日本の上場企業メタプラネットは、2026年4月24日、追加のビットコイン購入資金を調達するため、80億円(5,000万ドル)のゼロクーポン社債を発行したと公式Xアカウントで発表した。社債は同社の筆頭株主であるEVO Fundに割り当てられる。EVO Fundは対価として新株予約権を受け取る仕組みである。
メタプラネットは2024年初頭にビットコインの蓄積を開始し、同年4月に最初の購入を行った。公開資料によれば、現在1,000 BTC超をバランスシート上に保有している。今回の発行により、債務による資金調達でのビットコイン購入累計額は1.5億ドル超に達する。日本の金融庁(FSA)はこのような企業活動を制限していない。MicroStrategyは依然として世界最大の企業ビットコイン保有者である。
From:
Metaplanet Issues $50M in Bonds to Buy More BTC: Bold Strategy Shocks Markets
【編集部解説】
メタプラネットの今回の社債発行は、単なる「ビットコイン買い増し」のニュースとして読むだけでは、その本質を捉え損ねてしまいます。注目すべきは、これが第20回目という数字に表れている、同社が約2年で確立した独自の資金調達エンジンの一部だという点です。
まず元記事の数値について、編集部として補足・訂正をお伝えしておきます。元記事では同社のビットコイン保有量を「1,000 BTC超」と記載していますが、これは古い情報です。同社の公式発表および複数の信頼できるメディアによると、2026年第1四半期末時点での保有量は40,177 BTCに達しており、世界第3位、日本国内では最大のビットコイン保有上場企業の地位を築いています。また「累計1.5億ドル」という債務調達額の記述も実態とは異なり、メタプラネットは株式発行・社債発行を含めた累計資金調達総額が2025年末時点で約5,172億円(約33億7,000万ドル)に達しており、ビットコイン購入のための資金調達規模は元記事の数値を大きく上回っています。
今回の社債は第20回目のシリーズで、ゼロクーポン、満期は2027年4月23日、償還は額面どおりという設計です。引受先のEVO FUNDはケイマン諸島を拠点とするEvolution Financial Group傘下のファンドで、過去19回すべての社債発行を引き受けてきたいわばメタプラネット専属のパートナーです。
このスキームの巧みさは、社債と新株予約権を組み合わせた「循環構造」にあります。社債で先に資金を調達してビットコインを買い、後から新株予約権の行使益で社債を償還する——つまり、同じEVO FUNDから繰り返し資金を引き出せる無利子クレジットラインを構築している、というのが実態に近いのです。
ただし、この戦略は順風満帆ではありません。同社は2025年12月期に、保有ビットコインの評価損約1,022億円が響き、950億円の純損失を計上しました。背景には、ビットコイン価格が2025年10月の126,000ドル付近の最高値から、現在は77,800ドル前後まで調整している市場環境があります。同社の平均取得単価は約10万ドル超とされ、現状の市場価格を上回っているため、含み損を抱えた状態での追加投資となります。
なぜそれでも買い続けるのか。鍵は「日本特有のマクロ環境」にあります。日銀の超低金利政策が続く円で借り入れを行い、ドル建てのビットコインを購入することで、ビットコイン価格の上昇に加えて円安進行による為替差益も同時に取りに行く——これがサイモン・ゲロヴィッチCEOが繰り返し強調する「円ヘッジ」戦略の核心です。
国内では規制環境にも変化の兆しがあります。2025年11月、JPX(日本取引所グループ)が暗号資産トレジャリー企業に対する規制強化を検討していると報じられ、裏口上場防止のためのルール厳格化や監査義務の導入が選択肢として挙がりました。ただしメタプラネット側はこの報道に対し「関係当局から規制措置や調査を受けている事実はない」と公式に否定しており、現時点で同社が規制対象となっている事実はありません。同時に金融庁は、暗号資産を金融商品取引法の枠組みで規律する方向性を示し、2026年の通常国会への改正案提出を進めています。税制面でも暗号資産を現行の最大55%の総合課税から20%の申告分離課税へ見直す方針が固まりつつあり、これは個人投資家にとっては追い風となる動きです。
メタプラネットが提示しているのは、企業財務における新しい問いです——「会社のバランスシートに、何を載せるべきか」。法定通貨と国債を中心に据える20世紀型の財務モデルに対し、希少性のあるデジタル資産を中核に据える21世紀型のモデル。これが投機の器に終わるのか、それとも企業価値を新しい尺度で測る基盤となるのか。同社は2026年末までに10万BTC、2027年末までに21万BTCという野心的な目標を掲げており、その軌跡は他の日本企業や機関投資家にとって、避けては通れない参照点となっていくはずです。
【用語解説】
ゼロクーポン社債(無利息社債)
利息(クーポン)の支払いがない社債。発行体は満期時に額面金額を償還するのみで、定期的な利払い負担がない点が特徴である。発行体にとっては資金調達コストを抑えられる一方、引受側は通常、株式関連の権利や値上がり益を期待して引き受ける。
