電通デジタルは2026年7月23日、社内専門組織「with AIラボ」を設立し、第1弾の独自調査「生活者のAI活用実態調査 2026.7」の結果を公表した。プライベートで生成AIを利用し、かつ当該カテゴリーに購買意欲がある層のうち、直近半年以内の買い物でAIに相談した割合は全商品カテゴリーで30%以上に達し、旅行計画/宿泊予約が57%、金融商品/保険が56%、日用品が32%、食品/飲料/お酒が31%だった。
AIの回答をそのまま採用する層は2〜3%である。別の設問による購買ファネル別のAI利用意向は、存在認知70.9%、特徴認知74.9%、比較検討78.8%、購買後の対応72.5%、最終的な購入決定49.6%となった。調査企画は電通デジタル、実査は株式会社電通マクロミルインサイトが担当し、全国の15〜69歳男女を対象にスクリーニング調査10,000サンプル、本調査3,300サンプルを回収した。
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生活者のAI活用実態調査を実施 AI利用者の約3人に1人が購買行動においてAIに相談 旅行や金融で顕著 | 電通デジタル
【編集部解説】
この調査でもっとも重要な数字は、元リリースで強調された57%でも、見出しの「3人に1人」でもありません。49.6%です。
購買ファネルのうち、最終的な購入決定だけがAI利用意向で50%を割り込みます。存在認知70.9%、特徴認知74.9%、比較検討78.8%、購買後の対応72.5%。周囲が70%台で並ぶなかで、決定の瞬間だけがくっきりと凹んでいる。ここに、調査対象者が引いている線が現れています。
ただし49.6%という数字は、裏を返せば半数近くが最終決定でもAIを使いたいと考えているということでもあります。決定権を完全に手放さない、というより他の段階に比べて、最終決定の瞬間だけAI利用意向が明確に下がる。この落差こそが、今回のデータの本体です。
まず、分母を正確に押さえる
「3人に1人」は日本人全体の話ではありません。カテゴリー別の数字はいずれも、プライベートで生成AIを現在使っていて、かつそのカテゴリーに購買意欲がある人を対象に測られています。しかもこれは全体の平均値ではなく、最低値である食品・飲料・お酒(31%)と日用品(32%)に相当する数字です。
同じ理由で、以下で扱う電通デジタル調査の傾向は、いずれも「調査に回答した生成AI利用者」のものであり、日本の生活者全体に一般化できるものではありません。ここは注意して読み進めてください。
ただし、その分母は速い速度で膨らんでいます。総務省の令和7年版情報通信白書では、日本で生成AIサービスを使ったことがあると答えた人は2024年度調査で26.7%、その前年の調査では9.1%でした。2026年2月に実施されたICT総研の調査では、回答者2,024人のうち54.7%が直近1年以内に生成AIサービスを利用した経験があると答えています。
この2つは調査設計も定義も異なるため掛け合わせられませんが、少なくとも「AIに買い物を相談する」ことが、一部の先進層に限られた行動ではなくなりつつある方向性は読み取れます。
元リリースの「3人に1人」は、控えめな表現
全カテゴリーが30%以上という結果に対し、旅行計画/宿泊予約は57%、金融商品/保険は56%。高関与カテゴリーでは、すでに10人に6人近くがAIに相談しているという水準です。旅行や金融を主戦場にする事業者にとっては、来年の話ではなく今期の話だろう、というのが編集部の見立てです。
なお、この2種類の数字は性質が異なる可能性があります。カテゴリー別はリリース本文で「直近半年以内の買い物についてAIに相談した割合」と説明される一方、セクション見出しは「AI利用意向」となっており、図1の設問も依存度を問う形です。図3は「利用したいと思いますか」と明確に意向を尋ねています。単純に横並べする前に、詳細レポートで設問設計を確認しておきたいところです。調査時期が2026年5月と7月に分かれている点も、読むうえで押さえておきたい条件です。
リリースに載っていない補助線「裏取り行動」
電通デジタルのオウンドメディアに掲載されたラボメンバーのインタビューでは、AIに提案された後の動きが語られています。ほとんどの人がAIの提案を受けたあと、公式サイトを見に行き、口コミを読み、実店舗に足を運ぶ。ラボはこれを「裏取り行動」と呼んでいます。
さらに、60代男性でも生成AIの利用経験者は過半数に達し、そのうち85%が継続して使っているというデータも示されています。ただし、この数値はインタビュー記事での言及であり、公開ページには実数や誤差範囲の記載がないため、参考値として扱うのが適切です。
