韓国、債務救済に暗号資産を組み込み——KAMCO が残高証明書で資産審査、返済能力で減免率を調整へ

韓国、債務救済に暗号資産を組み込み——KAMCO が残高証明書で資産審査、返済能力で減免率を調整へ

韓国の金融委員会は、6月25日に Korea Asset Management Corporation(KAMCO)と開いた点検会合の後、自営業者や小規模事業者向けの債務再編プログラム New Start Fund を改定すると表明した。

今後は暗号資産や非上場株式も資産審査の対象とし、財産評価や承認後のモニタリングを強化する。主要5つのウォン建て暗号資産取引所の会員と確認された New Start Fund 申請者は1月から残高証明書の提出を求められており、非上場株式の開示は5月に始まった。

返済能力が100%を超える借り手は、最低元本減額率が60%から30%に変わり、当局は返済能力に応じて債務救済を5〜30パーセントポイント引き下げる。現行ルールでは90日超延滞の無担保債務で60〜80%、低所得・脆弱層は最大90%の減額が認められている。8月13日施行の信用情報法改正で、債務再編機関は財産情報を一括取得できるようになる。

From: 文献リンクSouth Korea revises debt relief rules to include crypto assets

【編集部解説】

このニュースを読み解く鍵は、「なぜ今なのか」という背景にあります。FSC の発表自体は、改定の理由を「最近、新しい出発基金の目的に合わない支援事例が確認されたため」と述べるにとどめています。ただ、その背景には、2025年12月に韓国の監査院(Board of Audit and Inspection)が公表した監査結果や、それを受けた報道で問題が表面化した流れがあったとみられます。DL News などの報道によれば、本来はコロナ禍で苦しむ自営業者を救うはずの New Start Fund から、269人の暗号資産保有者に総額1500万ドル超の債務減免が渡っていた事実が判明していました。

象徴的なのが、報告書で「B」と匿名化された人物の事例です。Bは6万2350ドル(債務の77%)の減免を受けながら、同時期に約30万7000ドル相当の暗号資産を保有していたとされます。つまり、十分な資産を持つ人が「見えない資産」を盾に公的救済を受け取れてしまう。今回の制度改定は、この抜け穴をふさぐための措置だと理解すると、輪郭がはっきりします。

技術的な要点は、資産を「捕捉する仕組み」が二段構えになったことです。ひとつは、New Start Fund 申請者のうち、主要5取引所の会員と確認された人に課される残高証明書の提出手続。もうひとつが、8月13日施行の信用情報法改正によって、KAMCO などの機関が暗号資産・非上場株式のデータを一括取得できるようになる点です。従来も行政情報の共同利用網などは活用されていましたが、暗号資産や非上場株式に関しては自己申告や限定的な確認に頼らざるを得ませんでした。今後は行政が関係機関から直接データの提供を受け、申告内容を事後検証できる。捕捉の精度が根本から変わります。

影響を受けるのは暗号資産保有者全般ではなく、あくまで公的債務救済を申請する層です。返済能力が100%を超える借り手の最低減免率が60%から30%へと半減し、能力に応じて5〜30ポイントの幅で救済が絞られる。これは「持てる人への減免を薄くし、本当に困窮している人へ手厚く配る」という再分配の精緻化であり、制度の公平性を高める方向の調整だと言えるでしょう。

ポジティブに捉えれば、これはモラルハザードの抑制であり、税金を原資とする公的支援への信頼を守る取り組みです。同時に、暗号資産が、少なくとも公的債務調整の財産審査において「確認対象の資産」として扱われるようになったことを意味します。取引所レベルの規制から、世帯の財務という生活の領域へ。デジタル資産が社会のインフラに組み込まれていく過程の、ひとつの到達点とも読めます。

一方で、見落とせない論点もあります。残高証明書が捕捉できるのは、あくまで国内取引所に預けられた資産です。自己管理ウォレットや海外取引所の保有まで完全に追えるわけではなく、「捕捉できる人」と「できない人」の間に新たな不公平が生まれる懸念は残ります。加えて、当局が個人の金融データへ広範にアクセスできる枠組みは、プライバシーや監視の観点から慎重な運用が求められるはずです。

長期的に見れば、この一手は単発の措置にとどまりません。韓国では、デジタル資産を正規の財産として行政手続きに統合する流れが着実に進んでいます。今月、規制サンドボックスのデジタル資産法への拡大や、12月施行予定の越境仮想資産移転業務の登録・報告枠組みを相次いで打ち出していることも、その文脈の一部です。暗号資産が「見えない資産」だった時代は、静かに終わりを迎えようとしています。

