Deezer、不正利用・無再生のAI生成曲を削除へ――6月のピーク日に新規配信の50%超

Deezer、不正利用・無再生のAI生成曲を削除へ――6月のピーク日に新規配信の50%超

Deezerは2026年7月21日、パリで、AI生成トラックのアップロードが初めて日次の新規音楽デリバリー全体の半分を超えたと発表した。完全AI生成と検出されたトラックは2026年6月に1日平均約9万曲へ達し、ピーク日には新規音楽配信全体の50%を超えた。

同社は今後、生成AIトラックのうち、不正ストリームの生成に使われたものと、6カ月以上ストリーミングされていないものを削除する。AI検出ツールは2025年1月から稼働し、2025年には1,340万曲を超えるAI生成トラックを検出・タグ付けした。

完全AI生成音楽は全ストリームの1〜3%を占め、2025年にはそのストリームが月によって最大85%まで不正と特定された。カタログ全体でのストリーミング詐欺は同年の全ストリームの8%だった。検出システムの精度は同社の公表で99.8%である。DeezerのCEOはアレクシス・ランテルニエ。

From: 文献リンクDeezer: AI music has surpassed 50% of new music uploads for the first time

【編集部解説】

「アップロードの半分がAI」という一文は、人間の音楽が半分に減ったという意味ではありません。公表された各時点の数字を逆算すると、増加の大部分は完全AI生成として検出された側で生じています。

Deezerがこの1年半に公表してきた数字を並べると、その構造が見えてきます。2025年1月は1日1万曲でアップロード全体の約10%。同年11月は約5万曲で34%超。2026年1月に約6万曲で39%、4月にほぼ7万5000曲で約44%。そして6月、1日平均で約9万曲に達し、ピーク日には50%を超えました。いずれもDeezer自身の検出にもとづく公表値であり、外部監査や独立検証を経たことは公表資料から確認できません。

ここから総アップロード数を逆算すると、2025年1月の約10万件から2026年4月には約17万件へと増えた計算になります(編集部試算)。6月については、9万曲が月を通じた日次平均、50%超がピーク日の比率であるため、同じ割り算は成立しません。それでも、増加の向きと規模は変わりません。

一方、完全AI生成として検出されなかった側——ここにはAI支援作品や未対応モデルの楽曲、見逃された楽曲も含まれます——は、逆算上おおむね1日9万件台で推移しており、大きくは動いていません。測定時点が離れていることや検出技術の改善を考えれば厳密な比較ではありませんが、増加分がどこで生じたかの見当はつきます。棚から人間の音楽が押し出されたのではなく、同じ大きさの棚がもう一つ、隣に建った。それが「50%」の実像だと解釈することができます。

もっとも注目すべきは、新規配信のピーク日で50%超という数字と、実際に聴かれた量が全ストリームの1〜3%という数字の落差でしょう。分母は異なりますが、いずれもDeezerが同じ発表のなかで示した公表値です。

作ってアップロードする行為のコストは、生成AIによって大幅に下がりました。しかし、人間が音楽を聴くために使える時間には上限があります。生成の側が急激に膨らむ一方、受け取る側は同じ速度では増えない。この非対称こそが、生成AI時代のあらゆる領域——文章、画像、映像——で繰り返される構図です。音楽はその最も早い実験場になりました。

そして、この落差を埋めようとするのが不正ストリームです。完全AI生成トラックのストリームは月によって最大85%が不正と判定された一方、カタログ全体の不正率は8%。桁が一つ違います。

Deezer自身も、これらのトラックをアップロードする主たる目的は詐欺にあると述べています。ただし「ストリームの何%が不正か」と「何%のトラックが不正目的で投稿されたか」は別の指標であり、投稿者の意図まで数字が直接語るわけではありません。

分配の原資が有限である以上、そこから取り分を得ようとすれば、再生シェアを稼ぐことが目的化します。量産コストが下がれば、量そのものが戦略になる。ただしDeezerは2023年以降、アーティスト・セントリック方式(ACPS)を導入し、各ユーザーがロイヤルティープールの分配に与える影響への上限、能動的な再生への重み付け、ノイズ音源の別扱いといった仕組みを組み込んでいます。単純な総再生数比例の分配ではなく、楽曲が増えただけで自動的に取り分が薄まる構造でもありません。