AIは新しい入り口になった。しかし、まだ主流の出口ではない。——これが、調査から見える現在地です。
同じ判断を、プラットフォーム自身も下していた
ここが今回もっとも興味深い符合です。
OpenAIは2025年9月、ChatGPTの会話内で購入まで完結する「Instant Checkout」を投入しました。ところが2026年3月24日、同社は方針の変更を公表します。そこに書かれていたのは、こういう趣旨の説明でした。
Instant Checkoutの初期版は、自分たちが目指す柔軟性を事業者に提供できていなかった。だから事業者が自社のチェックアウトを使えるようにし、我々は商品発見に注力する。
つまり、退いたのはACP(Agentic Commerce Protocol)ではありません。ACPはむしろ商品発見の接続層として拡張され、事業者が商品フィードやプロモーションをChatGPTへ供給する仕組みになりました。すでにTarget、Sephora、Nordstrom、Lowe’s、Best Buy、The Home Depot、Wayfairが発見用途でACPに統合済みです。Shopifyの商品データはShopify Catalog経由で連携され、購入はアプリ内ブラウザで事業者のストア上で完結します。より深い統合を望む事業者にはChatGPTアプリという選択肢が残り、Walmartがこの形で参入しました。
発見はAIで、決済は事業者側で。日本の生活者が「裏取り行動」として自然にやっていたことを、プラットフォームも設計として選んだ。両者に因果関係があると示す資料はありませんが、似た構造が同時期に現れたことは記録しておく価値があると編集部は考えています。
この分業は、数字の上でも成立しつつある
Adobeの2026年5月データによれば、米国小売サイトへのAI経由流入は前年同月比138%増、2024年10月比では1,324%増。訪問あたり収益は非AI流入より53%高く、コンバージョン率も54%高い。1年前にはAI経由の転換率が非AI流入のほぼ半分だったことを考えると、完全な逆転です。
そして旅行サイトへのAI経由流入は、同月に前年比194%増。今回の電通デジタル調査で旅行がカテゴリー1位(57%)だったことと、業種の並びが符合します。国も指標も分母も異なるため同一の現象とは言えませんが、同じ方向を指している点は目を引きます。
AIで比較検討を進めた人が、判断材料を持った状態で自社サイトに着地している——という説明は自然ですが、Adobeのデータは流入元と成果の相関を示すものであり、因果関係までは確定できません。「AIに客を奪われる」という懸念とは逆方向の動きが観測されている、という程度に留めておくのが誠実でしょう。
では企業は何をすべきか
リリースは「情報設計」と「体験設計」の両立という言い方をしていますが、具体に落とすとこうなります。
ひとつは、AIに正しく読まれ、正しく引用される状態をつくること。製品スペック、価格、在庫、比較軸が機械可読な形で整理されているか。SEOの延長ではなく、AEO(Answer Engine Optimization)やGEO、LLMOと呼ばれる近接領域です。Adobeは、小売・旅行といった上位業種でさえ、高価値ページの内容の30〜40%がAIに捕捉されていないと指摘しています。
もうひとつは、着地してすぐに信頼を渡せるかどうか。AI経由の訪問者には、すでに比較検討を進めている人が多い可能性があります。そこで必要なのは説得ではなく、確認材料でしょう。裏取りしたい人に、裏が取れる情報を置いておく。これは編集部としての実務的な提案です。
追い風と、動きはじめた地面
ラボのインタビューでは、AIが条件ベースで選択肢を提示することで、ブランドの知名度に縛られずスペックやコスパをフラットに比較できるようになったという変化が語られています。広告予算の大小で認知が決まってきた構造に、変化が生じる可能性はあるでしょう。良い製品をつくる中小メーカーにとって追い風になり得る——ただしこれは予測であり、実際の表示機会や売上効果を示すデータはまだありません。
一方で、地面のほうが動きはじめています。
AIがどの製品を推奨するかの詳細な重み付けは非公開です。ただし「何のルールもない」わけではありません。OpenAIは2026年2月9日から米国でChatGPT内の広告テストを開始しており、広告は回答に影響を与えないこと、常に「スポンサー」と明示され、オーガニックな回答と視覚的に分離されることを公表しています。テスト中は、健康やメンタルヘルス、政治といったセンシティブ・規制領域の周辺には広告を表示しない方針も示されています。
