CLARITY法が頓挫すれば中国が金融の覇権を握る──ルミス上院議員が警告、JPMorganは反対

ワイオミング州選出のシンシア・ルミス上院議員は2026年5月31日までに、米国がデジタル資産市場明確化法(CLARITY)を成立させられなければ、暗号資産分野の主導権を中国を含む他国に奪われると述べた。ルミスは、包括的な規制枠組みの成立が他国に次の金融時代のルールを書かせないことを確実にするとXで主張した。

2026年5月、上院銀行委員会はCLARITY法案の前進を可決したが、成立には連邦議会両院の通過と大統領の署名が必要である。一方、JPMorganのCEOジェイミー・ダイモンは5月29日、現行案ではステーブルコインの利用に関連する報酬・リワード設計が抜け穴となり、実質的に預金利息に近い競争を生む恐れがあるとして、銀行側は反対すると述べた。ダイモンら銀行側は、暗号資産企業が銀行と同等のマネーロンダリング防止(AML)・健全性規制を負わないまま預金類似サービスを提供できるのは不公平だと主張している。ダイモンはCoinbaseとCEOブライアン・アームストロングの取り組みを批判した。2026年中に成立しなければ、次の機会は2030年まで訪れない可能性があるとルミスは警告した。

From: 文献リンクSenator Lummis says China will ‘write the rules’ of the new financial era if CLARITY fails

【編集部解説】

このニュースの本質は「暗号資産規制が地政学の道具になった」という点にあります。ルミス議員の発言は単なる規制論ではなく、ドル基軸体制の次を誰が設計するのか、という覇権の話です。今回はその構図を読み解いていきます。

まず前提を整理します。CLARITY法(デジタル資産市場明確化法)は、暗号資産が「証券」なのか「商品」なのかという長年の曖昧さを解消し、SEC(証券取引委員会)とCFTC(商品先物取引委員会)の管轄を明確に切り分けることを目的とした法案です。昨年成立しドルステーブルコインを規律したGENIUS法の、いわば「市場構造版」にあたります。

進捗の正確な数字を確認しておきましょう。下院は2025年7月に294対134で可決済み。上院銀行委員会は2026年5月14日に15対9の超党派で可決しました。元記事は「May」とのみ記していますが、複数の一次情報がこの日付と票数で一致しています。残るは上院本会議の通過、下院版との一本化(両院協議会での調整)、そして大統領署名という三つの関門です。

ルミス議員が「2030年まで機会が来ない」と警告する理由は、米国の議会カレンダー特有の事情にあります。2026年11月の中間選挙が近づくと、政治的争点になりやすい法案は審議が止まりがちです。選挙後は新たな議会の構成や政権の優先順位が変わるため、今の「下院通過済み・上院委員会通過・ホワイトハウスが暗号資産規制改革を優先課題として後押し」という珍しい追い風がそろった状態を逃すと、次に条件が整うのは数年先という読みです。なお、これは政治的な見通しであり、制度上確定した話ではない点は押さえておきましょう。

ここで「中国に負ける」というレトリックの中身を冷静に見る必要があります。実は中国本土は暗号資産に対して世界で最も厳格な規制国の一つです。2021年以降、暗号資産の取引・関連業務・海外取引所による中国居住者向けサービスを禁じてきました。さらに2026年2月には、無許可のオフショア人民元ペッグ・ステーブルコインの発行を禁止し、中国国内資産を裏付けとするトークンのオフショア発行を厳格な審査の対象としました。つまりルミス氏が言う「中国がルールを書く」とは、自由な暗号資産市場での競争ではなく、デジタル人民元(e-CNY)を軸とした国家管理型のデジタル金融秩序が世界標準になる、という意味で読むのが妥当でしょう(これは記事筆者による解釈であり、ルミス氏本人が明示した説明ではありません)。

この点は重要なので補足します。中国は分散型の暗号資産を排除する一方で、ブロックチェーン基盤と中央銀行デジタル通貨(CBDC)には国家を挙げて投資しています。e-CNYは2024年6月末時点で17の省級地域で試験導入され、取引総額は7兆元(約9860億ドル)に達したとされます。米国は「民間主導の暗号資産経済」で、中国は「国家管理型デジタル通貨」で、そもそも競う土俵そのものが異なる、という構図を押さえておくと理解が深まります。

