Coinbase、ステーブルコイン決済の課税撤廃を米議会に要請 ― 暗号資産税制改革の行方

Coinbase、ステーブルコイン決済の課税撤廃を米議会に要請 ― 暗号資産税制改革の行方

Coinbase は米国の議員に対し、ステーブルコイン決済へのキャピタルゲイン課税の要件を撤廃し、少額の暗号資産取引を煩雑な報告ルールの対象から除外するよう求めた。

2026年6月9日、同社の税務担当バイスプレジデントであるローレンス・ズラトキン氏が下院歳入委員会(House Ways and Means Committee)で証言し、ドルにペッグされた連邦規制下のステーブルコインは税務上は額面で扱われるべきだと主張した。

また、マイニング・ステーキング報酬への課税繰り延べや、ウォッシュセール・ルールに18〜24か月の移行期間を設けることなども併せて要請した。

From: 文献リンクCoinbase urges Congress to scrap taxes on stablecoin spending

【編集部解説】

今回の証言を理解する出発点は、米国の現行税制では暗号資産が「財産(プロパティ)」として扱われている、という点にあります。株や不動産と同じ扱いのため、原理上はステーブルコインでコーヒーを一杯買うだけでも、その瞬間に値動きが生じていれば損益を計算し、申告する義務が発生します。Coinbase のローレンス・ズラトキン氏が「実務上ほとんど意味のない負担」と訴えた背景には、この構造的な無理があります。

ここで一つ、見出しの言葉には補助線を引いておきたいところです。「課税撤廃」と聞くと暗号資産そのものへの課税がなくなるように響きますが、Coinbase が求めているのは、ドルと1対1で設計されたステーブルコインを税務上は額面(フェイスバリュー)で扱い、決済のたびのキャピタルゲイン計算を不要にする、という限定的な変更です。投資で得た利益への課税が消えるわけではありません。

数字の面でも、原記事を一歩補っておきます。Coinbase が支持したヤキム議員の法案(Less Tax Paperwork for Digital Asset Owners Act)は、10ドル以下のネットワーク手数料を免除する一方、前年に5,000件を超える取引を行った人は原則として対象外とする、という線引きが設けられています。原記事はこの条件に触れていないため、無制限の免除と誤読しないよう注意が必要です。

そして見落とせないのが、今回の下院法案群には、ビットコインなど一般の暗号資産を使った日常決済を広く免除する規定が含まれていない、という事実です。だからこそ Coinbase は「より広範な少額免除」をあえて求めています。上院側ではルミス議員が1取引300ドル・年間5,000ドルを上限とする、より踏み込んだ案を提示しており、上下院の間にはまだ温度差が残ります。

技術的に最も実装が難しいと指摘されたのが、ウォッシュセール・ルールです。これは「同じ資産を短期間で売って買い戻すと損失計上を認めない」という、株式市場の租税回避防止策を暗号資産にも広げる構想です。ところが暗号資産は、中央集権型取引所、分散型の流動性プール、自己保管ウォレットをまたいで24時間取引され続けます。これらを横断して違反をリアルタイム検知できる統一データ基盤は、現時点で存在しません。18〜24か月という移行期間の要求は、業界の駆け引きというより、インフラが未整備であるという現実に根ざした要望だと読むのが妥当でしょう

一方で、この証言を Coinbase 単独の主張として受け取るのは早計です。同じ公聴会には Fidelity や Coin Center、NYU の Tax Law Center も証人として出席しています。さらに公聴会の外でも、米国銀行協会(American Bankers Association)が「暗号資産が伝統的金融資産より有利になりかねない」と懸念を示しています。民主党のホースフォード議員も修正を求めて慎重な姿勢を示していると報じられており、論点は依然として割れています。

長期的な視点では、この動きは「ステーブルコインの GENIUS Act」「市場構造の CLARITY Act」に続く第三の柱、すなわち税制を整える試みと位置づけられます。税のルールが日常使用のコストを左右する以上、ここが詰まらなければ前の二つも十分には機能しません。ただし今回はあくまで討議用の草案を扱う公聴会であり、法律として成立したわけではない点は、冷静に押さえておくべきでしょう。

【用語解説】

キャピタルゲイン課税
資産を売却・使用した際に生じる値上がり益(譲渡益)に対する課税。米国では暗号資産が「財産」として扱われるため、ステーブルコイン決済のような少額取引にも原理上この計算義務が及ぶ。