問題の根はAIの品質ではなく、分配の設計にあります。Deezerがその設計を先に組み替えていたことが、今回の数字を受け止める体力になっている——これは編集部の見立てであり、ACPSがどの程度影響を抑えたかを示す比較データが公表されているわけではありません。

検出精度99.8%という数値は、ほぼ完璧に見えます。しかし、1日十数万件という規模に当てはめると、印象は変わります。

Deezerの公表値では、AI生成曲の取りこぼしは約0.2%(1000曲につき約2曲)と推定され、真正な人間制作曲の誤検出は0.01%未満(1万曲につき1曲未満)とされています。AI側を9万曲とすれば取りこぼしは1日180曲前後となります。一方、非検出側の9万曲をすべて真正な人間制作曲と仮定した場合、誤検出は1日9曲未満という上限計算になります(編集部試算)。いずれも実運用における実測件数ではありません。後者を1年間に延ばすと年間3,285曲未満となりますが、これは上記の仮定にもとづく理論上の上限試算です。Deezerがタグをトラック単位ではなくアルバム単位で付与しているのは、この誤りを抑えるためです。

検出が手がかりとするのは、生成モデルが音声に残すアーティファクトと呼ばれる微細な痕跡です。人間の耳ではほぼ知覚できず、モデルごとに特徴が異なるため、生成に使われたツールの推定にも使われます。

前提にも留意が必要です。この検出は「100% AI生成」の楽曲を対象としています。SunoやUdioが代表例として挙げられていますが、Deezerは学習用のデータ例があれば他のツールにも対応でき、特定のデータセットに依存しない汎化にも取り組んでいるとしています。一方で、人間が構成を組みAIで一部を補ったハイブリッドな楽曲は、原則としてこの統計の対象外です。同社のリサーチ部門ディレクターであるマニュエル・ムサラムは、比率の上昇には検出技術そのものの改善も寄与していると説明したと報じられています。

「50%」は、AIが何らかの形で関与した作品の比率を表す数字ではありません。人間とAIの二分法は、計測の段階からすでに揺らいでいます。

発表のタイミングは、規制のカレンダーと重なります。EUのAI法第50条にもとづく透明性義務が、2026年8月2日から適用されます。合成音声や合成音楽を生成するAIシステムの提供者に対し、出力を機械可読な形で標識し、AI生成であると検出可能にすることを求める条文です。8月2日より前に市場へ出ていたシステムについては、この第50条2項の標識・検出義務に限り、同年12月2日まで猶予されます。

ここで注意したいのは、義務の名宛人が主として生成AIシステムの提供者である点です。Deezerのような配信サービスに、同じ検出義務が直接課されるわけではありません。それでも、AI生成であることを機械が判別できる状態が域内で前提になれば、配信側の実務も無関係ではいられません。

Deezerの発表は7月21日、適用開始は8月2日。日付は12日しか離れていません。ただしDeezerが適用開始に合わせて発表したことを示す資料はなく、両者を結びつけるのは編集部の見立てです。

Deezerは2026年1月から検出技術の外部提供を始め、Sacemとの試験実施やBillboardでの使用を公表しています。防御のためのコストだったものが、コンプライアンス市場に向けた製品へ転換しつつある——これも編集部の解釈であり、Deezer自身が今回の発表を製品の性能証明と位置づけたわけではありません。

引用されたCISACとPMP Strategyの調査についても、原典に当たると輪郭がはっきりします。2024年12月公表のこの研究は、規制枠組みが現状のまま推移した場合を前提に、音楽クリエイターの収益の24%が2028年にリスクにさらされ、同年単年で40億ユーロ(1ユーロ=186円換算で約7440億円。日本銀行が公表する2026年7月21日17時時点の参考相場は185.72〜185.76円)、5年累計では100億ユーロ(約1兆8600億円)の損失に達しうると試算しました。ここでの「クリエイター」は主として作詞・作曲家など著作者の権利収益を指し、レコード会社の原盤収益を対象とした研究ではありません。実績値ではなく、予測モデルである点も重要です。