新株予約権(ワラント)
あらかじめ定められた価格(行使価額)で、将来一定期間内に株式を購入できる権利のこと。企業にとっては株式希薄化リスクと引き換えに資金調達手段を得られ、引受側にとっては株価上昇時の利益機会となる。
ビットコイン・トレジャリー戦略
企業が余剰資金や調達資金をビットコインに振り向け、財務準備資産として保有する経営手法。インフレや法定通貨の価値下落へのヘッジを目的とするが、価格変動リスクを伴う。Strategy(旧MicroStrategy)が2020年に米国で先駆けた手法として知られる。
含み損(評価損)
保有資産の時価が取得価格を下回っている状態を指す。実際に売却するまでは確定した損失ではなく、帳簿上の損失にとどまる。日本の会計基準では、法人が保有する暗号資産は期末時点の時価で評価されるため、価格変動が四半期決算に直接反映される。
555ミリオン計画
メタプラネットが2025年6月に発表した中長期戦略。最大5億5,500万株の新株発行枠を活用し、2026年末までに10万BTC、2027年末までに21万BTCの保有を目指すもの。21万BTCはビットコイン総供給量2,100万枚の約1%に相当し、いわゆる「1%クラブ」入りを狙う野心的な目標である。
EVO FUND(エボファンド)
ケイマン諸島を拠点とするEvolution Financial Group傘下の投資ファンド。デジタル資産関連企業へのストラクチャード・ファイナンスを専門とし、メタプラネットが過去20回実施したすべての社債発行を引き受けてきた、同社の戦略的資金パートナーである。
JPX(日本取引所グループ)
東京証券取引所、大阪取引所などを傘下に持つ持株会社。2025年11月、Bloombergにより暗号資産トレジャリー企業の拡大抑制策として裏口上場防止ルールの厳格化や監査義務化を検討中と報道されたが、現時点で具体的な方針は確定していない。
【参考リンク】
Metaplanet(メタプラネット)公式サイト(外部)
東証スタンダード上場(証券コード3350)の日本初の上場ビットコイン・トレジャリー企業。IR情報や保有BTC数、財務データを開示している。
Metaplanet Analytics(保有状況ダッシュボード)(外部)
メタプラネットのビットコイン保有数、平均取得単価、BTCイールド、mNAVなどの主要指標を可視化したアナリティクスページである。
Strategy(旧MicroStrategy)公式サイト(外部)
世界最大の上場ビットコイン保有企業。メタプラネットが手本とする戦略モデルを2020年8月に確立した米国企業である。
Evolution Financial Group(外部)
EVO FUNDの母体となる金融グループ。デジタル資産企業を含む上場企業に対する構造化資金調達を提供している。
金融庁 公式サイト(外部)
日本の金融行政を担う中央省庁。暗号資産の規制方針や交換業者の登録一覧、税制改正要望などを公表している。
日本取引所グループ(JPX)公式サイト(外部)
東京証券取引所をはじめとする取引所運営を行う持株会社。上場規則や暗号資産関連企業への規制動向を発信している。
【参考記事】
Bitcoin-holder Metaplanet raises $50 million in zero-interest bonds to buy more BTC|CoinDesk(外部)
第1四半期に5,075 BTCを取得し総保有量が40,177 BTCに達したこと、2025年度に6億1,900万ドルの純損失を計上した状況を整理した記事である。
Metaplanet Raises $50M via Zero-Interest Bonds to Expand its 40,177 BTC Treasury|Bitcoin.News(外部)
第20回社債の構造(無担保・額面償還・2027年4月23日満期)、EVO FUNDの早期償還請求権など具体的な数値とスキームを解説している。
Metaplanet posts $619 million net loss on bitcoin valuation as holdings climb to 35,102 BTC|The Block(外部)
純損失950億円、ビットコイン評価損1,022億円、累計調達総額5,172億円という財務インパクトと自己資本比率90.7%を報じている。
Metaplanet issues zero-coupon bonds to buy Bitcoin|Startup Fortune(外部)
無利子ローリング型クレジットラインの仕組み、サイモン・ゲロヴィッチCEOの「円ヘッジ」戦略、Strategyとの戦略比較を解説している。
【編集部後記】
「会社のお金を、何で持つか」——この問いに、メタプラネットは円でも国債でもなく「ビットコイン」と答え続けています。
皆さんの目には、これは未来を先取りした賢明な戦略に映りますか?それとも、過剰なリスクテイクに見えますか?日本企業がグローバル市場で存在感を示す新しい形なのか、あるいは投機的なバブルの再来なのか。私たち編集部も答えを持ち合わせていません。ただ、この実験の行方を皆さんと一緒に見届けていきたいと思っています。

