ティアフォー上場、初値は公募割れ――「無償のAutoware」に市場が付けた641億円

ティアフォー上場、初値は公募割れ――「無償のAutoware」に市場が付けた641億円

株式会社ティアフォー(本社:東京都品川区、代表取締役CEO加藤真平)は、2026年7月22日、東京証券取引所グロース市場へ新規上場した。銘柄コードは593A。

同社は「自動運転の民主化」をビジョンに掲げ、2015年に自動運転用オープンソースソフトウェア「Autoware」が公開されて以来、その開発を主導するとともに、安全な自動運転に資するテクノロジーを開放し、組織や個人が発展に貢献できるエコシステムを構築してきた。新規上場に関する詳細は、日本取引所グループのウェブサイト「新規上場会社情報」に掲載されている。上場に伴い、同社はIRページも公開した。

なお、当該発表文は記者発表文であり、投資勧誘を目的としたものではない。当社普通株式は1933年米国証券法に基づく登録を行っておらず、米国内での公募は予定されていない。

From: 文献リンク東京証券取引所グロース市場への上場のお知らせ

【編集部解説】

上場初日の値動きは、この会社が引き受けた難しさをそのまま映していました。初値は午前9時9分に1009円。公開価格1085円を76円、率にして7.0%下回りました。その後は高値1081円まで戻す一方、安値は896円まで沈み、終値は1015円。出来高は1955万8000株にのぼりました。好調とは言いがたい滑り出しです。ただ、ここで注目したいのは株価の上下ではなく、「自動運転の民主化」という思想を掲げた企業に、市場が初めて具体的な価格を付けたという事実のほうです。

初値ベースの時価総額は約641億円。一方、直近の2025年9月期は売上高64.1億円(前期比65.6%増)に対し、営業損失は105.1億円と売上を上回りました。経常損失は55.0億円、親会社株主に帰属する純損失は48.0億円。営業キャッシュフローは72.8億円のマイナスで、現金及び現金同等物は69.3億円でした。本業の赤字が売上を上回る企業に、売上の約10倍にあたる評価が付く。この落差を説明するのが、ティアフォーの立ち位置です。

誤解のないよう補っておくと、同社はソフトウェアだけを売っているわけではありません。商用ライセンス、エンジニアリング、導入支援に加え、BYD製車両をベースとした自動運転バスなどを自ら製造・販売しており、2026年3月までに26台を販売しています。それでも評価の芯にあるのは、Autowareを起点とするソフトウェア基盤が広く採用された場合の将来像だと、編集部は見ています。

ウェイモや百度(バイドゥ)のアポロ・ゴーは、車両からサービス運営までを自社で束ねる比重が高いです。対してティアフォーは、ソフトウェア基盤を軸に他社と分担する比重が高い。実際にはどの企業も両者が混ざっていますが、重心の置き方は明確に異なります。

この賭けを支えるのが、日本市場の伸びしろです。2026年1月16日に閣議決定された第3次交通政策基本計画は、自動運転サービス車両数を2025年度の11台から、2030年度に1万台へ増やす目標を掲げました。約900倍です。政府はこれに先立ち、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版」(2025年6月13日閣議決定)で「2027年度までに、無人自動運転移動サービスを100か所以上で実現」を掲げています。両者は異なるKPIですが、政策としては地続きのものと捉えてよいでしょう。

ティアフォーはKDDI、KDDIスマートモビリティとの3社協業で、2030年までに累計1000台規模の商用導入を目指すとしています。集計の時点と定義には差がありますが、国の目標の約1割にあたる規模です。上場で得た資金は、この数字に近づくための開発と実装に充てられていくことになります。

編集部としてもっとも興味深いのは、ここから先です。Autowareは誰でも使えます。主要コードはApache License 2.0で公開されており、2018年12月には業界標準化を推進する国際非営利団体「The Autoware Foundation」も設立されました。ティアフォー、アペックス・エーアイ、リナロが設立主体となり、創設メンバーにはアームやインテル・ラボが名を連ねています。技術を開放することで仲間を増やし、巨大な単独プレイヤーに対抗する——これはきわめて合理的な戦略です。

ただし、Autowareのコードそのものに利用料はありません。収益は、商用リファレンスデザイン、ライセンス、エンジニアリング、運用支援、そして車両販売から生まれます。上場企業となった今後は、「開放したこと」が四半期ごとの数字としてどう回収されるのかを、市場に説明し続ける必要があります。理念と決算が同じテーブルに載る。国内でこれだけ大規模なオープンソースを軸に据えた上場企業は多くなく、日本のOSS事業にとってひとつの試金石になると編集部は見ています。