そして2026年5月7日、OpenAIはこのパイロットを日本を含む地域へ拡大する計画を公表しました。日本での実際の開始時期や対象範囲はまだ確定していませんが、「AIに相談する」という行為の中に、オーガニックな推奨とスポンサー枠という2つの層が現れる可能性が出てきたことになります。
日本の景品表示法におけるステルスマーケティング規制は2023年10月1日に施行されています。消費者庁の運用基準は特定の媒体に限定されていないため、一般論として、事業者が表示内容の決定に関与し、広告であることが判別しにくいAI上の表示も対象となり得ます。ただし、AIによる商品推奨についての個別・包括的な公式整理は現時点で確認できず、適用は事案ごとの判断になります。AI推奨に特化した統一ルールが未成熟なだけで、規制の外にあるわけではない、という位置づけです。
見るべきは「線の位置」ではなく「線の速度」
AI推奨をそのまま採用する層は2〜3%。小さく見えますが、これは「今の」数字です。ラボは3つの境界線——マジョリティ化の境界線、業界カテゴリーの境界線、決断の境界線——を挙げ、この線は今後スライドしていくはずだと述べています。
条件で正解が決まりやすいカテゴリーから動き始めるだろう、というのがラボの見方です。逆に、人生設計や恋愛といった正解のない領域では、どれだけ合理的な提案をされても自分で決めたいという傾向が強く出たとも報告されています。いずれも今後の定点データで検証されるべき仮説です。
この調査が定点観測として設計されている意味は、そこにあります。線がどこにあるかではなく、線がどちらへ、どれくらいの速さで動くか。次回のデータが出たとき、49.6%がどうなっているか。そこが、私たちが本当に見ておくべきポイントです。
【用語解説】
生成AI
文章や画像などを新たに作り出すAIの総称。一般にはChatGPTやGeminiなどの対話型サービスが該当する。本調査は「プライベートで生成AIサービスを現在利用している人」を対象としている。
高関与カテゴリー/低関与カテゴリー
購入前にどれだけ情報を集め、比較するかの度合いによる分類。今回の調査では旅行や金融商品が高関与、日用品や食品が低関与にあたる。一般には自動車や住宅も高関与の代表例とされる。関与度の高さとAI利用率の高さに関連が見られたのが今回の結果である。
購買ファネル
生活者が商品を知ってから購入し、その後のフォローに至るまでの流れを漏斗に見立てたモデル。段階の呼び方はモデルによって異なる。今回の調査は各段階でAIがどれだけ使われるかを分解して測定している。
定点調査(定点観測調査)
比較可能な設計で継続的に実施し、時系列の変化を追う調査手法。単発の調査が「今の断面」しか示せないのに対し、変化の方向と速度を可視化できる。with AIラボはこの手法を掲げている。
スクリーニング調査
本調査の対象者を絞り込むために、事前に大人数へ実施する簡易調査。今回はスクリーニング10,000サンプル、本調査3,300サンプルという規模で実施された。
裏取り行動
AIから商品を提案された後に、公式サイトや口コミサイトを確認したり実店舗に足を運んだりして、内容を自分で検証する行動。with AIラボが今回の調査結果を説明する際に用いている表現である。
AEO/GEO/LLMO
検索結果の順位ではなく、AIが生成する回答のなかで自社の情報が引用・推奨されることを目指す最適化の考え方。Answer Engine Optimization、Generative Engine Optimization、Large Language Model Optimizationの略で、それぞれ範囲や定義に揺れのある近接概念である。
ACP(Agentic Commerce Protocol)
AIエージェントと事業者、決済事業者のあいだで商品情報や注文をやり取りするための共通仕様。OpenAIとStripeが共同開発し、オープンな標準として公開されている。2026年3月には商品発見を支える接続層へと役割が拡張された。
Instant Checkout
ChatGPTの会話画面から離脱せずに商品を購入できる機能として2025年9月に導入された仕組み。2026年3月、OpenAIは初期版が事業者に十分な柔軟性を提供できていなかったとして、事業者自身のチェックアウトを利用可能にし、自社は商品発見に注力する方針へ転換した。
コンバージョン率(CVR)/訪問あたり収益(RPV)
CVRは、サイト訪問のうち購入などの成果に至った割合。RPVは1訪問あたりの平均売上を指し、流入の「質」を測る指標として使われる。
ステルスマーケティング規制
