株式会社ネットスターズは2026年7月13日、マルチキャッシュレス決済ソリューション「StarPay」の新サービスとして、店舗向けステーブルコイン決済「Stablecoin Pay」の提供と申込受付を開始した。
店舗向けに複数のステーブルコイン決済を一度の申請で導入・運用できるサービスとして日本初としている(同社調べ)。手数料は0.98%(非課税)。対応ステーブルコインはUSDC、USDT、JPYCの3種類、対応ブロックチェーンはSolanaとPolygon、対応ウォレットはMetaMaskで、2026年夏以降にAptos、Bitget Wallet、imTokenへ対応予定である。決済方式はCPM(QRコード顧客提示型)を採用し、MPM(店舗提示型)方式も今後対応する。
加盟店は普段使用する端末をそのまま用い、金額表示、売上管理、精算を日本円ベースで行える。同社は羽田空港で1月から2月に、4月からは兵庫県姫路市のトレーディングカード専門店で、USDCによる実証を実施してきた。本サービスはWeb2とWeb3をつなぐゲートウェイ構想「StarPay-X」に基づき、年間2.1兆円の決済取扱高と70万拠点の決済アクセスポイントを支える決済基盤を活用する。
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日本初※、ステーブルコイン決済に対応する「Stablecoin Pay」本格始動
【編集部解説】
ネットスターズが「Stablecoin Pay」を7月13日に始動させた同じ日、日本経済新聞はローソンが円建てステーブルコイン「JPYC」による店頭決済の実証に乗り出すと報じました。同じ7月13日、HashPort・KDDI・ローソンの3社も実証に向けた発表を行っています。3社は7月10日に基本合意書を締結しており、その公表が13日でした。ただし3社の発表で示されている通貨名は「日本円ステーブルコイン」だけで、JPYCという特定は日経の報道によるものです。2026年8月に予定される実証も、対象は3社の一部社員に限られます。一般の買い物客がレジでJPYCを使える、という段階ではありません。それでも、この時期に実装のニュースが重なったことには背景があります。
金融庁は2026年5月19日に「電子決済手段等取引業者に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」を公布し、6月1日に施行しました。日本の制度と同等性が確保された外国法令に基づく信託受益権を電子決済手段として位置づけ、金融商品取引法上の有価証券からは除外する、という内容です。海外発行のステーブルコインが一括で解禁されたわけではありません。あくまで外国信託型に限った制度の拡充です。ただ、外国発行のコインを日本の枠組みに取り込む道筋が府令のレベルで一段はっきりしたことは確かで、その1か月半後に一連の発表が続いた——という順序は、見通しのよいものです。直接の因果を示す資料があるわけではありませんが、時間軸は押さえておく価値があります。
「日本初」という表記は、条件つきである点に注意が必要です。ネットスターズ自身が注記しているとおり、これは「店舗向けに複数のステーブルコイン決済を一度の申請で導入・運用できるサービスとして」の日本初であり、同社調べです。
単一コイン対応の店舗決済であれば、すでに複数の先行例があります。Sowaka Japanの「MisePay」は、JPYC対応のQR決済を加盟店手数料0%・導入費用0円で提供し、2026年7月から東京・名古屋の計3店舗でトライアルを始めています(外部サービスやネットワーク手数料が別途生じる場合はあります)。お好み焼「千房」では2026年4月7日から、千日前本店と有楽町ビックカメラ支店で、HashPort Wallet for Bizを使ったJPYC決済の実証が動いています。SBI VCトレードとアプラスは、大阪の2店舗でUSDC決済を実証しました。ネットスターズの「日本初」は、これらと並ぶものではなく、「複数のコインを一度の申請でまとめて扱える」という一点に絞られた主張です。手数料の名目だけを見れば、0.98%は最安ではありません。
では何が違うのか。規模と、既存の決済端末・店舗オペレーションへの接続です。ネットスターズはリリースのなかで、年間2.1兆円の決済取扱高と70万拠点の決済アクセスポイントを支える基盤を活用すると述べています。ただし、これは「70万拠点で今日から使える」という意味ではありません。あくまで土台の規模であり、実際に導入する店舗数は申込次第です。「利用環境により開発が必要な場合があります」という但し書きも付いています。この点は冷静に読み取る必要があります。
技術的に注目したいのは、むしろ地味な部分です。ネットスターズは2026年1月26日から2月28日にかけて、羽田空港第3ターミナル内の2店舗でUSDC決済の実証を行いました。公式に掲げられたねらいは、訪日旅行客の利便性向上でした。当時は基盤がSolana、ウォレットがMetaMaskに限定されており、李剛CEOは利便性の面で課題が残ったという趣旨の説明をしています(BeInCrypto Japanの報道による)。Stablecoin Payが「一度の申込で今後のコイン・ウォレット・チェーン拡充に追加申請なく対応する」設計を採り、CPM方式で既存のQRコード決済に近い動線に乗せたのは、その知見を踏まえたものと読めます。