上場に先立ち、トヨタ傘下のトヨタ・インベンション・パートナーズがティアフォーに出資しました。届出資料では50万株、1.0%の保有が確認できます。取得金額は10億円規模と報じられていますが、金額を開示した一次資料は確認できません。トヨタは「e-Palette」について2027年度にレベル4搭載車の市場投入を目指すとしており、ティアフォーとは自動運転の共同開発を進めています。ただし、両者を直接結ぶ契約の内容そのものは公表されていません。

また、この1%を「日本連合の成立」と読むのは早いかもしれません。トヨタは中国でポニー・エーアイ、米国でウェイモとも組んでおり、主要3市場でそれぞれ有力企業と提携する構図をとっています。ティアフォーは、その選択肢のひとつとして選ばれた——編集部はそう解釈しています。心強い後ろ盾であると同時に、独占的な庇護ではありません。

ウェイモは日本交通、GOと組み、2025年4月から東京都心7区で25台の車両による公道走行を開始しています。ただし初期段階は訓練を受けた乗員が運転して地図作成やデータ収集を行うもので、東京で無人の配車サービスが始まったわけではありません

一方、米国10都市では毎週50万回以上の完全自動運転サービスを提供しています(2026年3月末時点)。東京は、その技術を持ち込む先として位置づけられている段階で、商用サービスの開始時期は公表されていません。

ティアフォーが上場によって手にした資金と信用は、この時計の針と競争するためのものです。

読者のみなさんにとって、今回の上場にはもうひとつ実利があります。IRページの公開により、国産自動運転企業の進捗が四半期ごとに数字で読める状態になったことです。これまで日本の自動運転は、実証実験のプレスリリースや政府資料を拾い集める形が中心でした。今後は四半期決算を通じて、売上や損益といった財務の進捗を継続的に追えます。ただし、導入台数や研究開発費の内訳が毎回そろって開示されるとは限りません。それでも、株を買うかどうかとは別に、未来の進み具合を測るものさしがひとつ増えたと捉えていただければと思います。

2015年8月、名古屋大学の研究室から公開された1本のオープンソース。同年12月に会社が生まれ、11年を経て東証に上場企業として立ちました。その事実自体が、日本のテクノロジー史における小さな、しかし確かな結節点です。

【用語解説】

自動運転レベル4
限定された条件下において、システムがすべての運転操作を担い、運転者を必要としない自動運転の段階を指す。日本では2022年に成立・公布し2023年4月に施行された改正道路交通法により、「特定自動運行」として許可制度が創設された。

AWSIM
Autoware向けに公開されているオープンソースのシミュレーター。実車と同形式のROS 2メッセージやセンサーを模擬でき、車両がなくてもAutowareの走行挙動を検証できる。ただし、シミュレーション結果がレベル4の認可や実環境での安全性を証明するものではない。

第3次交通政策基本計画
交通政策基本法に基づき、2026年1月16日に閣議決定された国の交通施策の基本方針。計画期間は2025〜2030年度で、自動運転サービス車両数を2025年度の11台から2030年度に1万台とする数値目標を含む。

KDDIスマートモビリティ
2026年7月1日にCommunity Mobility株式会社から商号変更したKDDIの完全子会社。AIオンデマンド交通「mobi」の運営に加え、自動運転サービスの走行計画策定、車両調達、遠隔監視、運行管理を担う。

アポロ・ゴー(Apollo Go)
中国の百度(バイドゥ)が運営する自動運転タクシーサービス。同社の自動運転プラットフォーム「アポロ」を基盤とし、2026年5月時点で世界27都市に展開、中国本土の複数都市で完全無人サービスを運営している。

e-Palette(イーパレット)
トヨタ自動車が展開する多用途モビリティ。シャトルや移動店舗としての利用を想定する。発売時点の運転支援はレベル2で、トヨタは2027年度にレベル4搭載車の市場投入を目指すとしている。

【参考リンク】

株式会社ティアフォー(TIER IV)公式サイト(外部)
「自動運転の民主化」を掲げる名古屋大学発企業の公式サイト。Autowareを基盤とした製品、サービス、会社情報の全体像を確認できる。