法案が割れている核心は、ジェイミー・ダイモン氏の反対理由に集約されています。争点はステーブルコインの「利回り(イールド)・報酬」です。ダイモン氏ら銀行側は、現行案ではステーブルコインの利用に関連する報酬・リワード設計が抜け穴になり、実質的に預金利息に近い競争を生むと主張します。銀行は無数の規制(AML、銀行秘密法、資本要件、低・中所得地域を含む地域社会への信用供与を促すCRA評価など)を負っているのに、暗号資産企業が同等の規制なしに「銀行のような預金集め」をできるのは不公平だ、というのが銀行側の論理です。米国銀行協会(ABA)も同様に、銀行から暗号資産プラットフォームへ預金が流出することを懸念しています(なお法案自体はステーブルコイン発行者を銀行秘密法の対象に含めており、「規制が皆無」というわけではなく、銀行側は「銀行並みに十分ではない」と主張しています)。

注目すべきは、ダイモン氏が暗号資産そのものを否定していない点です。彼はブロックチェーンを支持し、ステーブルコインの越境送金などでの有用性を認めています。JPMorgan自身も、ブロックチェーンを使った決済・トークン化預金関連の取り組みを進めてきました。つまりこれは「新旧の対立」ではなく、「同じ土俵に立つなら同じルールを」という規制の公平性をめぐる争いです。読者の皆さんがこのニュースを評価する際、ここを取り違えないことが肝心です。

ポジティブな側面と潜在的リスクの両面を見ておきましょう。法整備が進めば、開発者は「コードを公開しただけで訴追される」不確実性から解放され、米国内でのイノベーションが促進されると業界側は見ています。一方、銀行側や一部議員が警告するように、消費者保護や金融安定の仕組みが整わないまま「銀行もどき」が広がれば、ダイモン氏の言う「いずれ破綻する」リスクも否定できません。規制の緩急のバランスが問われています。

長期的な視点では、この攻防は米国一国の話に留まりません。EUはすでにMiCAという包括的枠組みを稼働させ(主要規定は2024年12月30日から適用)、世界の規制が収斂しつつあります。どの国の枠組みが「事実上の国際標準」になるかは、相互承認や同等性評価を通じて各国の金融競争力に直結します。次の金融インフラの設計図を誰が描くのか——CLARITY法をめぐる数週間の攻防は、その分岐点に位置しているのです。

【用語解説】

CLARITY法(デジタル資産市場明確化法/Digital Asset Market Clarity Act)
暗号資産が証券か商品かという長年の曖昧さを解消し、SECとCFTCの管轄を明確に切り分ける米国の市場構造法案。下院通過後、上院で審議が続く。

市場構造法案(Market Structure Bill)
暗号資産の取引・発行・管理に関する規制の「土台」を定める法律の総称。誰がどの監督機関の下で何を行えるかという市場の骨格を規律する。

SEC(証券取引委員会)
米国で証券市場を監督する連邦機関。暗号資産のうち「証券」に該当するものの管轄を担う。

CFTC(商品先物取引委員会)
米国で商品・先物市場を監督する連邦機関。暗号資産のうち「商品」に該当するものの管轄を担う。

GENIUS法
昨年(2025年7月)成立した、ドル建てステーブルコインを規律する米国の法律。CLARITY法はその「市場構造版」と位置づけられる。

ステーブルコイン
法定通貨などに価値を連動させた暗号資産。価格変動を抑える設計で、送金や決済の手段として用いられる。

ステーブルコインの利回り(イールド)・報酬
ステーブルコインの保有や利用に関連して支払われる利息に近い報酬・リワード。銀行預金との競合を生むため、CLARITY法最大の争点となっている。

AML(マネーロンダリング防止/Anti-Money Laundering)
資金洗浄を防ぐために金融機関が遵守する一連の規制・手続き。

銀行秘密法(BSA/Bank Secrecy Act)
金融機関に取引記録の保持や疑わしい取引の報告を義務づける米国の法律。AML規制の根幹をなす。

資本準備金要件(Capital Reserve Requirements)
金融機関が損失に備えて一定の自己資本を保有することを義務づける規制。

CRA(地域再投資法/Community Reinvestment Act)
銀行に対し、低・中所得地域を含む地域社会の信用ニーズに応えることを促す米国の法律。融資や支店展開などが評価対象となる。