広告であることを隠して宣伝する行為を、景品表示法上の不当表示として禁じる指定。2023年10月1日に施行された。運用基準は特定の媒体に限定されておらず、事業者が表示内容の決定に関与し広告と判別しにくい場合には、一般論として媒体を問わず対象となり得る。
【参考リンク】
電通デジタル|with AIラボ サービスページ(外部)
with AI時代の生活者インサイトと行動変化を研究する社内専門組織の公式ページ。設立背景、2つの視点、メンバー体制を掲載している。
電通デジタル|KNOWLEDGE CHARGE「with AIラボ」インタビュー(外部)
ラボメンバー5名へのインタビュー記事。裏取り行動や3つの境界線など、プレスリリースには載っていない独自の分析が語られている。
電通デジタル|調査レポート「with AIの現在地」ダウンロード(外部)
第1弾調査の全結果をまとめた詳細レポート「with AIの現在地」の配布ページ。フォーム登録の後、ダウンロードリンクが案内される。
株式会社電通デジタル 会社概要(外部)
2016年7月1日設立。2023年から自社を総合デジタルファームと位置づけている。代表取締役社長執行役員は瀧本恒が務める。
株式会社電通マクロミルインサイト(外部)
電通グループとマクロミルの合弁による調査会社。今回はスクリーニング10,000サンプル、本調査3,300サンプルの実査を担当。
電通|AI For Growth(外部)
国内電通グループのAI戦略を紹介するページ。人間の知とAIの知の掛け合わせを掲げ、グループ横断の取り組み状況を確認できる。
総務省|令和7年版 情報通信白書「個人におけるAI利用の現状」(外部)
日本の生成AI利用経験率26.7%(2024年度調査)と、米国68.8%・ドイツ59.2%・中国81.2%との国際比較を掲載する。
消費者庁|ステルスマーケティング規制(外部)
景品表示法に基づくステルスマーケティング規制の公式解説。2023年10月1日施行で、広告と分かりにくい表示を不当表示とする。
Adobe|Adobe Analytics(外部)
米国小売サイトへのAI経由流入を継続的に計測している解析基盤の公式製品ページ。同社が公表するインサイトの基礎データとなる。
【参考記事】
Powering Product Discovery in ChatGPT(外部)
2026年3月24日の公式発表。Instant Checkoutの初期版は柔軟性に欠けたとし、決済を事業者に委ね商品発見へ注力すると表明。
Testing ads in ChatGPT(外部)
ChatGPT広告の公式説明。回答には影響せず必ず「スポンサー」と明示するとし、5月7日に日本を含む地域への拡大を予告した。
AI travel traffic surges as engagement hits new highs(外部)
Adobe公式の2026年5月データ。米国小売のAI経由流入138%増、旅行は194%増で、転換率は非AI流入比54%高いと報告する。
OpenAI shifts checkout plans in its agentic commerce strategy(外部)
3月6日時点の報道。OpenAI担当者の発言としてInstant Checkoutのアプリ側移行を伝え、ACPは存続すると説明している。
Buy it in ChatGPT: Instant Checkout and the Agentic Commerce Protocol(外部)
Instant CheckoutとACPを発表した2025年9月の一次情報。オープン標準として公開した経緯と設計思想が示されている。
AI traffic surges across industries, retail sees biggest gains(外部)
2025年ホリデー総括。小売サイトへのAI経由流入693%増、旅行539%増、金融サービス266%増と業種別に報告している。
ICT総研|2026年2月 生成AIサービス利用動向に関する調査(外部)
2026年2月実施の国内調査。回答者2,024人のうち54.7%が直近1年以内に生成AIを利用し、前回から25.7ポイント上昇した。
【編集部後記】
ChatGPTに旅行の相談を投げ、返ってきた宿名をそのまま公式サイトで検索したことがあるなら、それが調査の言う「裏取り行動」です。最後にどこで確認したかをたどると、49.6%という数字の内側が見えます。レポート「with AIの現在地」はフォーム登録で読めます。
OpenAIが2026年5月に予告したChatGPT広告の日本パイロットが始まったとき、この定点調査は「AIに相談する」の中身をどう切り分けるのか。