みずほ・野村ら4社、Canton NetworkでJGBデジタル担保管理の実証実験開始

みずほ・野村ら4社、Canton NetworkでJGBデジタル担保管理の実証実験開始

みずほフィナンシャルグループ、野村ホールディングス、日本証券クリアリング機構、Digital Asset Holdings, LLC(DA社)の4社は、2026年4月20日、機関投資家向け金融に特化したブロックチェーン「Canton Network」を活用した担保管理の高度化に関する実証実験を共同で開始すると発表した。

本実証は、社債、株式等の振替に関する法律(振替法)に基づき権利の移転が行われる日本国債(JGB)を対象とし、複数の口座管理機関を跨ぐ階層構造の下での権利の移転や振替口座簿の更新をブロックチェーン技術により遂行できるかを法的・実務的観点から検証する。

DA社がサポートするCanton Network上の基盤と既存システムを連携し、JGBの法的性質を維持したまま、24時間365日・リアルタイムでの担保取引の実現可能性を確認する。国内外のクロスボーダー取引も対象とする。本実証は、2026年2月に金融庁「決済高度化プロジェクト(PIP)」の支援決定を受けた実証実験の一部として実施される。

From: 文献リンク日本国債(JGB)を活用したデジタル担保管理の実証実験を開始

【編集部解説】

今回の発表で本質的に重要なのは、「ブロックチェーンで日本国債を動かす」こと自体ではなく、「現行法のもとで発行済みのJGBの法的性質を一切変更せずに、その権利移転をブロックチェーン基盤に乗せる」という、極めて実務的なアプローチが選択された点です。トークン化された別資産を新たに発行するのではなく、振替法に基づく既存の権利を、複数の口座管理機関が階層構造を成す日本特有の証券インフラの上で、デジタルに動かせるかを検証するという設計になっています。

舞台となるカントン・ネットワークは、機関投資家向けの利用を意識して設計された、プライバシー機能を備えるオープンなブロックチェーン基盤です。一般的なパブリックチェーンでは取引情報の可視性が広く共有される設計が多いのに対し、カントンは取引の内容を必要な当事者に限定して共有できるサブトランザクションレベルのプライバシー機能を備えています。また、Damlというスマートコントラクト言語により、複数当事者間の権利義務関係を記述できるよう設計されています。この特性こそ、守秘義務とコンプライアンスを最優先する銀行・清算機関がオンチェーンに踏み出すための前提条件であり、米国の証券決済インフラを担うDTCC(預託信託清算機構)が米国債のトークン化基盤として同ネットワークを採用した理由でもあります。

この国際的な動きとの符合は、偶然ではありません。DTCCは2025年12月にカントン・ネットワーク上で米国債をトークン化する方針を発表し、2026年上半期にコントロールされた本番環境でのMVP(最小実用製品)構築を目指しています。さらに遡れば、JSCC(日本証券クリアリング機構)は2024年10月の段階で、DTCCのデジタル資産サンドボックス「DTCC Digital Launchpad」上で担保管理のトークン化PoCを公表した先行事例の一つでした。今回の取り組みは、その流れの延長線上にあり、米国債と日本国債という二大ソブリン担保資産が、同じ技術基盤上で接続される未来を示唆していると読み取れます。

本実証は、2025年11月に金融庁が新設した「決済高度化プロジェクト(PIP)」の枠組みのもとで進められます。PIPは、ブロックチェーンを活用した決済・清算分野の実証実験を法令解釈や監督対応の面から支援する仕組みで、2026年2月に野村・大和・みずほ・三菱UFJ・三井住友の5社による伝統的資産取引のPoCが採択されました。今回のJGBデジタル担保実証は、その大きな枠組みの一部として位置づけられています。規制当局が「サンドボックスで見守る」段階から「能動的に支援する」段階へ移行したことを示す動きと言えるでしょう。

実用化が進めば何が変わるのか。最も大きいのは、担保のやり取りが営業時間や時差の壁から解放されることです。市場が大きく動いた局面で、追加証拠金の差入や担保の差替を24時間365日リアルタイムで完了できれば、清算機関と機関投資家のリスク管理能力は飛躍的に高まります。事務処理の自動化によるコスト削減効果もさることながら、本質的な価値はクロスボーダー取引における「決済タイミングの不整合」という構造的課題の解消にあります。海外投資家にとってJGBが、より使い勝手の良い適格担保資産(eligible collateral)となる可能性は高いと考えられます。

一方で、見落としてはならない論点もあります。カントン・ネットワークについては「真にパーミッションレスなブロックチェーンと呼べるか」という議論が暗号資産業界では続いており、スーパー・バリデーターと呼ばれる承認権者への権限集中や、トークンエコノミクスの設計に対する批判も存在します。機関投資家向けの厳格な秩序とトレードオフであることを理解した上で評価する必要があります。また、振替法等の現行法令との整合性をどこまで担保できるか、将来的に規程改正が必要となる範囲はどこまでか、といった法的・実務的な論点が今回の実証の中心テーマであることも、読み解く上で重要なポイントです。

長期的な視点で見れば、この取り組みは「現物資産であるJGBをデジタル世界に接続する」橋渡しの実験です。将来、ステーブルコインや他のトークン化資産との同時決済(アトミック・トランザクション)が可能になれば、これまで分断されていた金融市場のサイロが、ブロックチェーンという共通レイヤーで結合し始めます。本邦金融市場の国際競争力という文脈で語られていますが、より大きな視点で言えば、世界の金融インフラそのものが再編されていく過程の、日本側における最初の本格的な一歩と捉えるのが適切でしょう。

