GoogleがGemini 3.6 Flash、3.5 Flash-Lite、3.5 Flash Cyberの3モデルを発表した。
主力の3.6 Flashは、Artificial Analysis Indexの発表時測定において3.5 Flashより出力トークンを17%削減し、DatacurveのDeepSWEでは、3.6 Flashのhigh設定と3.5 Flashのmedium設定の比較で平均出力トークンを約65%削減している。価格は入力100万トークンあたり1.50ドル、出力100万トークンあたり7.50ドル。DeepSWEは49%、MLE Benchは63.9%、OSWorld-Verifiedは83.0%を記録した。
3.5 Flash-Liteは発表時測定で毎秒約350出力トークンを記録し、価格は入力100万トークンあたり0.3ドル、出力100万トークンあたり2.5ドル。3.5 Flash CyberはCodeMender内で動作し、CyberGymで評価され、政府と信頼できるパートナーへ近日中に限定提供される予定である。3.6 Flashと3.5 Flash-Liteは同日提供を開始した。Gemini 3.5 Proはテスト中で、Gemini 4の事前学習も開始されている。
From:
Introducing Gemini 3.6 Flash, 3.5 Flash-Lite, and 3.5 Flash Cyber
【編集部解説】
Gemini 3.5 Proはテスト中で、Gemini 4の事前学習も開始された——という一文で締められるこの発表を、私たちinnovaTopiaは、あえて「最上位モデルではないほうのニュース」として受け止めたいと思います。
多くの読者が想像するAIの進化とは、「もっと賢い巨大モデル」の登場です。ところが今回Googleが前面に出したのは、Flashという“主力”と“軽量”の系譜でした。ここに、2026年のAI競争が入った新しい局面が見え隠れしています。
主役の3.6 Flashは、DeepSWEやMLE Bench、OSWorld-Verifiedなど複数の評価で性能を上げながら、Artificial Analysis Indexの発表時測定では出力トークンを17%減らしました。一見地味ですが、これは「同程度の評価結果を、より少ない出力トークンで達成する」という意味です。AIエージェントは、複雑なものになると、一つのタスクの中でモデルによる推論やツール呼び出しを何度も重ねて処理を進めます。その積み重ねがトークンとして加算されるため、出力トークンの削減は、従量課金のコストを直接抑え、生成時間の短縮にもつながり得ます。ただし実際の待ち時間は、出力速度やツール呼び出しの回数など、他の要因にも左右されます。
価格が入力100万トークンあたり1.50ドル、出力7.50ドルと明示されたことも見逃せません。報道によれば、この出力価格は前世代の9ドルからの値下げにあたります(入力価格は据え置き)。AIの発表では性能ばかりが語られがちですが、実際に業務へ組み込む段階では、「1タスクいくらか」は採否を左右する重要な判断材料の一つです。Googleが効率と価格を並べて語ったのは、読者の中にいる開発者や事業責任者に「これは実運用の道具だ」と伝えるためだと、編集部は解釈しています。なお、同時に発表された3.5 Flash-Liteは、前世代の3.1 Flash-Liteより単価が上がっている点は付記しておきます。値下げは、あくまで3.6 Flashの出力単価に関する話です。
もう一つ、私たちが注目したいのが3.5 Flash Cyberです。
このモデルは、脆弱性を「見つけて直す」ことに特化しています。記事はその背景を率直に述べています。Googleは、AIエージェントが防御側の修正速度を上回るペースで脆弱性を発見できる状況が生じつつある、と説明しています。攻撃にも防御にも使える技術だからこそ、Googleは当面これを一般公開せず、まず政府と信頼できるパートナーを対象とする限定パイロットとして、CodeMender経由で近日提供する、という判断を下しました。
ここは、賛否が分かれうる論点です。防御側に先手を渡すという説明には説得力があります。一方で、「誰が信頼できるパートナーか」を決める権限が、事実上プラットフォーマー側に集中するとも言えます。安全のための限定提供が、同時にゲートキーパーとしての力を強めるという構図は、今後のAIガバナンスを考えるうえで記憶しておきたい光景だと、編集部は見ています。
視点を引くと、今回の発表は「賢さ競争」から「効率と安全の運用競争」へと、AIの主戦場が移りつつあることを示唆しています。次期Proモデルの3.5 Proはパートナーとテスト中で、その先にはGemini 4の事前学習も始まっています。それでもGoogleがまずFlashを語ったこと自体が、今のAIがどの段階にあるかを物語っていると、私たちは受け止めています。
未来はしばしば、いちばん速くて、いちばん安くて、いちばん目立たないところで動き始めます。今回のFlashは、まさにその「静かな前進」の一つとして、触れておく価値のある発表です。
