NVIDIA、中国市場シェア95%から0%へ——ジェンスン・フアンCEOが語る米輸出規制の代償

NVIDIA CEOのジェンスン・フアン氏は2025年10月6日にニューヨークで開催されたCitadel Securitiesのイベント「Future of Global Markets 2025」にて、同社の中国市場シェアが「95%から0%」へ転落したと発言した。フアン氏は「中国において、我々は今やゼロにまで落ち込んだ」と述べ、米国の輸出規制が「すでに大きく裏目に出ている」と指摘した。

Quartz、TechRadar、Tom’s Hardwareの報道によれば、この下落は先進的なAI GPUに対する米国の度重なる輸出規制と、中国における国産代替品採用の動きに起因する。Tom’s Hardwareが引用したBernsteinの推計では、NVIDIAの中国AI GPU市場シェアは2024年の66%から今後数年で約8%まで低下する可能性がある。TechRadarによれば、NVIDIAは2026年度第1四半期に輸出規制関連費用として45億ドルを計上した。中国国産チップとしてはHuaweiのAscendが挙げられている。

From: 文献リンクJensen Huang Says Nvidia Loses China Market Share

【編集部解説】

ジェンスン・フアン氏が「95%から0%へ」と語ったCitadel Securitiesのイベントは、2025年10月6日にニューヨークで開催された「Future of Global Markets 2025」で行われました。Sequoia Capitalのパートナーであるコンスタンチン・ブーラー氏との対談形式で、動画は同月中旬にYouTubeで公開されています。NVIDIAが中国市場からの後退の規模を経営トップ自らの口で公に数値化したのは、これが初めてとなります。

ここで注目すべきは、フアン氏の言う「0%」が指す範囲です。これはNVIDIAが中国の顧客に対して直接販売しているハイエンドAIアクセラレーターのシェアを指しており、グレーマーケット経由で流通している製品は含まれていません。実際にThe Next Webの報道によれば、規制対象のB300サーバーが中国国内で約100万ドル、米国価格のほぼ2倍で取引されているとされ、需要そのものは消えていないことが伺えます。

そもそも「H20」という製品は、米国の輸出規制に準拠する形でNVIDIAが中国市場専用に性能を抑えて設計したGPUでした。ところが2025年4月9日、米政府はこのH20の輸出にもライセンスを求める方針を通知。これによってNVIDIAは2026会計年度第1四半期に45億ドルの在庫評価損を計上し、さらに25億ドル分の出荷機会を失うという二重の打撃を受けています。同社のコレット・クレスCFOは、規制がなければH20で約80億ドルの受注があったと述べています。

規制の動きはその後も流動的に推移しています。Computer Weeklyによれば、トランプ政権はバイデン政権下で導入された「Framework for AI Diffusion」を撤回しました。一方でTechRadarによれば、2025年9月には米政府が中国向け販売再開を一部許可したものの、収益の15%を米政府に支払う条件付きでの再開とされ、政策の振れ幅の大きさが浮き彫りになっています。

もう一つ重要な数字があります。クレスCFO自身が、中国のAIアクセラレーター市場はやがて約500億ドル規模に成長すると見込んでおり、ここから締め出されることは「重大な悪影響」をもたらすと警告している点です。中国市場はかつてNVIDIAのデータセンター収益の20〜25%を占めていたとTom’s Hardwareは伝えており、その喪失は決して小さくありません。それでも投資家の反応は冷静で、これは中国を除いた成長余力の方が大きいと市場が判断していることを示唆しています。

技術的な観点から見れば、本件の本質は「AIインフラの地政学的なデカップリング(分断)」が現実の数字として現れ始めたことにあります。HuaweiのAscendシリーズや、AIチップを手がけるCambricon(寒武紀)といった中国国産勢が、Bernsteinの分析によれば中国国内需要の最大80%をすでにカバーしつつあります。つまり輸出規制は、皮肉にも中国の半導体内製化を加速させる結果を招いているのです。

これは単なる一企業の業績の話ではありません。生成AIの基盤となるGPUと、その上で動くソフトウェアスタック(CUDAのような開発環境)が、米中で別々のエコシステムへと分岐していく可能性を示しています。長期的には、AIモデルの可搬性、つまり米国製ハードで学習したモデルを中国製ハードで動かせるかという互換性の問題が、企業の調達戦略を左右する変数になっていくでしょう。

日本の事業者にとっても無関係ではありません。グローバルにAIインフラを展開する企業は、地域ごとのハードウェア可用性、コンプライアンス、そしてベンダー多様化を運用上の前提条件として組み込む必要が出てきます。「最高性能のGPUを世界のどこでも同じように使える」という前提は、すでに崩れ始めているのです。

