ステーブルコインとトークン化で家計は軽くなる?米上院公聴会、賛否とCLARITY Actの行方

ステーブルコインとトークン化で家計は軽くなる?米上院公聴会、賛否とCLARITY Actの行方

2026年6月23日、The Digital Chamberの最高経営責任者コディ・カーボンが、米国上院銀行・住宅・都市問題委員会の公聴会「The Affordability Agenda」で証言した。カーボンは、デジタル資産が国際送金、日常の店舗決済、資産の保有・移転の3領域でコストを下げうると述べた。

世界銀行のデータでは送金コストの世界平均は6.36パーセントで、200ドルの送金で12ドル超が手数料となる。McKinseyは2026年2月、B2Bのステーブルコイン決済が約2260億ドル、世界のステーブルコイン決済額の約60パーセントを占め、前年比733パーセント増と推計した。

Citi Instituteは2026年6月、トークン化資産市場が約170億ドルから2030年までに5.5兆ドルへ成長しうると予測した。2025年に成立したGENIUS法、および2026年5月14日に同委員会が15対9で前進させたDigital Asset Market Clarity Actにも言及した。

From: 文献リンクCody Carbone Testimony — U.S. Senate Committee on Banking, Housing, and Urban Affairs「The Affordability Agenda」(2026年6月23日)

【編集部解説】

まず押さえておきたいのは、この証言が行われた「場」の性質です。公聴会の主題は暗号資産ではなく、家賃や食料品など米国民の生活費負担、いわゆる「アフォーダビリティ」でした。証言者にはカーボン氏のほか、Consumer Bankers Associationのリンジー・ジョンソン氏、National Association of Realtorsのケビン・ブラウン氏、The Century Foundationのジュリー・マルゲッタ・モーガン博士が並びました。つまりカーボン氏は、住宅や銀行の専門家に混じって「デジタル資産は生活費の問題に効く」と論じる立場に置かれていたわけです。

ここが今回の最大のポイントだと編集部は考えます。証言の主役は実は暗号資産そのものではなく、「規制の明確化」でした。文中で繰り返されるGENIUS法(2025年に成立した決済用ステーブルコインの連邦枠組み)と、Digital Asset Market Clarity Act(市場構造法案)こそが本丸です。

技術的な中身を補足します。証言が挙げる手段は大きく2つです。1つはステーブルコイン、すなわち米ドルなどに価値を固定した暗号資産で、24時間動く送金・決済のレールとして使えます。もう1つがトークン化で、不動産や債券、請求書などの権利を、ブロックチェーン上の記録として表現し、所有・移転・決済を一本化する仕組みです。

これらが実現すれば、国際送金の手数料、店舗のカード決済コスト、住宅購入時のクロージングコストといった「見えにくい摩擦」を圧縮できる、というのがカーボン氏の主張の骨子です。論理自体は筋が通っており、特に企業間送金では実需が伸びていることも、複数の調査が裏付けています。

ただし、ここで原文の慎重さにも注目すべきです。カーボン氏自身が「デジタル資産は万能薬ではない」「カードや現金を置き換えるものではない」と明言しています。煽らず、既存手段との共存と「選択肢を増やす競争」を前面に出す論立ては、業界団体のトップとしては抑制的で巧みなものでした。

一方で、議場の反応は冷ややかでした。大半の議員はカーボン氏に直接質問せず、踏み込んだのはインディアナ州のジム・バンクス議員とルイジアナ州のジョン・ケネディ議員のみでした。バンクス議員は国際送金コストとドル連動ステーブルコインの比較を尋ね、ケネディ議員はおおむね証言を一蹴しました。ケネディ議員はカーボン氏に対し、暗号資産を宣伝しに来たように見える、と述べ、デジタル資産が今回の経済問題の核心的な原因だとは考えていないと付け加えています。

この「温度差」こそ、証言テキストだけを読んでいては見えない構図です。主要議員にとって暗号資産はなお二次的な関心事であり、規制の明確化までの道のりは業界のロビー活動が描くより長い可能性がある、との見方も報じられています。背景には、中間選挙を前に、インフレ率が3年ぶりの高さである4.2パーセントに達し、有権者の生活不安が高まっているという政治状況があります。

法案の行方にもリスクが残ります。CLARITY Actは8月の議会休会前に上院を通過するとの見方がある一方、現時点で本会議の採決日程は決まっていません。倫理規定やDeFi開発者の法的保護、ステーブルコインの利回り(リワード)をめぐる銀行業界の反発など、複数の論点が未決着で、JPMorgan ChaseのCEOジェイミー・ダイモン氏は最後まで争う姿勢を示しています。

つまり、デジタル資産がもたらしうる「コスト低減」という果実と、それを誰がどう監督するかという「制度設計」は、まだ手前で渋滞しているのが実情です。預金流出やステーブルコインの価格乖離(デペッグ)、消費者保護といった懸念は、技術の利便性とは別軸で慎重に詰める必要があります。

長期の視座で見れば、証言が投げかけた問いは一国の損得にとどまりません。「この活動が米国のルールの下で起きるのか、それとも国外(オフショア)へ流れるのか」という選択は、金融インフラの主導権をどこが握るかという、技術史的な分岐点でもあります。日本の読者にとっても、決済とトークン化の標準づくりが今まさに進んでいるという事実は、対岸の話では済みません。

innovaTopiaとして強調したいのは、今回の見どころが「暗号資産が生活費を下げるか」よりも、むしろ「未来の金融レールを設計する議論が、生活者目線の言葉でどこまで語られ始めたか」にある、という点です。技術は熟しつつある。問われているのは、それを社会に実装する制度と合意の速度なのです。

