリエーション用ドローンの登録義務が発生する重量閾値である。249g以下の機体は登録が不要となるため、世界の民生用ドローン設計に大きな影響を与えており、DJI Mini系統やLitoシリーズもこの基準を意識した設計となっている。
FCC Covered List(カバードリスト)
米連邦通信委員会(FCC)が、米国の国家安全保障上「容認できないリスクをもたらす」と判断した通信機器を掲載するリストである。2025年12月22日付で外国製ドローンおよび重要部品が追加され、新規製品のFCC認証取得が事実上停止された。
Fly Moreコンボ
DJIドローンの拡張パッケージで、追加バッテリー、複数充電器、キャリーバッグなどがセットになった構成である。本格的に空撮を行うユーザー向けのバンドル販売となっている。
DJI RC 2/DJI RC-N3
DJIの送信機(コントローラー)で、RC 2はカラータッチスクリーンを内蔵した一体型モデル、RC-N3はスマートフォンを画面として使用する廉価モデルである。
【参考リンク】
DJI 公式サイト(日本)(外部)
民生用ドローンとカメラ技術で世界市場を主導するDJIの日本向け公式サイトである。
DJI Lito X1 製品ページ(外部)
Litoシリーズのプレミアムモデル「Lito X1」の公式製品紹介ページである。
DJI Lito 1 製品ページ(外部)
Litoシリーズのスタンダードモデル「Lito 1」の公式製品紹介ページである。
DJI Care Refresh(外部)
DJI製品の包括的保証プランの公式案内ページで、補償内容や対応機種の詳細を確認できる。
国土交通省 無人航空機登録ポータルサイト(外部)
日本のドローン機体登録制度を所管する公式ポータルである。100g以上の機体が登録対象となる。
国土交通省 航空局 無人航空機の飛行ルール(外部)
ドローン飛行に関する航空法のルールや申請手続きを案内する国交省の公式情報ページである。
FCC Covered List 公式ページ(外部)
米連邦通信委員会が公開する、安全保障上の懸念対象通信機器の最新リストの公式ページである。
【参考記事】
DJI Lito X1 And Lito 1 Launch Globally, Wedging Into The Mini Gap American Buyers Will Never See(外部)
DroneXLによる詳細レポート。Mini 4Kの249ドルとMini 5 Proの約935ドルの間の価格ギャップをLitoシリーズが埋める戦略的位置づけを解説している。
DJI Lito 1 and Lito X1 drone review: High-quality aerial video at its most affordable(外部)
Engadgetの実機レビュー。Lito X1のLiDARが細い小枝も回避できる精度を持ち、Mini 4 Proに迫る画質を低価格で実現したと結論付けている。
DJI Lito X1 review: the new best beginner drone, period(外部)
TechRadarのレビュー。英国299ポンド/369ポンドでの発売とC0/UK0クラス認証を確認し、現時点で最高のビギナー向けドローンの一つと評価している。
DJI Unveils Lito X1 and Lito 1 4K-Capable Drones Built for Beginners(外部)
HotHardwareの解説記事。実飛行時間は25〜30分が現実的でPlus版バッテリーで52分という整理や、米国市場での販売制限について触れている。
DJI Air 3S review: LiDAR and improved image quality make for a nearly faultless drone(外部)
DJI Air 3S(2024年10月発表、1,099米ドル)がDJI初の前向きLiDAR搭載民生用ドローンであったことを示す検証記事である。
米FCC、外国製ドローンの新規販売を禁止——DJIやAutelの新モデルが米国市場から締め出しへ(外部)
2025年12月22日のFCC決定について日本語で詳述。DJIの世界シェア約70%という背景を解説しており、地政学的文脈の理解に重要である。
【2025年最新版】日本における6つのドローン規制とは?違反した場合も徹底解説!(外部)
日本の航空法における2022年6月20日改正の詳細解説。機体登録対象が100g以上に引き下げられた経緯やリモートID搭載義務などを網羅している。
【編集部後記】
5万円を切る価格でLiDARを備えたドローンが手に入る時代になりました。これは数年前なら20万円超のプロ機材だった機能セットです。みなさんの中に、過去に「ドローンって難しそう」「高そう」と感じて諦めた経験のある方はいらっしゃるでしょうか。Litoシリーズの登場は、そうした心理的・経済的なハードルが、技術の進化によって少しずつ崩れていく様子を見せてくれます。空からの視点を一度手にすると、見慣れた風景が驚くほど違って見えてくる、という話をよく耳にします。日本では機体登録やリモートIDなどの手続きが必要ですが、そうしたルールも含めて「未来の道具とどう付き合うか」を考えるきっかけになれば嬉しいです。みなさんが空から撮ってみたい景色、もしよければ教えてください。

