SBIホールディングス株式会社は2026年6月25日、取締役会において、完全子会社のSBICAH合同会社を通じてビットバンク株式会社を完全子会社化する旨を決議し、ビットバンク、廣末紀之氏、株式会社MIXI、株式会社セレスとの間で基本合意書および株式譲渡契約を締結したと発表した。
取得価額の総額は467億円である。ビットバンクは暗号資産交換所「bitbank」を運営し、廣末紀之氏がCEOを務める。取引完了後、SBI VCトレード株式会社とビットバンクの2026年4月30日時点の数値の単純合算で、当社グループの預かり資産は約1.1兆円、暗号資産口座数は約292万口座となる見込みである。本株式譲渡は2026年8月頃、本取引の完了は2026年10月頃を予定する。本取引の実行は公正取引委員会の企業結合審査によるクリアランス取得等を条件とする。
【編集部解説】
まず、このニュースを「単発のM&A」として読むと本質を見誤ります。SBIは2026年に入ってから暗号資産まわりで立て続けに手を打っており、4月にはSBI VCトレードがビットポイントジャパンを吸収合併しています。この合併で、SBIはグループ内の暗号資産交換業のリソースを一つに集約し、重複の解消を進めました。今回のビットバンク完全子会社化は、その延長線上にある「点ではなく線」の動きと捉えるのが正確でしょう。
買収の構造には、一読しただけでは飲み込みにくい三段階の設計が組み込まれています。まずSBICAHが創業者・廣末紀之(ひろすえ・のりゆき)氏と個人株主から現金で株式を買い取り、次にビットバンクが実施する第三者割当増資をSBICAHが引き受け、最後にビットバンクがその増資で得た資金を使ってMIXIとセレスの保有株を自己株式として取得する、という流れです。MIXIとセレスの2社は合わせてビットバンクの株式のおよそ半分を握っており、この2社分をビットバンク自身が自己株式として取得することで、SBIの「間接議決権100%」が成立します。直接の保有比率は68.76%にとどまる一方、自己株式の取得等を経て、自己株式を除く間接議決権保有割合が100%に到達する点が、この設計のキモです。
なぜ今このタイミングなのか。SBI VCトレードは、ビットポイント合併の狙いとして、暗号資産が金融商品取引法の枠組みに入ることも視野に入れた経営資源の集中を挙げていました。資本やコンプライアンスの負担が増していくなかで、大手金融グループがいち早く規模を確保しに動いている、という構図が読み取れます。今回のビットバンク買収も、その流れの中に位置づけられます。
勢力図への影響は明確です。ビットバンクは一部報道では取引高ベースで国内3位とされる取引所ですが、同社自身はCoinGeckoの集計で日本の取引所首位と発表しており、評価軸は分かれます。いずれにせよ、買収完了後のSBIグループは、元記事によれば預かり資産で国内第1位、口座数でもトップクラスとなります。プレスリリースが示す通り、SBI VCトレードとビットバンクの単純合算で預かり資産は約1.1兆円、暗号資産口座数は約292万口座。これは、旧ビットポイントを取り込んだSBI VCトレードに、もう一つの主要取引所を積み増す形であり、事実上、三つの登録交換業者の機能を、ひとつのグループ基盤へ集約していく動きにあたります。
この統合が効いてくるのは、取引手数料ビジネスそのものよりも「その先」です。SBIはビットバンク買収の前日、信託銀行が裏付ける日本初の円ステーブルコイン「JPYSC」を稼働させ、同時期にリップルのドル建てステーブルコイン「RLUSD」も国内で取扱いを始めています。拡大した取引所の顧客基盤は、ステーブルコインやトークン化資産、オンチェーン金融商品を流通させる新たなチャネルになり得ます。つまりSBIは、取引・カストディ・決済という複数の層を一気通貫で押さえにいっているわけです。
ポジティブな側面として見逃せないのが、ビットバンクが持ち込む「セキュリティ実績」です。同社は2014年の創業以来ハッキング被害ゼロを掲げており、運用上の安全性が決定的な差別化要因となってきた市場において、これは重要な資産です。規制下での信頼とスケールメリットを同時に取り込める点は、買収の合理性を支えています。