日本の読者にとって重要なのは、同じ問題に対して、日本では別のレイヤーで線が引かれている点です。JASRACは2026年6月11日に生成AIに関する特設ページを公開し、単純な指示にもとづいてAIが自律的に生成した歌詞・楽曲は「人間の創作的寄与が認められない」として著作物に該当せず、管理を引き受けないという方針を明示しました。歌詞か楽曲の一方だけが人間の創作である場合は、その部分のみを管理対象とします。

Deezerがプラットフォーム上の検出という技術的な層で線を引くのに対し、日本ではJASRACが管理受託の段階で基準を示した。ただしこれは国の著作権制度そのものの方針ではなく、著作権等管理事業者による運用方針である点には留意が必要です。前者は事後的に見分ける営みで、誤検出のリスクを伴います。後者は事前に申告させる営みで、虚偽申告のリスクを伴います。どちらか一方では足りず、両者が噛み合ってはじめて機能する仕組みだと考えられます。

Ipsos Digitalが2025年10月6日から10日にかけて8カ国9000人(18〜65歳)を対象に実施した調査では、AI楽曲2曲と人間の楽曲1曲を聴かせ、それぞれが完全AI生成かどうかを判定させました。3曲すべてを正しく判定できた人は3%にとどまり、裏を返せば97%が1曲以上を誤ったことになります。1曲ごとに97%が間違えたという意味ではありません。日本もこの8カ国に含まれています。

3曲という限られたテストであり、識別能力そのものを測り切るものではありません。それでも、この結果が示すものは小さくないはずです。「AI音楽が人間の音楽に追いついた」という話ではなく、音そのものが、もはや出自の情報を確実には運ばなくなったという話です。

出自が音声信号から読み取りにくくなれば、それを担うのはメタデータとラベルになります。EUが機械可読な標識を義務づけ、Deezerが検出タグを付け、SpotifyがDDEX準拠のAIクレジット表示を始め、Appleが音源の納品仕様にAI透明性メタデータを追加したのは、いずれも同じ空白を埋める試みです。ただし後者2つは権利者や配信事業者による申告にもとづくもので、音声解析による検出とは性質が異なります。申告がないことは、AIが使われていないことを意味しません。

ここには注意すべき副作用もあります。Deezerが2024年12月に行った2件の特許出願は、2026年6月に欧州と米国の特許当局で公開されたと同社は発表しています。公開は出願内容が公になったことを意味し、特許権の成立を意味するものではありません。それでも、「何が人間の作品か」を判定する技術が知的財産として囲われ、商用ライセンスとして流通し、チャートの判定にまで使われるようになれば、人間性の認定という機能が一社に集中しかねません。現時点ではSpotifyやApple Musicが申告ベースの別方式を並行させており、認定が一元化されているわけではありません。それでも、検出という手法が標準になったとき、透明性を担保する仕組みそのものの透明性を誰が担保するのか。この問いには、まだ答えがありません。

音楽の価値は、いま録音物そのものから、それが誰の、どんな時間から生まれたのかという文脈へと重心を移しつつあります。技術が複製できないものが何であるかを、生成AIは逆説的に浮かび上がらせている。そう捉えるとき、この「50%」は脅威の数字ではなく、人間が自らの創作の意味を定義し直すための座標になるはずです。

【用語解説】

印税プール(royalty pool)
ストリーミングサービスの収入から、権利者への分配原資としてまとめられる資金。分配は、対象となる再生のシェアにもとづいて行われる。カタログの楽曲数が増えるだけで各曲の取り分が減るわけではなく、分配対象となる再生のシェアを奪われたときに影響が生じる。この現象を報酬希薄化(payment dilution)と呼ぶ。

アーティスト・セントリック方式(ACPS)
Deezerが2023年からUniversal Music Groupなどと導入した分配モデル。各ユーザーがロイヤルティープールの分配に与える影響への上限、プロアーティストや能動的な再生への重み付け、ノイズ音源を別カタログへ移す措置などにより、単純な総再生数比例からの脱却を図る。

アーティファクト(artifact)
生成モデルが出力する音声に残る、微細で規則的な痕跡。人間の聴覚ではほぼ知覚できないが、統計的な解析で検出できる。モデルごとに特徴が異なるため、生成に用いられたツールの推定にも利用される。