株式会社ティアフォー IRページ(外部)
上場に伴い公開された投資家向けページ。IRカレンダーには2026年8月中旬の第3四半期決算発表予定も掲載されている。

日本取引所グループ「新規上場会社情報」(外部)
東証への新規上場企業に関する一次情報を集約したページ。ティアフォーの目論見書や上場承認情報も、誰でも無料で閲覧できる。

The Autoware Foundation(外部)
2018年12月に設立された、Autowareの開発と業界標準化を推進する国際的な非営利団体。世界各国の企業や研究機関が参画している。

Autoware(GitHubリポジトリ)(外部)
Autowareのソースコードが公開されている開発拠点。Apache License 2.0のもと、誰でも取得でき、改変や開発への貢献も可能である。

AWSIM(GitHubリポジトリ)(外部)
Autoware向けのオープンソースシミュレーター。実車と同形式のROS 2メッセージを扱え、車両なしで走行挙動を検証する環境を構築できる。

Pilot.Auto(外部)
Autowareを基盤としたティアフォーの自動運転ソフトウェアプラットフォーム。用途別の商用リファレンスデザインを提供している。

Web.Auto(外部)
自動運転システムの開発、検証、運用を支えるDevOps基盤。シミュレーションやデータ管理、フリート運用の機能を提供している。

Edge.Auto(外部)
エッジ側の認識処理と車載コンピューティング環境を対象とする、ティアフォーのリファレンス基盤およびプロダクトブランドである。

トヨタ・インベンション・パートナーズ(外部)
運用期間を設けない長期目線の出資を特徴とする、トヨタの戦略投資会社。ティアフォー株式の1.0%を保有している。

KDDI ニュースリリース(ティアフォーとの協業)(外部)
ティアフォー、KDDI、KDDIスマートモビリティによる3社協業の一次情報。2030年までに累計1000台規模の商用導入を目指す。

Waymo in Japan(外部)
ウェイモの日本における取り組みをまとめた公式ページ。東京での走行が現時点でどの段階にあるのかを、一次情報として確認できる。

警察庁「自動運転」(外部)
レベル4に対応する「特定自動運行」の許可制度など、日本の自動運転に関する法制度を所管官庁の立場から解説したページである。

【参考動画】

東京の一般道でAutowareを搭載した車両が走行する様子を収めた、TIER IV公式チャンネルの映像。認識・判断の挙動を視覚的に把握できる。

自動運転を支える計算基盤について、ティアフォーが2023年7月に開催した技術者向けワークショップのアーカイブ。技術的背景を深く知りたい読者に適する。

【参考記事】

日本取引所グループ「ティアフォー 業績等の概要」(PDF)(外部)
売上高64.1億円、営業損失105.1億円、経常損失55.0億円、純損失48.0億円といった財務数値を確認できる一次資料である。

日本取引所グループ「ティアフォー 上場会社概要」(PDF)(外部)
上場時発行済株式数63,524,090株や事業内容を記載した資料。初値ベースの時価総額を自分で検算する際の根拠となる。

きょうのIPOの終値、ティアフォーは1015円で初日の取引終える(外部)
上場初日の値動きを伝える報道。初値1009円、高値1081円、安値896円、終値1015円という推移を確認できる記事である。

国土交通省「第3次交通政策基本計画」本文(PDF)(外部)
自動運転サービス車両数を2025年度の11台から2030年度に1万台とするKPIが記載された、政府計画そのものの一次資料である。

内閣官房「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2025年改訂版」(PDF)(外部)
2027年度までに無人自動運転移動サービスを100か所以上で実現するという政府目標が明記された、閣議決定文書である。

ティアフォーとKDDI、自動運転サービスの社会実装に向け協業に合意(外部)
3社協業を発表した一次情報。2030年までに累計1000台規模の商用導入を目指すと明記し、政府の1万台目標にも言及している。

Waymo「New beginnings in Japan」(外部)
日本交通、GOとの連携で東京都心7区に25台を投入した際の公式発表。初期段階が乗員による走行であることも記されている。

【関連記事】

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【編集部後記】

github.com/autowarefoundation/autoware は、上場後も誰でもクローンできます。AWSIMを組み合わせれば、車両を持たなくてもAutowareの走行挙動をPC上で検証できます。一方でtier4.co.jp/irには、四半期ごとに売上と損益が並んでいきます。無償で配られるコードと、投資家へ説明される数字。世界中の開発者がAutowareに積むコミットは、2030年の累計1000台にどの経路で効いてくるのでしょうか。

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