一方で、潜在的なリスクも冷静に押さえておく必要があります。第一に寡占化です。三つの主要取引所が一社の傘下に集まることは、競争環境や利用者の選択肢に影響を与えかねません。本取引には公正取引委員会による企業結合審査のクリアランスが必要で、ここが最初の関門になります。第二に、買収対象の足元の収益です。プレスリリースの財務データを見ると、ビットバンクの2025年12月期は当期純利益がマイナス696百万円と、2024年の黒字から赤字へ転じています。スケール獲得と収益改善を両立できるかは、統合後の運営力にかかってきます。
規制という観点では、今回の再編は日本の制度設計の「成果物」でもあります。JPYSCが信託型ステーブルコインとして従来の送金額上限を外して登場できたのも、2022年の改正資金決済法によって、ステーブルコインに相当する「電子決済手段」の制度が整備されたからです。制度が明確だからこそ大手が踏み込めるという順序であり、業界再編は規制整備の延長線上にあると読み解けます。ただし、JPYSCの当初提供がSBI VCトレード内に限定され、外部ウォレットへの出金が税制・規制の明確化を待っているように、制度の未確定領域はなお残されています。
長期の視点では、この一連の動きはSBI会長兼社長・北尾吉孝氏が掲げる「トークンエコノミー」構想の具体化と位置づけられます。4月のビットポイント合併、6月のJPYSCとRLUSDの提供開始、そして今回の買収合意と、わずか数カ月で布石を畳みかけている——取引・カストディ・ステーブルコイン・暗号資産連動決済までを横断する金融グループが、急ピッチで形になりつつあります。リップルとの長年の関係(SBIグループはリップル社に約9%を出資)も踏まえると、日本最大級の交換業者が将来的にRLUSDやXRPの有力な配布経路になる可能性も視野に入ります。innovaTopia的に言えば、これは「暗号資産取引所の覇権争い」という古い枠ではなく、次世代の金融インフラ=オンチェーン経済の流通網を誰が握るのか、という競争の号砲なのです。
【用語解説】
完全子会社化 ある会社の議決権の100%を取得し、自社の支配下に置くこと。今回はSBIがビットバンクの議決権を間接的に100%握る。
基本合意書/株式譲渡契約 基本合意書は取引の大枠を定める合意で、株式譲渡契約は株式の売買条件を定める個別契約。今回は両方を同日に締結した。
SBICAH合同会社 SBIホールディングスの完全子会社で、今回の買収の受け皿(買収主体)となる事業体。ビットバンク株式を直接保有する役割を担う。
第三者割当増資 特定の相手にだけ新株を発行して資金を調達する手法。今回はビットバンクが新株をSBICAHに割り当て、その払込資金を後の自己株式取得に使う。
自己株式取得(金庫株) 会社が自社の株式を株主から買い戻すこと。今回はビットバンクがMIXIとセレスの保有株を取得し、両社を株主から外す設計になっている。
間接議決権保有割合 子会社など別法人を経由して実質的に握る議決権の比率。今回は自己株式を除いた計算で100%に到達する。
預かり資産 取引所が顧客から預かって管理している資産の総額。業界内の規模を示す代表指標で、英語ではAUC(Assets Under Custody)と呼ばれる。
暗号資産交換業(取引所) 暗号資産の売買や交換、管理を行う事業。日本では金融庁・財務局への登録が必須で、登録業者のみが営業できる。
企業結合審査 合併や買収が市場の競争を不当に妨げないかを公正取引委員会が確認する手続き。今回の取引はこの審査の通過が実行の前提条件となっている。
ステーブルコイン 法定通貨などに価値を連動させ、価格を安定させたデジタル通貨。決済や送金、取引の受け渡しに使う「動かすためのお金」として設計される。
信託型ステーブルコイン 裏付け資産を信託銀行が信託財産として分別管理する方式。日本では資金決済法上の電子決済手段に位置づけられ、送金・保有額の上限規制を受けない点が特徴。
オンチェーン金融 ブロックチェーン上で送金・決済・貸借などの金融機能を完結させる仕組み。従来の銀行システムを介さずに資産を動かせる点が特徴である。
トークン化資産(RWA) 株式・債券・不動産などの現実資産(Real World Asset)をブロックチェーン上のトークンとして発行・流通させたもの。決済にステーブルコインが使われる。
トークンエコノミー 現実世界の金融商品や権利がブロックチェーン上のトークンに移行し、その流通を軸に回る経済圏。SBIの北尾吉孝氏が長年掲げる構想である。
廣末紀之(ひろすえ・のりゆき) ビットバンクの創業者でCEO。買収前は同社の筆頭株主(30.86%)であり、今回の株式譲渡の主要な売り手にあたる。