【用語解説】
トークン/出力トークン
AIが入力や出力を処理する際の単位。テキストでは単語やサブワード、文字・記号などに分割される。画像や音声もトークンに換算されるが、画像は解像度や分割単位、音声は長さなどに基づいて計算される。Gemini APIのような従量制APIでは、このトークン数に応じて課金される。
DeepSWE/MLE Bench/OSWorld-Verified/CyberGym
いずれもAIの性能を測るためのベンチマーク(試験)である。DeepSWEは実リポジトリを対象とした長時間のソフトウェアエンジニアリング課題、MLE Benchは機械学習エンジニアリング能力、OSWorld-Verifiedは実環境でのコンピュータ操作、CyberGymは実在の脆弱性を基にしたサイバーセキュリティ能力をそれぞれ評価する。
【参考リンク】
Artificial Analysis(Gemini 3.6 Flash 分析ページ)(外部)
AIモデルの速度・価格・性能を第三者の立場で比較評価するサイト。数値は随時更新されるため閲覧日に注意。
Datacurve「DeepSWE」(外部)
実リポジトリを対象とした長時間のソフトウェアエンジニアリングベンチマークDeepSWEの公式ページ。
Google DeepMind「Introducing Gemini 3.5 Flash Cyber」(外部)
3.5 Flash CyberとCodeMenderの連携、限定提供方針を開発元DeepMindが直接解説する記事。
Gemini API「Understand and count tokens」(外部)
テキストや画像、音声がどのようにトークンへ換算されるかを解説するGoogle公式の技術資料。
Google AI Studio(外部)
開発者が3.6 Flashなどのモデルをすぐに試せる、Geminiの開発者向けプラットフォーム。
Gemini(一般向けアプリ)(外部)
一般ユーザーが新モデルを利用できるGoogleのAIアシスタント。
【参考記事】
Google launches Gemini 3.6 Flash and 3.5 Flash-Lite, teases Gemini 4(9to5Google)(外部)
3.6 Flashの出力価格が従来の9ドルから7.50ドルへ値下げされた点を報道。編集部解説の値下げ幅の出典。
Gemini 3.6 Flash and Gemini 3.5 Flash-Lite: Halving Time per Task(Artificial Analysis)(外部)
第三者による発表時測定。タスク所要時間の短縮や出力トークン削減を独自に分析している。
Google releases Gemini 3.6 Flash and 3.5 Flash-Lite updates, intensifying AI price war(Crypto Briefing)(外部)
17%削減と約65%削減を挙げ、この発表を「AI価格競争の激化」と位置づけている。
Google releases three new Gemini models — but no 3.5 Pro(TechCrunch)(外部)
3.5 Proが未提供のまま3モデルが出された点に着目し、Cyberの限定提供まで整理している。
Google expands Gemini 3.5 line with trio of new models(Android Authority)(外部)
3.5 Flash-Liteが3 Flashをも上回るとのGoogleの主張、Gemini 4の事前学習開始を報じている。
Google Releases New Gemini 3.6 Flash, 3.5 Flash-Lite, and 3.5 Flash Cyber Models(Thurrott)(外部)
CBRN・サイバー悪用領域の安全策と、3.5 Flash Cyberの限定アクセスを軸に整理している。
【関連記事】
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トークンとツール呼び出しの削減という同じ論点を扱った記事。競合側の取り組みと対比できる。
【編集部後記】
Google AI Studioの画面で、モデル選択欄からgemini-3.6-flashを選び、出力トークンあたり7.50ドルという価格表示を確認できます。同じ画面でthinkingレベルを切り替えれば、3.5 Flash-Liteが同じ処理を何トークンで返すかも並べて試せます。数字を自分の手元のタスクで動かすと、17%という削減率が実際のコストをどれだけ動かすかが具体的に見えてきます。一方、3.5 Flash Cyberは同じStudioでは試せません。政府と信頼できるパートナーへのCodeMender限定提供という線引きで、その「信頼できるパートナー」の基準を決めるのは、一体誰なのでしょうか。

