ステーブルコイン規制、EUがMiCA改定に着手——米GENIUS法が変えた世界の勢力図

米国のGENIUS法成立を受け、欧州連合(EU)は暗号資産市場規則(MiCA)の見直し準備に着手した。

Euronewsが水曜日に報じたところによると、欧州委員会の当局者は、ステーブルコインを発行する非EU企業の扱いを中心に検討し、MiCAをトークン化された決済や預金にまで拡大することも視野に入れる。7月1日以降、EU域内で事業を行う暗号資産企業は、加盟国当局から暗号資産サービスプロバイダー(CASP)の認可取得が義務づけられた。欧州委員会は「MiCA 2.0」と呼ばれる意見募集を実施しており、原記事時点では締切を8月31日としていたが、その後9月30日まで延長された。欧州証券市場監督局(ESMA)は、認可企業のカストディ関連リスクの審査を2026年下半期から2027年前半にかけて実施する。米国では下院を通過したDigital Asset Market Clarity Actが、7月に上院採決へ進むとの見通しが報じられている。

From: EU targets MiCA overhaul as US GENIUS Act reshapes stablecoin rules

【編集部解説】

暗号資産の世界では、これまで技術(プロトコル)が主役であり、規制は後追いの「制約」として語られてきました。しかし2026年のいま、その力関係は逆転しつつあります。米国のGENIUS法という一つの立法が、大西洋を越えてEUの制度設計を動かしている——今回のニュースは、規制そのものが技術の進む方向を決める「設計図」になった瞬間を捉えています。ステーブルコインやトークン化に関心を持つ読者にとって、ルールの地殻変動を読むことは、次に何が可能になるかを読むことと同義です。

まず前提を整理します。GENIUS法は2025年7月18日にトランプ大統領が署名して成立した、ステーブルコインに関する米国初の連邦規制の枠組みです。発行体に1対1の準備資産を義務づけ、その裏付けは米ドルや短期米国債などで保有することを求めています。つまり「ドル建てステーブルコインを、国家が公式に金融インフラとして位置づけた」という宣言でした。

対するEUのMiCAは、包括的な暗号資産規制を域内で統一的に敷いた先駆的な枠組みでした。しかし記事が伝えるとおり、全面適用(2024年12月)からおよそ1年半で、早くも見直し(通称「MiCA 2.0」)が動き出しています。

ここが今回の核心です。EUが見直しを迫られている最大の理由は、MiCAが「現物(スポット)の暗号資産」を主に想定して設計されており、ステーブルコインやトークン化された金融商品の急拡大に制度が追いついていない点にあります。CoinDeskの取材でも、機関投資家や卸売金融におけるステーブルコインとトークン化の普及を踏まえると、MiCAの分類はもはや狭すぎると指摘されています。

とりわけ論点になるのが「非EU発行体」の扱いです。米国のドル建てステーブルコイン(USDCなど)がEU市場で使われる際、規制水準や要件の違いを足がかりに、EUの厳しい規制を回避する「規制のアービトラージ(裁定)」が起きかねません。より緩い法域を通じてMiCAの厳格な要件が骨抜きにされること——これをEUは看過しないとみられ、今回の動きは米国への「対抗」という側面を色濃く持っています。

技術的な背景も押さえておきましょう。記事に登場する「トークン化された決済」「トークン化された預金」とは、法定通貨や銀行預金をブロックチェーン上で扱えるようにしたものです。これが実現すると、国際送金が銀行の営業日に縛られず、条件次第でほぼ即時・低コストに近づきます。ステーブルコインが「決済の新しいレール」になりうるからこそ、各国の中央銀行と規制当局が神経を尖らせているのです。

一方で、EUの厳格さには副作用も見え始めています。報道によれば、移行期間が終了した2026年7月1日前後にESMA登録情報を基に確認されたMiCA認可済みの暗号資産サービスプロバイダーは244社でした。フランスのメディアCointribuneは、以前登録されていた3,389社という母数と対比し、認可を得られた事業者が限られる実態を報じています。期限に間に合わなかったBinanceはギリシャでのMiCAライセンス申請を取り下げ、欧州でのサービス提供に制約が生じています。なお、法律事務所の実務家資料では「約170社のCASPが18加盟国で認可」という別の集計もあり、これは集計時点や、認可済みのみを数えるか通知済みを含むかといった母数の定義が異なるためです。いずれにせよ、投資家保護と競争力のどちらを優先するか——EUはこのジレンマの只中にいます。

米国側の連動要因として記事は「Digital Asset Market Clarity Act(CLARITY法)」に触れ、7月に上院採決へ進む見通しだと伝えています。ただし、ここは慎重な補足が必要です。同法案は下院を2025年7月17日に294対134で通過しましたが、上院での成立には至っていません。複数の報道では、2026年6月1日に上院本会議での採決資格を得た一方、7月4日の署名目標を逃し、討論終結(クローチャー)の動議も提出されていないと伝えられています。「7月に採決へ」はあくまで報道ベースの見通しであり、公式の議事日程として確定したものではない——この点は読者と共有しておきたい事実です。

最後に長期の視点です。今回の動きは、暗号資産が「投機の対象」から「金融システムの基盤インフラ」へと軸足を移しつつあることの表れです。米国は成長を優先し、EUは保護を優先する——単純化を承知で対比すれば、この規制思想の違いは、今後どちらのルールが事実上の「世界標準」になるかという主導権争いへと発展していきます。ドル建てステーブルコインが世界の決済を握るのか、それともEUや各国が独自の秩序を築くのか。私たちがいま目にしているのは、次の10年の通貨と決済の勢力図が描かれ始める、その序章なのかもしれません。