【用語解説】

ステーブルコイン(stablecoin)
米ドルなど特定の資産に価値を固定するよう設計された暗号資産。価格変動の大きいビットコイン等と異なり、決済や送金の「レール」として使える点が特徴である。GENIUS法は、準備資産による1対1の裏付けなどを義務づける「決済用ステーブルコイン」を規律対象とする。

GENIUS法(GENIUS Act)
2025年7月18日に成立した、決済用ステーブルコインに関する米国初の連邦規制法。準備資産の裏付け、償還義務、開示、銀行秘密法(BSA)に基づくマネロン対策などを定める。正式名称は「Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act」。

Digital Asset Market Clarity Act(CLARITY Act/市場構造法案)
どのトークンを誰が規制するか、開示や顧客資産保護をどうするかなど、デジタル資産市場の「構造」を定める法案。証言の主眼でもある。上院銀行委員会が2026年5月14日に可決し、本会議採決を待つ段階にある。

B2B決済
企業間の支払い。ステーブルコインの実需が最も伸びている用途の一つとされ、資金(トレジャリー)業務やクロスボーダー決済で利用が拡大している。

デペッグ(depeg)
ステーブルコインが固定すべき価格(例:1ドル)から乖離する現象。信認が崩れると償還が殺到し、準備資産の投げ売りを招くリスクが指摘されている。

【参考リンク】

The Digital Chamber(外部)
2014年設立、世界最大級のデジタル資産・ブロックチェーン業界団体。今回証言したコディ・カーボン氏が最高経営責任者を務めている。

米国上院 銀行・住宅・都市問題委員会(外部)
今回の公聴会「アフォーダビリティ・アジェンダ」を主催した上院の常任委員会。証言全文や法案情報、開催概要を公開している。

Remittance Prices Worldwide(世界銀行)(外部)
世界銀行が運営する国際送金コストの公式データベース。証言が引用した送金手数料の世界平均6.36パーセントの出典にあたる。

McKinsey & Company(外部)
証言が引用したB2Bステーブルコイン決済調査(約2260億ドル、前年比733パーセント増)を公表した大手コンサルティング会社。

Citi(Citigroup)(外部)
シンクタンク部門Citi Instituteがトークン化資産市場の2030年予測(約170億ドルから5.5兆ドル)を発表した米金融大手。

Consumer Bankers Association(外部)
同席証人リンジー・ジョンソン氏がPresident & CEOを務める、米国の消費者向け小売銀行を代表する業界団体である。

National Association of Realtors(外部)
同席証人ケビン・ブラウン氏が会長を務める全米不動産業者協会。住宅取得コストの観点から今回の公聴会で証言した。

The Century Foundation(外部)
同席証人ジュリー・マルゲッタ・モーガン博士が代表を務める、米国の進歩派系シンクタンク。経済政策を中心に提言している。

JPMorgan Chase(外部)
米国最大の銀行。CEOのジェイミー・ダイモン氏がステーブルコインのリワードをめぐり強い反対姿勢を示していると報じられた。

【参考記事】

Senate Banking Committee Advances Crypto Market Structure Bill(Davis Wright Tremaine)(外部)
法律事務所による法案分析。2026年5月14日に上院銀行委員会がCLARITY Actを可決した事実と、その広範な規制枠組みを解説する。

Crypto isn’t the problem with the US economy, says senator(Cointelegraph)(外部)
証言の議場での受け止めを伝える記事。直接質問したのはバンクス、ケネディ両議員のみで、ケネディ議員は証言を一蹴したと報じる。

Senator Kennedy dismisses cryptocurrency’s role in US economy during affordability hearing(CryptoBriefing)(外部)
公聴会の構図を整理した記事。会場や同席証人の顔ぶれ、特定トークンが話題に上らなかった点など、当日の様子を伝えている。

【関連記事】

トークンかステーブルコインか。それともPayPayか? 6月1日『新仲介業』がひらく、日本のデジタル金融インフラ 米国の立法に対し、日本の改正資金決済法と新仲介業を解説。決済の「役割分担」という論点が今回の記事と重なる日米比較の一本。

2030年までに実物資産トークン市場が4兆ドルに達する可能性:マッキンゼー報告 McKinseyのトークン化市場予測(基本2兆ドル・楽観4兆ドル)を解説。証言が引用した市場規模の数値を補う背景記事である。

Western Union、ステーブルコイン活用の国際送金試験を開始 大手送金事業者によるステーブルコイン送金の実証を紹介。今回の「国際送金コスト削減」という主張を裏づける実例にあたる。

ビットコイン暴落44%の真相|2026年デジタル資産市場の制度化と生き残る条件 CLARITY ActとGENIUS法を投資家視点で整理。今回触れた米国の制度化の文脈を補強する記事として参照できる。

【編集部後記】

「お金を送るのが、メールを送るのと同じくらい簡単に」——耳ざわりのよいフレーズですが、その裏では、誰がレールを敷き、誰が見張るのかという地味で重い議論が進んでいます。今回の証言が議場で大きく響かなかったことは、むしろ健全なのかもしれません。技術の可能性と制度の慎重さが、同じテーブルで噛み合い始めた瞬間として、私たちはこの一日を記録しておきたいと思います。次に動くのは、CLARITY Actの本会議採決です。続報を追いかけます。

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