XRPLの利回りプロトコルSOIL(@soil_farm)が2026年6月23日、Xに投稿した内容によると、SOILはXRPL Lending ProtocolおよびSAV(Single Asset Vault)を利用する最初のアプリケーションになるべく準備を進めているという。
XLS-65およびXLS-66は、XRPL上でネイティブにレンディング(融資)およびイールド(利回り)のプロダクトを実現する仕様である。SOILは、これらが可能な限り早期に有効化されることを望むとしている。
投稿には先行公開として2分7秒の動画が添付され、続報が予告された。当該投稿の再生数は記事執筆時点で5.3万となっている。
From:
Soil(@soil_farm)on X
【編集部解説】
XRP Ledger(以下、XRPL)という名前を聞いて、多くの方が思い浮かべるのは「国際送金が速くて安いブロックチェーン」という像ではないでしょうか。実際、XRPLは2012年の稼働開始から14年近く、送金や決済に加えて、DEX(分散型取引所)やトークン発行、AMM(自動マーケットメイカー)といった機能を備えてきました。数秒で決済が確定し、手数料は1セントの何分の一かで済む。その一方で、暗号資産を「貸し借りして利息を生む」というネイティブな融資(クレジット)機能は、これまでXRPLには存在しませんでした。
今回のSoilの投稿が示しているのは、その空白がいよいよ埋まろうとしている瞬間です。鍵を握るのが、XLS-65(Single Asset Vault)とXLS-66(Lending Protocol)という2つの仕様です。
まず仕組みを噛み砕きます。XLS-65が定めるのは「Vault(ボールト=金庫)」という入れ物です。複数の預金者が同じ資産、たとえばXRPやRLUSD(リップル発行の米ドル連動ステーブルコイン)を一つの金庫に預け、その見返りに金庫の持ち分を示すトークンを受け取ります。Soilの動画では、プレゼンターが「各Single Asset Vaultが独自のトークン(動画内では「MBTトークン」と表現)を発行する」と説明しています。これは、XRPLの仕様上はMPT(Multi-Purpose Token)と呼ばれる、Vaultの持ち分を示すトークンを指していると見られます。そしてXLS-66が、その金庫に集まった資金を元手に、満期と金利があらかじめ決められた融資を実行する役割を担います。
ここで、この設計が既存のDeFi(分散型金融)と決定的に違う点を押さえておきましょう。一般的なDeFiの融資は、借り手が暗号資産を「担保」として差し入れ、価格が下落すれば自動的に担保が清算される仕組みです。一方、XRPLの融資プロトコルは無担保(uncollateralized)の固定期間ローンを前提とし、借り手の信用審査(アンダーライティング)はあえてブロックチェーンの外(オフチェーン)で行います。借りられる期間は30日から180日が想定されています(報道ベース)。難しい与信判断は人間や専門機関に任せ、ブロックチェーンは契約の記録と実行に徹する——この割り切りが、機関投資家にとっての参入しやすさを生んでいます。
では、なぜ「Soil」がその最初の担い手として名乗りを上げているのか。ここに今回のニュースの重みがあります。Soilは、約3億ドル(約450億円。2026年2月時点)の資産を運用するORQO Groupのフィンテック部門で、報道によればポーランドとマルタで金融ライセンスを保有しています。すでに2026年2月にはRLUSD向けの利回り商品をXRPL上で立ち上げ、初期プールの100万ドル(約1億5000万円)が72時間以内に埋まったと報じられています。つまりSoilは思いつきの新興プロジェクトではなく、実績のある規制対応型の運用主体だということです。(※円換算は1ドル=150円で計算。以下同じ)
このニュースが与える影響の範囲を考えてみます。短期的には、過度な期待は禁物です。XLS-66dというアメンドメント(プロトコル変更案)は、信頼されたバリデーター(取引を承認する検証者)の80%以上の賛成を2週間連続で維持して初めて有効化されます。2026年6月下旬時点で、XLS-65・XLS-66はいずれもなお「投票受付中(Open for Voting)」の段階にあり、メインネットでの有効化には至っていません。Soilの「できるだけ早く有効化されることを願う」という言葉は、裏を返せば、有効化がまだ実現していないことの表れでもあります。
しかし、長期的な視点に立つと、この動きの意味は小さくありません。利回りを求めて暗号資産を取引所や中央集権的なプラットフォームに預ける——ユーザーが自己管理(セルフカストディ)を手放す理由の一つがこれでした。XRPL上で利回りが完結すれば、設計やVaultの権限設定しだいでは、鍵を自分で握ったまま資産を働かせる選択肢が生まれる可能性があります。RLUSDのようなステーブルコインは、単なる決済の道具から「利息を生む資産」へと役割を広げていくかもしれません。
潜在的なリスクも公平に見ておく必要があります。最大の課題の一つが、新しい市場の立ち上げにつきものの「コールドスタート問題」です。無担保融資には、損失をまず引き受ける覚悟と資金力を持つ引受人(アンダーライター)が不可欠ですが、それはアメンドメントが有効化されただけで自動的に集まるものではありません。引受人が数社、借り手が十数社の段階では、それはまだ実証実験であって、本格的な利回りエンジンとは呼べないでしょう。加えて、与信をオフチェーンに委ねる設計は、裏返せば「ブロックチェーンの外側にある審査の質」に成否が左右されるということです。XLS-66は自動的な担保清算をあえて省く設計のため、借り手が返済できなければオンチェーンの清算では回収できず、現実世界での回収プロセスや損失吸収の仕組み(ファーストロス・キャピタル等)が必要になります。
規制との関係でいえば、XRPLは興味深い立ち位置にあります。XLS-70(Credentials)やXLS-80(Permissioned Domains)といった仕様を組み合わせると、本人確認(KYC)を通過した参加者だけが入れる金庫を、Vault側の設定しだいで運用できます。これは、伝統的な金融機関がコンプライアンスを守りながらオンチェーンでサービスを提供するための土台です。規制を「制約」ではなく「信頼の前提」として組み込もうとする姿勢が、ここには見て取れます。