【用語解説】

振替法(社債、株式等の振替に関する法律)
有価証券のペーパーレス化を実現するための日本の法律である。日本国債や上場株式などの権利の発生・移転・消滅を、紙の券面ではなく口座簿への電子的な記録によって行うことを定めている。

適格担保資産(eligible collateral)
金融取引において、担保として差し入れることが認められる資産のことである。流動性が高く、信用リスクが低い資産が選定され、日本国債は国際的にも最高水準の適格担保資産として広く受け入れられている。

Daml(ダムル)
Digital Asset社が開発した、複数当事者間の権利義務関係を記述することに特化したスマートコントラクト言語である。金融取引のような契約ベースのワークフローを安全かつ自動的に実行することを目的に設計されている。

スーパー・バリデーター
カントン・ネットワークの中核インフラを運営する承認済みの参加者である。ネットワークの同期と検証を担う一方、その権限集中性については分散性の観点から議論の対象となっている。

MVP(Minimum Viable Product/最小実用製品)
製品やサービスの中核となる機能のみを備えた、市場検証可能な最小単位の実装を指す。本格展開の前に、限定された環境で実用性を検証する開発手法として用いられる。

アトミック・トランザクション
複数当事者・複数ステップにわたる取引を、すべてが同時に完了するか、すべてが取り消されるかのいずれかとして処理する仕組みである。決済の不履行リスクを構造的に排除できるため、ブロックチェーン上の機関投資家向け取引で重要視される。カントン・ネットワークの中核機能の一つでもある。

決済高度化プロジェクト(PIP:Payment Innovation Project)
金融庁が2025年11月7日に「FinTech実証実験ハブ」の中に新設した、決済分野に特化した支援組織である。ブロックチェーン技術を活用した実証実験について、法令解釈や監督上の論点整理を専門担当チームが支援する。

【参考リンク】

Canton Network 公式サイト(外部)
本実証で活用される機関投資家向けブロックチェーン基盤の公式サイト。技術仕様や参加機関などを掲載している。

Digital Asset Holdings 公式サイト(外部)
カントン・ネットワークおよびDamlを開発する米国企業の公式サイト。機関投資家向けブロックチェーン基盤を提供している。

日本証券クリアリング機構(JSCC)公式サイト(外部)
日本取引所グループ傘下の清算機関の公式サイト。本邦における中央清算機関として証券・デリバティブ決済を担う。

金融庁「決済高度化プロジェクト(PIP)の設置について」(外部)
PIPの設置目的と支援スキームを説明する金融庁の公式ページ。本実証の制度的背景を理解する一次情報である。

みずほフィナンシャルグループ 公式サイト(外部)
発表主体の一つである銀行持株会社の公式サイト。グループ全体の経営方針や開示情報を掲載している。

野村ホールディングス 公式サイト(外部)
発表主体の一つである証券持株会社の公式サイト。グループの経営方針やニュースリリースを掲載している。

DTCC(Depository Trust & Clearing Corporation)公式サイト(外部)
米国のポストトレード市場インフラを担う事業体の公式サイト。米国債のトークン化を推進している。

【参考記事】

Nomura, Mizuho, JSCC to trial tokenized collateral on Canton Network(外部)
本実証をDTCCの米国債トークン化やJSCCの過去の連携と関連付けて報じた記事。

DTCC and Digital Asset Partner to Tokenize DTC-Custodied U.S. Treasury Securities on the Canton Network(外部)
2025年12月17日付のDTCC公式リリース。2026年上半期のMVP構築計画を示している。

JSCC to Test Japanese Government Bonds as Digital Collateral on Canton Network(外部)
本実証を英語圏の専門メディアが報じた記事。PIP採択経緯や英国の事例も含まれている。

Three Major Japanese Financial Institutions Tap Canton to Bring Government Bonds On-Chain(外部)
営業時間や手作業の照合という現行インフラの制約からの脱却に焦点を当てた分析記事。

EARLY ACCESS: Is Canton Even a Real Blockchain?(外部)
カントン・ネットワークの規模を示す数値とともに、設計の中央集権性に対する批判的視点も提示している。

Japan Launches JGB Digital Collateral Pilot With Mizuho and Nomura on Canton Network(外部)
振替法および金融商品取引法のもとでの法的整合性検証に焦点を当てた記事。

ブロックチェーン×デジタルマネーによる伝統的資産の取引と権利移転に係る実証実験が金融庁「FinTech実証実験ハブ」の支援案件に採択(外部)
2026年2月13日付の野村HD発表。本件の母体となる5社共同実証の採択を伝える一次情報。

【編集部後記】

私たちが日々使っている銀行送金や証券取引の裏側では、まだ「営業時間」や「国境」という見えない壁が存在しています。今回の実証は、その壁を技術で溶かしていく試みの、ごく初期の一歩です。みなさんは、お金や資産が24時間365日、国を越えて瞬時に動く世界が当たり前になったとき、自分の働き方や暮らしがどう変わると感じるでしょうか。金融インフラの変化は、私たち一人ひとりの選択肢にも、いずれ静かに影響を及ぼしていくはずです。一緒に未来の輪郭を見つめていけたら嬉しく思います。

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