フアン氏が政策に対して「すでに大きく裏目に出ている」と批判した背景には、米国の技術的優位性そのものが、皮肉にも輸出規制によって削がれているという経営者としての強い危機感があります。テクノロジーが純粋な技術力だけでなく、国家戦略と表裏一体で動く時代に入ったことを、この一件は鮮明に映し出していると言えるでしょう。

【用語解説】

AIアクセラレーター/AI GPU
AIモデルの学習や推論を高速化するために設計された半導体チップ。一般的なCPUよりも並列計算に優れ、ディープラーニングの計算処理に最適化されている。

H20
NVIDIAが米国の輸出規制に準拠する形で、中国市場向けに性能を抑えて設計したGPU製品。2025年4月9日以降、米政府はH20の輸出にもライセンスを必要とする方針へ転換した。

A100/H100/H200
NVIDIAのデータセンター向けハイエンドGPUシリーズ。生成AIの学習基盤として世界中のクラウド事業者やAI企業に採用されている。

Ascend(アセンド)
HuaweiがAIアクセラレーター市場向けに開発しているチップシリーズ。中国国内のNVIDIA代替品として急速に普及している。

CUDA
NVIDIAが提供するGPU向けの並列計算プラットフォームおよび開発環境。AI開発者の多くがこの環境に依存しており、実質的な業界標準となっている。

輸出規制(Export Controls)
米国政府が安全保障上の理由から、特定の高性能半導体の中国向け輸出を制限している規制。2022年10月から段階的に強化されてきた。

Framework for AI Diffusion
バイデン政権下で導入されたAI関連半導体の輸出管理枠組み。その後トランプ政権により撤回された。

デカップリング
ある経済圏や技術圏が別の経済圏や技術圏から切り離されていく現象。米中間ではAI・半導体分野でこの動きが顕著になっている。

ソブリンAI
各国・各地域が自国のデータと計算基盤で構築する独自のAIインフラを指す概念。フアン氏自身がCitadel Securitiesのイベントで重要なテーマとして言及している。

SEC(米国証券取引委員会)
米国の上場企業に対する情報開示などを監督する連邦機関。NVIDIAは中国関連の費用や収益影響をSECへ開示している。

【参考リンク】

NVIDIA 公式サイト(外部)
GPUおよびAIプラットフォーム、データセンター向けソリューションを提供する米国の半導体メーカー。

Citadel Securities 公式サイト(外部)
フアン氏のインタビューが行われた「Future of Global Markets 2025」を主催した米国の大手マーケットメイク企業。

Sequoia Capital 公式サイト(外部)
インタビュアーのコンスタンチン・ブーラー氏が所属する、米国を代表するベンチャーキャピタル。

Huawei 公式サイト(外部)
NVIDIA代替として中国国内でAscendシリーズを展開する、中国の通信機器・半導体メーカー。

NVIDIA Investor Relations(外部)
NVIDIAの決算情報やSEC開示資料が確認できる公式IRサイト。H20関連の45億ドル計上の詳細もここで確認できる。

【参考記事】

Jensen says Nvidia’s China AI GPU market share has plummeted from 95% to zero(Tom’s Hardware)(外部)
中国市場がかつてNVIDIAのデータセンター収益の20〜25%を占めていた経緯と、規制の歴史を詳述。

Jensen says Nvidia now has ‘zero percent’ market share in China(Tom’s Hardware)(外部)
Bernstein予測の66%から8%への低下と、中国国産勢が需要の最大80%を担う実態を提示。

Jensen Huang Says Nvidia Went From 95% Market Share To 0% In China(Benzinga)(外部)
「100% out of China」発言と、中国収益をゼロと見込むNVIDIAの財務予測を伝える。

Nvidia chief holds onto hope for policy change(South China Morning Post)(外部)
2025年10月6日のNYイベント詳細と、政策変更への期待を伝えるアジア視点の報道。

Jensen Huang says Nvidia’s China market share fallen to zero(TechRadar)(外部)
2025年9月の販売再開許可と収益15%放棄条件など、政策変動の経緯を解説。

Nvidia B300 servers sell for $1 million in China(The Next Web)(外部)
規制対象B300サーバーが中国国内で約100万ドル、米国価格の約2倍で取引される実態。

【編集部後記】

「世界最強のAI企業が、世界第二の市場でシェア0%」という事実は、技術そのものの話を超えて、私たちが今どんな時代に生きているのかを映し出しているように感じます。一方で中国国内ではB300サーバーが米国の倍額で取引されているとも報じられ、技術への需要は国境では消えません。

みなさんがお仕事や趣味でAIツールに触れるとき、その裏側のGPUがどこから来て、どんな経済圏で動いているのか——少しだけ意識を向けてみると、ニュースの見え方が変わってくるかもしれません。

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