ウォッシュセール・ルール
資産を売却して損失を計上した後、売却前後30日以内に同じ資産を買い戻した場合、その損失計上を認めない租税回避防止策。株式市場で先行し、暗号資産への適用が議論されている。

ステーキング/マイニング報酬
ブロックチェーンの維持に貢献した対価として新たに付与される暗号資産。バリデーター(ステーキング)やマイナー(マイニング)が受け取る。報酬を「受け取った時点」と「売却した時点」のどちらで課税するかが争点である。

下院歳入委員会(House Ways and Means Committee)
米国下院で税制を所管する中心的な委員会。本記事の公聴会の主催者であり、デジタル資産税制法案を審議する場となった。

GENIUS Act
連邦レベルでステーブルコインの枠組みを定めた米国の法律。州の監督ルールを整合させる動きの基準となっている。

CLARITY Act
暗号資産の市場構造を規定する法案。下院を通過し、上院での審議が続いている。特定のステーブルコイン報酬プログラムの存続にも関わる。

IRS(米内国歳入庁)
米国の税務行政を担う連邦機関。デジタル資産を「財産」として扱い、暗号資産の損益申告や報告ルールを所管している。

【参考リンク】

House Ways and Means Committee(下院歳入委員会)(外部)
米国下院の税制所管委員会。今回のデジタル資産税制公聴会の主催者で、関連法案や証言資料を公開している。

Ripple(外部)
暗号資産XRPを活用した国際送金などを手がける企業。Coinbase とともに CLARITY Act の前進を議会に呼びかけた。

Paradigm(外部)
暗号資産分野に特化した投資企業。第三者企業の報酬を制限しかねないステーブルコイン規制案の見直しを FDIC に求めている。

New York State Department of Financial Services(NYDFS)(外部)
ニューヨーク州の金融監督機関。州のステーブルコイン監督を GENIUS Act の要件に整合させる提案を出している。

FDIC(米連邦預金保険公社)(外部)
米国の預金保険・金融機関監督を担う連邦機関。Paradigm からステーブルコイン規制案の一部見直しを求められている。

【参考記事】

Congress Proposes New Tax Rules For Digital Assets(NFT Plazas)(外部)
ヤキム議員案が10ドル以下のガス代を免除する一方、日常購入は課税対象のままと整理した記事。

Congress Gets 7 New Crypto Tax Bills: Here’s What’s In Them(Decrypt)(外部)
下院共和党が回付した7本の暗号資産税制法案を解説。日常決済への広範な免除には踏み込んでいないと指摘する。

Crypto Tax Hearing June 2026: De Minimis, Staking & Wash-Sale Rules(Spoted Crypto)(外部)
公聴会を「方向性を定めるもので法律ではない」と位置づけ、上院ルミス案との差にも言及した記事。

Coinbase Calls for Simpler Crypto Tax Rules at House Hearing(The Crypto Times)(外部)
ズラトキン氏の証言を詳報し、ヤキム議員案・ケアリー議員案の内容を整理した記事。

Congress Debates Major Crypto Tax Overhaul in House Hearing(The Crypto Times)(外部)
米国銀行協会の懸念やホースフォード議員の慎重姿勢を伝え、賛否が割れる構図を補う記事。

‘Third leg of the stool:’ House lawmakers set to debate crypto tax bills(The Block)(外部)
税制を GENIUS Act・CLARITY Act に続く「3本目の柱」と位置づけ、証人構成を整理した記事。

【関連記事】

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GENIUS Act・CLARITY Act を軸にステーブルコインの規制論議を整理。今回の米議会証言の規制的背景と直結する記事。

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米国で暗号資産が「財産」扱いとなる点や、ウォッシュセール・ルールの現状を解説。本記事の前提知識を補う記事。

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【編集部後記】

普段、コンビニで支払うとき「これは課税対象かな」と考える人はまずいないと思います。けれど暗号資産の世界では、その当たり前がまだ当たり前ではありません。「決済手段として日常に溶け込むには何が足りないのか」――今回の税制論議は、その問いをくっきり映し出しているように感じます。みなさんは、ステーブルコインで気軽に買い物ができる未来が来てほしいと思いますか。それとも、まだ慎重であるべきだと感じますか。よかったら、ご自身の感覚を起点に考えてみてください。

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