DDEX
音楽業界で楽曲情報や権利情報をやり取りするための国際的なメタデータ規格。AIの関与の程度を伝える項目が追加され、レコード会社や配信事業者から各配信サービスへ届けられる。検出結果ではなく申告情報である点が、Deezerの方式との違いである。

【参考リンク】

AI Music Detector by Deezer(外部)
2026年6月公開の無料判定ツール。手持ちのプレイリストにAI生成曲が含まれるかを、主要20プラットフォーム横断で確認できる。

AI detection on Deezer(外部)
リスナー向けにAI生成楽曲をタグ表示する機能の公式解説ページ。今回の発表原文からも参照されているリンクである。

Deezer for Creators:AI検出とタグ付けの解説(外部)
タグが印税額に影響しないことと、誤ってタグ付けされた場合の異議申し立て手順を説明した創作者向けページ。

CISAC/PMP Strategy AI Study(外部)
生成AIが著作者の収益に与える影響を試算した国際調査。2028年に音楽分野の24%がリスクとの予測を示す。

JASRAC「生成AIと著作権」特設ページ(外部)
2026年6月11日公開。AIを利用した作品の取り扱いに関する方針とガイドライン本文へアクセスできる。

欧州委員会:AI法第50条の透明性義務に関するFAQ(外部)
2026年8月2日の適用開始と、既存システムへの12月2日までの猶予範囲を公式に説明した資料。

EU AI法(規則2024/1689)本文(外部)
第50条2項が、合成音声等を生成するAIシステムの提供者に機械可読な標識と検出可能性を求めている。

Spotify:AI保護策の強化に関する発表(外部)
DDEXによるAI利用開示規格への対応、なりすまし対策、スパムフィルターの導入を公表した公式リリース。

DDEX:AI関連の取り組み(外部)
AI関与の程度を配信事業者からDSPへ伝えるためのメタデータ拡張について、規格側の説明が掲載されている。

Apple Music Specification(外部)
Apple Musicへの納品仕様書。AI透明性メタデータの項目と、その申告対象となる範囲が定義されている。

【参考記事】

Deezer deploys cutting-edge AI detection tool for music streaming(外部)
2025年1月の検出ツール導入発表。当時の日次アップロードは約1万曲、全体の約10%だったと記録している。

Deezer launches world’s first AI tagging system for music streaming(外部)
2025年6月のタグ表示開始を告げる発表。検出とタグ付けの対象が完全AI生成に限られることを示している。

Deezer and Ipsos study: AI fools 97% of listeners(外部)
意識調査の一次発表。2025年10月6〜10日に8市場9000人を対象とした調査手法と、3曲式の設問設計が明記されている。

How to Detect AI Music: Deezer Sells Its Detection Tool(外部)
外部提供開始の発表。1〜3%、月により最大85%、カタログ全体8%という比率の出どころとなる一次資料。

Deezer: AI-generated tracks now represent 44% of all new uploaded music(外部)
2026年4月時点でほぼ7万5000曲・約44%。逆算に用いた各時点の比率が一次情報として揃っている。

Deezer and Sacem partner for fairer remuneration with the artist centric model(外部)
ACPSの仕組みを説明した発表。分配への影響に上限を設ける考え方や重み付けの設計が示されている。

AI-generated music is now more than half of Deezer’s uploads(Music Ally)(外部)
1万曲から9万曲までの16カ月の推移を整理。他の大手プラットフォームへの波及可能性にも触れている。

Deezer makes it easier for rival platforms to take a stance against AI music(TechCrunch)(外部)
99.8%がDeezer自身のテスト値であること、発言者がムサラム氏であること、Sacemの検証参加を確認できる。

【関連記事】

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【編集部後記】

Deezerが6月に公開したAI Music Detectorは、Spotifyなどのサービスと連携してプレイリストを読み込み、完全AI生成と判定された曲を表示します。判定時の内部処理方式は公開資料では明らかにされていません。自分が半年前に組んだプレイリストを通すと、聴感では気づかなかった結果が返ってくることがあります。ただし対象は完全AI生成の音源で、人が構成しAIで肉付けした曲は原則として検出・タグ付けの対象外です。8月2日に適用が始まるEU AI法第50条が生成側に課す機械可読な標識は、この対象外の領域に届くのでしょうか。

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