innovaTopiaとして注目したいのは、これが単なる一つのプロトコルの機能追加にとどまらない点です。XRPLは「お金を動かす」インフラとしての歴史を重ねてきました。次に問われているのは、「お金に値段をつけられるか」——つまり信用を扱えるかどうかです。それは、2030年のXRPやXRPLが金融インフラとしてどんな存在になっているかを左右する、本質的な問いだと私たちは考えます。Soilの短い予告動画は、その大きな転換点の入り口を映し出しているのです。
【用語解説】
XRP Ledger(XRPL)
2012年に稼働を開始した分散型のオープンソース・ブロックチェーンである。独自の合意形成(コンセンサス)方式により、数秒での決済確定と極めて低い手数料を実現する。送金・決済のほか、DEXやトークン発行、AMMなどの機能を備える。
アメンドメント(Amendment)
XRPLのプロトコルに新機能や変更を加えるための仕組みである。バリデーター(検証者)が合意形成を通じて、秩序立った形でネットワークの更新を適用する。XLS-66dなどがこれにあたる。
XLS-65(Single Asset Vault / SAV)
複数の預金者から単一の資産を集約し、その資金を融資プロトコルなど他の仕組みから利用可能にするための「金庫」を定める仕様である。預金者は持ち分を示すトークン(MPT)を受け取る。
XLS-66(Lending Protocol)
集約された資金を元手に、オンチェーンで無担保・固定期間のローンを発行する仕様である。借り手の信用審査はオフチェーンで行うことを前提とする。XLS-66dは、その具体的な実装版(アメンドメント名)を指す。
RLUSD
リップル社が発行する米ドル連動型のステーブルコイン(法定通貨と価値が連動する暗号資産)である。XRPLおよびEthereum上で発行され、現金・現金同等物による1対1の裏付けを設計とする。本件では、Vaultに預け入れて利回りを得る対象資産の一つとして登場する。
RWA(リアルワールドアセット/実世界資産)
米国債、私募クレジット(プライベートクレジット)、不動産など、ブロックチェーンの外側に存在する現実の資産を指す。これをトークン化し、オンチェーンの利回りの源泉とする動きが広がっている。
MPT(Multi-Purpose Token)
ステーブルコインなどの用途に最適化された、XRPLの代替可能トークンの規格である。Vaultの持ち分証明にも用いられる。なお、Soilのデモ動画ではこの持ち分トークンが「MBT」と表現されていたが、これはXRPL仕様上のMPTに相当するものと見られる。
Permissioned Domains / Credentials(XLS-80 / XLS-70)
本人確認(KYC)を通過した参加者のみがアクセスできる、許可制の領域や認証情報を扱う仕様である。規制対応が求められる金融機関のオンチェーン参加を可能にする土台となる。
【参考リンク】
Soil(公式サイト)(外部)
ORQO Group傘下のフィンテック部門が運営する利回りプロトコル。実世界資産を裏付けに固定利回りを提供する。
Soil XRPL(XRPL向け公式ページ)(外部)
SoilのXRPL専用ページ。RLUSDとXRPで5〜8%の固定APRを得られるVaultなどを紹介している。
XRP Ledger(公式サイト)(外部)
XRPLの公式情報サイト。各アメンドメントの仕様や投票状況(Known Amendments)を確認できる。
XLS-66 Lending Protocol(仕様書/GitHub)(外部)
XRPL標準仕様を管理する公式リポジトリ。融資プロトコルの設計を一次情報として参照できる。
Ripple(公式サイト)(外部)
RLUSDの発行体であり、XRPLの主要な開発企業。機関投資家向けDeFiの動向を発信している。
【参考記事】
XRPL lending protocol: what on-chain credit means for XRP(crypto.news)(外部)
XLS-66dが2026年1月28日に34バリデーターの投票へ入り、有効化に80%の賛成を2週間要すると伝える。
XRPL’s New Lending Protocol Could Attract Institutional Capital(Yahoo Finance / 24/7 Wall St.)(外部)
リップルが20万ドル規模のAttackathonを実施し6万人超が検証、融資期間30〜180日と報じる。
XRP Ledger Set To Power First Lending Application With XLS-65 And XLS-66 Upgrade(CoinGape)(外部)
本件の直接報道。デモ動画で各Vaultが独自のMBTトークンを発行する様子が示されたと伝える。
Soil launches RLUSD yield protocol on XRP Ledger(The Block)(外部)
ORQOが約3億ドルを運用、ポーランド・マルタで免許を持ち、100万ドルプールが72時間以内に埋まったと報じる。
Soil Introduces Single Asset Vault on XRPL to Streamline Institutional Lending(Chainwire)(外部)
SoilがSAVを導入し、約8%APRを目標にRLUSDを集約する仕組みをXLS-66の早期採用例として解説する。
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【編集部後記】
このニュースを読み解きながら、「速くて安い」だけがブロックチェーンの価値ではない、という当たり前の事実が浮かんできました。XRPLが積み上げてきた決済の土台の上に、今度は「信用」という新しい層が加わろうとしています。とはいえ、投票はまだ途上で、無担保融資という設計には現実世界の審査という重たい前提が横たわっています。華やかな数字よりも、その地に足のついた仕組みづくりにこそ未来の輪郭が宿るのではないか——そんなことを考えながら、続報を一緒に見守っていけたらと思います。