【参考リンク】
SBIホールディングス株式会社(公式サイト)(外部)
銀行・証券・保険・暗号資産を擁するインターネット総合金融グループ。今回の買収主体で本リリースの発信元。
SBI VCトレード株式会社(公式サイト)(外部)
SBIグループの暗号資産交換業者。ビットバンクと統合される中核会社で、JPYSCやRLUSDの取扱いも担う。
ビットバンク株式会社(bitbank 公式サイト)(外部)
2014年創業の暗号資産取引所。創業以来ハッキング被害ゼロを掲げ、国内アルトコイン取引で高シェア。買収対象。
株式会社MIXI(公式サイト)(外部)
SNS・ゲーム・スポーツ事業を展開。ビットバンク株26.22%を持つ法人株主で、今回その全株を売却する。
株式会社セレス(公式サイト)(外部)
ポイントサイト「モッピー」やブロックチェーン事業を展開。ビットバンク株22.39%を持ち全株を売却する。
公正取引委員会(公式サイト)(外部)
日本の独占禁止法を運用する行政機関。今回の買収は同委の企業結合審査の通過が実行条件となる。
JPYSC(SBI VCトレード 製品ページ)(外部)
SBIとStartaleが立ち上げた日本初の信託型円建てステーブルコイン。今回の買収戦略の周辺施策にあたる。
Ripple(公式サイト)(外部)
送金網とドル建てステーブルコインRLUSDを手がける企業。SBIが約9%を出資し長年提携している。
【参考記事】
SBI Holdings Agrees to Acquire Japanese Crypto Exchange Bitbank in $288.6 Million Deal(Bitcoin Magazine)(外部)
買収額や統合後の口座数・預かり資産、bitFlyer等を上回る点、4月のビットポイント吸収を報じた記事。
Ripple Backer SBI Opens Bitbank Talks, Eyes Japan’s Largest Crypto Exchange(BeInCrypto)(外部)
5月の初期報道。3位の位置づけ、MIXIの取得経緯、SBIの過去最高益やリップル出資など背景を網羅。
SBI Acquires Bitbank for $289M, Cementing Japan’s Largest Regulated Crypto Operator(Genfinity)(外部)
国内3位・日次出来高や4月のビットポイント合併に触れ、三取引所統合と垂直統合戦略を分析した記事。
SBI Holdings signs $289 million deal to take full ownership of Japan’s Bitbank exchange(Cryptopolitan)(外部)
MIXI・セレスの持株比率や三段階の取引構造を解説。既存サービスに変更なしとの告知も伝える記事。
SBI Holdings Says $289 Million Bitbank Deal Will Make It Japan’s Largest Crypto Exchange(Decrypt)(外部)
買収額や10月完了・公取委審査前提、2025年12月期の黒字から純損失への転換などを報じた記事。
SBI to Acquire Bitbank in $289M Deal, Creating Japan’s Largest Crypto Exchange(KuCoin)(外部)
取引所の顧客基盤をステーブルコインやトークン化資産の流通網へ接続する狙いを強調した記事。
暗号資産取引所「bitbank.cc」に本人確認サービス「LIQUID eKYC」を導入(株式会社Liquid)(外部)
ビットバンクへの本人確認サービス導入リリース。代表者を「廣末 紀之」と明記し氏名確認に用いた。
【編集部後記】
暗号資産のニュースは「価格が上がった・下がった」に視線が集まりがちですが、今回のように静かに進む再編こそ、数年後の景色を決めることがあります。取引所が銀行級の足腰を得て、円建てステーブルコインやトークン化資産の決済へと裾野を広げていく——その入り口に私たちは立っているのかもしれません。
便利さと選択肢の多さは、ときに相反します。SBIが描く一気通貫の金融インフラを、心地よい未来として受け取るのか、立ち止まって眺めるのか。判断の材料を、これからもできるだけ偏りなくお届けしていきます。