【用語解説】

MiCA(暗号資産市場規則)
EUが域内で統一的に整備した、暗号資産に関する包括的な規制の枠組みである。発行、取引、カストディ(保管)など、暗号資産関連の事業を加盟国共通のルールで扱うことを目的とする。もともと現物(スポット)の暗号資産を主に想定して設計された。

GENIUS法
2025年7月18日に成立した、ステーブルコインに関する米国初の連邦規制法である。発行体に対し、米ドルや短期米国債などの安全資産で1対1の準備を保有することなどを義務づけている。

ステーブルコイン
法定通貨などの安全資産に価値を連動(ペッグ)させた暗号資産である。価格変動を抑える設計により、送金や決済の手段として使われる。ドル建てのUSDCやUSDTが代表例である。

CASP(暗号資産サービスプロバイダー)
MiCAのもとで、EU域内の顧客に暗号資産サービスを提供する事業者に義務づけられた認可区分である。加盟国いずれかの規制当局から認可を得れば、域内全体でサービスを提供できる。

MiCA 2.0
業界関係者が用いる、MiCAの見直し・拡張パッケージの通称である。正式名称ではない。非EU発行体、トークン化された決済・預金、DeFiなどを新たに規制対象に含める案が検討されている。

トークン化された決済/預金
法定通貨や銀行預金を、ブロックチェーン上で移転・保有できるようにしたものを指す。国際送金などを、銀行の営業日に縛られず、条件次第でほぼ即時・低コストに近づける可能性を持つ。

カストディ(保管)
顧客の暗号資産を事業者が預かり、安全に保全する業務を指す。秘密鍵の管理や資産の分別管理など、運用上のリスク管理が問われる領域である。

Digital Asset Market Clarity Act(CLARITY法)
デジタル資産の市場構造(どの当局が何を監督するか等)を定めることを目的とした米国の法案である。SECとCFTCの管轄範囲の線引きなどを扱う。2025年7月に下院を通過したが、成立には至っていない。

規制のアービトラージ(裁定)
国や地域で規制の厳しさに差があるとき、より緩い法域を経由して厳しい規制を回避する動きを指す。非EU発行体のステーブルコインをめぐる懸念の中心にある概念である。

【参考リンク】

European Commission MiCA見直しコンサルテーション(公式)(外部)
欧州委員会によるMiCA見直しの公式ページ。回答締切が2026年9月30日に延長されたことを一次情報で確認できる。

European Commission 暗号資産規制トップ(外部)
欧州委員会の金融政策ページ。MiCAをはじめとする暗号資産規制の公式情報や政策動向を確認できる。

ESMA カストディ共通監督活動(公式発表)(外部)
ESMAが2026年7月8日に公表した、CASPのカストディ業務を対象とする共通監督活動の公式発表。実施期間を確認できる。

The White House GENIUS法ファクトシート(外部)
ホワイトハウス公式による署名時のファクトシート。準備要件や消費者保護など同法の骨子を一次情報で確認できる。

Congress.gov H.R.3633(CLARITY Act)(外部)
米国連邦議会の公式データベース。CLARITY法の条文、審議経過、採決記録を一次情報で追える。

Circle(USDC発行体)(外部)
ドル建てステーブルコインUSDCを発行する米国企業の公式サイト。非EU発行体議論の当事者の一社である。

Euronews(外部)
今回の報道の一次的な情報源とされる欧州のニュースメディア。EUの政策動向を多言語で配信している。

【参考記事】

Targeted consultation on the review of MiCA(European Commission)(外部)
欧州委員会公式のコンサルテーション案内。第140条・第142条に基づく評価で、締切が9月30日に延長された点を一次情報で確認できる。

Commission extends deadline for responding to its MiCA review consultation(Norton Rose Fulbright)(外部)
締切が当初の8月31日から9月30日へ延長されたことを、6月29日の欧州委員会告知に基づき伝える記事。

Three years after MiCA became law, Europe’s crypto framework is undergoing a rethink(CoinDesk)(外部)
MiCAがスポット向け設計で普及に追いつかない構造問題を、専門家見解を交え掘り下げた記事。準備要件の見直し案も提示する。

MiCA transitional period expires in the EU(ForkLog)(外部)
移行期間終了時点で認可244社という数字や、Binanceがギリシャで申請を取り下げた経緯、締切の8月31日と9月30日の齟齬を整理した記事。

CLARITY Act Countdown: Crypto Bill Misses July 4 Target(CCN)(外部)
CLARITY法が7月4日目標を逃し、クローチャー動議も未提出である状況と審議経過を詳述している。

Fit for Purpose? European Commission Launches Review of MiCA(Skadden)(外部)
第三国発行体の同等性枠組みの欠如やDeFi・トークン化預金の空白など、見直しの背景を整理した記事。

【編集部後記】

ステーブルコインをめぐる米国とEUの綱引きは、遠い金融の話に見えて、実は「お金がどう動くか」という私たちの日常の未来図でもあります。もし国際送金が銀行の営業日に縛られず、ほぼ即時に完結する世界が来たら、あなたの暮らしや仕事はどう変わるでしょうか。成長を優先する米国型と、保護を重んじるEU型、あなたはどちらのルールに未来を託したいと感じますか。私たち自身もまだ答えを探している最中です。よければ、この地殻変動をこれから一緒に追いかけていけたら嬉しいです。

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