決済の歴史を振り返ると、新しい価値の運び方そのものよりも、「店頭の手順を変えずに済むか」が普及の分かれ目になってきました。日本でQRコード決済が短期間に広がった要因は手数料や入金条件など複数ありますが、専用端末を必要としなかったことは主要因の一つです。ステーブルコインが同じ道を辿るなら、勝負どころはブロックチェーンの性能ではなく、店員の手元のオペレーションになると考えられます。
手数料0.98%(非課税)という水準も、この文脈で意味を持ちます。PayPayの決済システム利用料は税別1.60%または1.98%で、1.60%には有料の「PayPayマイストア ライトプラン」への加入といった条件が付きます。楽天ペイ(実店舗決済)は決済手段と契約プランによって料率が異なり、QR決済は税抜2.00%から、主要クレジットカードは非課税2.20%からとなっています。仮にステーブルコイン決済がボリュームを持つようになれば、店舗にとっては実質的なコスト削減手段になり得ます。
ただし現時点で、JPYC EXの累計発行額は30億円規模(2026年5月30日時点)です。これはこれまでに発行した額の累計であり、償還分を差し引いた現在の流通残高ではありません。指標も期間も異なるため厳密な比較にはなりませんが、ローソングループ連結のチェーン全店売上高3兆223億円(2026年2月期)と並べると、桁の隔たりが見えます。手数料差が経営に効いてくるのは、もっと先の話になります。
一方で、「誰が払うのか」という問いには、リリースには書かれていない答えが透けて見えます。金融庁の電子決済手段等取引業者登録一覧(2026年6月24日現在)に、USDTを取り扱う業者は載っていません。同一覧に記載があるのはSBI VCトレード1社で、取扱対象はUSDC、RLUSD、JPYSCです。国内の登録業者を通じた流通の入り口は、現時点でその1社に絞られています。
にもかかわらず、ドル建てのUSDC・USDTを最初から並べ、最初の実証地が羽田空港だったという点を鑑みるに、国内の生活者よりもまず訪日客の自己管理ウォレットを想定した設計であるというのが編集部の解釈です。ドルのまま持ち込まれた価値を、店舗には円で着地させる。円建てのJPYC対応は、その裏返しとして国内側のエンジンにあたります。
明示されていない論点も残ります。加盟店が「為替レートを意識せずに済む」ということは、為替変動リスクが消えるのではなく、誰かが引き受けるということです。参考になる先行例があります。SBI VCトレードとアプラスは2026年5月25日から29日にかけて、大阪市内の「名代 宇奈とと」本町店と「ビックカメラ」なんば店の一部区画でUSDC決済の実証を行いましたが、そこでは「利用者がプライベートウォレットで支払う→SBI VCトレードがUSDCを日本円に交換してアプラスへ送金する→アプラスが店舗へ入金する」という3段階のスキームが公表されています。誰が円転を担うのかが、はっきり書かれているのです。Stablecoin Payについては、今回確認した公開資料にその記載がありません。
MetaMaskのような自己管理ウォレットからの着金をどうAML/CFTの枠組みに載せるかも、店舗側からは見えにくい領域です。FATFは、仲介業者を介さないウォレットとの取引に固有のリスクがあると指摘しています。Stablecoin Payが未対応だという証拠はありませんが、審査や監視の方式は、今回確認した公開資料には記載されていません。
そして利用者側には税務の問題があります。ドル建てステーブルコインで支払った場合、取得時と使用時の円換算額の差が所得として扱われる可能性があります。ただし、電子決済手段に該当するステーブルコインの個人課税について、取引類型を網羅した国税庁の整理は確認できません。個別の判断が必要な領域です。一方、JPYCは日本円と1対1で発行・償還できる設計のため、通常は差額が生じにくい。この非対称が、ドル建てコインが国内の日常決済に広がりにくい実務的な理由の一つになっていると考えられます。
ネットスターズは、Web2とWeb3が一夜で入れ替わることはなく当面は共存するという前提から、「Web2.5」という言葉と「StarPay-X」構想を掲げています。2026年に入ってからAptos、Bitget Wallet、AllScale、Startale Group、Canton Foundationと立て続けに基本合意を結び、Circleのクロスチェーン基盤「Gateway」を活用した開発にも着手してきたのも、この構想の下ごしらえでした。Stablecoin Payは、その配管がようやく地表に顔を出した瞬間だと言えます。
派手な体験は、まだ何も始まっていません。けれども決済という領域では、体験より配管が先に敷かれます。私たちが今このニュースを取り上げるのは、その配管が敷かれる音を、リアルタイムで聞ける場所にいるからです。
【用語解説】
ステーブルコイン
法定通貨などに価値を連動させ、値動きを抑えるよう設計されたデジタル通貨である。USDC・USDTは米ドルに、JPYCは日本円に連動する設計だが、価格が常に完全固定されるという意味ではない。
CPM方式/MPM方式
CPM(顧客提示型)は、利用者が画面に表示したコードを店舗側が読み取る方式である。MPM(店舗提示型)は逆に、店舗が掲示したコードを利用者が読み取る方式を指す。Stablecoin PayはCPMから開始し、SBI VCトレードとアプラスの実証はMPM型を採用した。