中間選挙(Midterm Elections)
米大統領の任期中間に行われる連邦議会選挙。2026年11月実施予定で、選挙前後は争点性のある法案の審議が停滞しやすい。

両院協議会(Conference Committee/resolving differences)
上院と下院でそれぞれ可決された法案の内容差を調整し、一本化するための手続き・委員会。大統領署名の前段階にあたる。

デジタル人民元(e-CNY)
中国人民銀行が発行する中央銀行デジタル通貨(CBDC)。2024年6月末時点で17の省級地域で試験導入。国家が直接管理する点で民間発行のステーブルコインと対照的。

CBDC(中央銀行デジタル通貨)
中央銀行が発行・管理するデジタル形式の法定通貨。e-CNYが代表例。

RWA(現実資産トークン化/Real-World Asset)
不動産や債券など現実世界の資産をブロックチェーン上のトークンとして表現する仕組み。

MiCA
EUが稼働させた暗号資産の包括的規制枠組み。主要規定は2024年12月30日から適用。資産の監督・ライセンス・消費者保護を域内で標準化する。

米国銀行協会(ABA/American Bankers Association)
米国の銀行業界を代表する業界団体。ステーブルコインの利回り問題で銀行側の立場から発言している。

【参考リンク】

JPMorgan Chase(外部)
米国最大級の金融機関。CEOのジェイミー・ダイモンがCLARITY法に反対姿勢を示している。

U.S. Congress(CLARITY法案/H.R.3633)(外部)
米連邦議会の公式サイト。CLARITY法案の正式な条文と審議経過を確認できる一次情報源。

Senator Cynthia Lummis 公式サイト(外部)
ワイオミング州選出のシンシア・ルミス上院議員の公式ページ。暗号資産政策に関する声明を発信している。

SEC(米国証券取引委員会)(外部)
暗号資産のうち証券に該当するものの管轄を担う米連邦機関の公式サイト。

CFTC(米国商品先物取引委員会)(外部)
暗号資産のうち商品に該当するものの管轄を担う米連邦機関の公式サイト。

American Bankers Association(外部)
米国の銀行業界を代表する団体の公式サイト。ステーブルコイン規制をめぐる業界の見解を公表している。

【参考記事】

H.R.3633 – Digital Asset Market Clarity Act of 2025(Congress.gov)(外部)
CLARITY法案の正式条文と審議経過。下院が2025年7月17日に294対134で可決と確認できる一次情報。

Chairman Scott, Senate Banking Committee Advance Clarity Act(上院銀行委員会)(外部)
上院銀行委員会が2026年5月14日に15対9でCLARITY法案を可決したと発表する公式リリース。

China’s digital yuan transactions hit 7 trln yuan(中国政府英語サイト)(外部)
e-CNYが2024年6月末時点で17の省級地域で試験導入、取引総額7兆元に達したとする中国政府の一次情報。

China steps up crypto crackdown, will vet real-world asset tokens(Reuters)(外部)
2026年2月、中国が無許可のオフショア人民元ステーブルコインを禁止し、RWAトークンを審査対象とした規制を報道。

‘The banks will not accept it’: Dimon escalates battle over stablecoin rewards(CoinDesk)(外部)
ダイモンCEOが5月29日に反対表明。ステーブルコインの報酬設計が中心的対立点だと報じた記事。

Jamie Dimon Vows JPMorganChase Will Fight Clarity Act(PYMNTS)(外部)
ダイモン氏の「公平性」主張と、越境送金でのステーブルコインの有用性を認める発言を詳述。

Senate Banking Committee Advances Crypto Market Structure Bill(Davis Wright Tremaine)(外部)
5月14日可決の代替テキストが不正金融・DeFi・トークン化基準などを包含することを整理した法律解説。

【編集部後記】

このニュースを追いながら、私たち自身も「次の金融インフラを誰が設計するのか」という問いの大きさに改めて立ち止まりました。米国の民間主導か、中国の国家管理型か——どちらが望ましいと感じるでしょうか。ステーブルコインの利回りという一見地味な論点が、銀行と暗号資産企業の境界を揺るがしている点も興味深いところです。

もし皆さんがこの分野に触れたい、関わりたいと思われたら、ぜひ一次情報の条文や各国の動きにも目を向けてみてください。一緒に未来の輪郭をたどっていけたら嬉しいです。

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