【用語解説】

New Start Fund(新しい出発基金)
韓国政府が運営する債務再調整プログラムである。コロナ禍などで経営難に陥った自営業者・小規模事業者を対象に、延滞した無担保債務の元本を一定割合減免し、再起を支える「金融セーフティネット」の一つだ。運営は KAMCO が担う。

信用情報法(Credit Information Act)
個人の信用・金融情報の収集や利用、保護のあり方を定める韓国の法律である。今回の改正により、政府の債務再編機関が本人の同意なしに暗号資産や非上場株式の保有データを一括取得できるようになる。施行は8月13日。

仮想資産残高証明書(virtual asset balance certificate)
取引所が発行する、利用者の暗号資産保有残高を証明する公式書類である。申請者が国内主要取引所にどれだけの暗号資産を預けているかを行政が客観的に確認する根拠となる。2026年1月から、New Start Fund 申請者のうち主要取引所の会員と確認された人について提出手続きが運用されている。

監査院(Board of Audit and Inspection)
韓国の会計検査・行政監察を担う独立機関である。2025年12月、New Start Fund の運用を監査し、暗号資産を保有しながら債務減免を受けていた事例を指摘した。今回の制度改定の背景の一つになったとみられる。

【参考リンク】

金融委員会(FSC)(外部)
韓国の金融政策と金融監督を統括する政府機関。金融関連法の立案や許認可を担い、今回の改定を主導した。

韓国資産管理公社(KAMCO)(外部)
1962年設立の公的資産管理機関。不良債権処理や家計の信用回復支援を担い、New Start Fund の実務を運営する。

聯合ニュース(Yonhap)(外部)
韓国の代表的な通信社。元記事が一次情報として参照した、金融委員会の発表を報じた現地メディアである。

【参考記事】

「新しい出発基金」財産審査を強化…仮想資産・非上場株式も綿密に確認(韓国政策ブリーフィング)(外部)
FSC・KAMCO の発表を伝える韓国政府の一次情報。改定の趣旨や減免率の差等化を直接確認できる。

How South Korean government paid crypto holders $15m in debt relief(DL News)(外部)
監査により、中小事業者向け基金から269人の暗号資産保有者へ1500万ドル超が渡っていたと報じた記事。

South Korea Now Considers Crypto Holdings In Debt Relief Reviews(Bitcoin World)(外部)
1月開始の残高証明書活用や、主要5取引所との協議の経緯を整理し、元記事を実務面から補う解説。

South Korea Integrates Crypto into Debt Relief Screening(EconoTimes)(外部)
暗号資産を伝統的資産と並べ審査する点に着目し、隠し資産の発見とモラルハザード抑制の意図を解説。

South Korea’s New Start Fund Adds Crypto Assets to Debt Relief Review(CoinCu)(外部)
全面改革ではなく一制度の審査基準の調整と冷静に位置づけ、他の公的制度への前例性を論じた記事。

【関連記事】

韓国、公務員の暗号資産公開とPullix取引所立ち上げで透明性とイノベーションを推進
韓国が公務員倫理法を改正し、高官の資産公開に暗号資産を加えた取り組み。行政が暗号資産を正規の財産として扱う先行例である。

Upbitハッキングで動く韓国当局─仮想通貨取引所に「銀行並みの無過失補償」義務化へ
ハッキングを受け、韓国FSCが取引所に無過失補償を義務化する動き。暗号資産を制度へ組み込む規制強化の別側面を示す。

りそな・JCB・デジタルガレージ、実店舗でステーブルコイン決済の実証実験を開始
日本でステーブルコイン決済を実証する取り組み。暗号資産が日常のインフラへ広がる流れを、日本の事例から読み解ける。

Bithumb、620,000 BTC誤配布で韓国当局が調査開始─「ペーパーBitcoin」問題が浮き彫りに
韓国金融監督院が大手取引所の運用を調査した事案。韓国当局が暗号資産への監督を強める近年の文脈を示す。

【編集部後記】

「暗号資産は自由でつかみどころのない資産」——そんなイメージは、少しずつ過去のものになりつつあるのかもしれません。今回の韓国の動きは、デジタル資産が公的制度のなかで「正規の財産」として扱われ始めた一例です。みなさんなら、この変化をどう受け止めるでしょうか。透明性が高まる安心と、行政が個人の資産を把握する怖さ。その両方が同居しているように私たちには見えました。もし日本で同じ議論が始まったら、と想像してみると、少し違う景色が見えてくるかもしれません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です