ノンカストディアルウォレット(自己管理ウォレット)
秘密鍵を利用者自身が保管し、事業者が資産を預からない形式のウォレット。MetaMaskは自らをself-custodial walletと説明している。ブロックチェーン上のアドレスは公開されるが、実世界の本人との対応関係は把握しにくい。
StarPay-X/Web2.5
ネットスターズが掲げるゲートウェイ構想と、その前提となる考え方。既存の決済インフラ(Web2)とブロックチェーン(Web3)が一夜で入れ替わることはなく当面は共存するという認識のもと、両者を橋渡しする層を「Web2.5」と呼んでいる。2026年4月8日に発表された。
GENIUS法
2025年7月18日に米国で成立した連邦法(Public Law 119-27)。決済用ステーブルコインに関する包括的な規制の枠組みを定める。
AML/CFT
マネー・ローンダリング対策およびテロ資金供与対策の総称。FATFは、仲介業者を介さないウォレットとの取引に固有のリスクがあると指摘しており、実店舗決済における実務上の論点となる。
【参考リンク】
NETSTARS(株式会社ネットスターズ)(外部)
マルチキャッシュレス決済「StarPay」を中核に、QRコード決済ゲートウェイと店舗DXを展開する決済企業の公式サイト。
NETSTARS ニュースリリース一覧(外部)
StarPay-X構想からStablecoin Payまで、2026年の一連の発表を日付順に確認できるリリース一覧ページ。
1月26日より、羽田空港第3ターミナル内店舗でステーブルコイン(USDC)による決済が可能に(外部)
羽田実証の一次情報。訪日旅行客の利便性向上をねらいに掲げ、第3ターミナル内2店舗で実施された。
金融庁「電子決済手段等取引業者に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」等の公布(外部)
外国信託受益権を電子決済手段として位置づける内閣府令改正の一次資料。2026年6月1日施行。
金融庁「電子決済手段等取引業者登録一覧」(外部)
金融庁に登録された電子決済手段等取引業者と、各業者が取り扱う電子決済手段を確認できる一次資料。
JPYC株式会社(外部)
資金移動業型の日本円ステーブルコイン「JPYC」の発行元。発行・償還基盤「JPYC EX」を運営する。
【参考記事】
店舗向けステーブルコイン決済「Stablecoin Pay」本格始動(Impress Watch)(外部)
手数料0.98%、対応コイン3種、対応チェーン2種という仕様と、実証を経て本格提供に至った経緯を整理している。
ネットスターズ、店舗向けステーブルコイン決済「Stablecoin Pay」提供開始(あたらしい経済)(外部)
0.98%が非課税である点、「日本初」が同社調べであること、追加申請なく対応が拡充される設計を明記する。
ネットスターズ、USDC実店舗決済をマルチチェーンへ拡張する新構想=StarPay-X(BeInCrypto Japan)(外部)
羽田実証がSolana・MetaMask限定で利便性の課題を残したとする李剛CEOの説明を伝える。本文の発言はこの報道による。
「JPYC EX」の累計口座開設数が19,000件、累計発行額が30億円を突破(JPYC株式会社)(外部)
2026年5月30日時点の累計発行額30億円の一次情報。現在の流通残高ではない点に留意したい。
JPYC対応の店舗向けQR決済「MisePay」、店頭決済のトライアルを開始(Sowaka Japan)(外部)
加盟店手数料0%・導入費用0円・専用端末不要という条件を明記した一次発表。0.98%を相対化する材料になる。
Japan tests stablecoin payments at Lawson; Netstars launches merchant service(GNcrypto)(外部)
ローソンの実証とネットスターズの商用開始を同一の潮流として扱った英語記事。円建て精算の設計を強調する。
【StarPay Business Conference 2026・後編】”新しい決済”の実装を担うキーマンが集結(NETSTARS)(外部)
GENIUS法への言及と、Web2とWeb3の共存を前提とする「Web2.5」の考え方を同社自身の言葉で説明する。
【関連記事】
HashPort Wallet×JPYC、ローソンのレジへ─KDDI・ローソンと8月に店頭決済実証
同じ7月13日に公表されたローソンの実証。決済がPOSの中に入るという、もう一つの接続方式を詳報している。
MisePay×JPYC|円ステーブルコインが「街の店」で使える日へ 渋谷・名古屋で店頭決済トライアル
加盟店手数料0%を掲げるJPYC対応QR決済。本記事の0.98%という値付けを相対化する、直接の比較対象となる。
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少額・高頻度・無人という接点にステーブルコインが降りた事例。実店舗決済の広がりを測る前提として押さえたい。
トークンかステーブルコインか。それともPayPayか? 6月1日『新仲介業』がひらく、日本のデジタル金融インフラ
本記事が背景に据えた2026年6月の制度改正を、新仲介業の側から読み解いた論説。制度の地ならしを理解できる。
【編集部後記】
ネットスターズのニュースリリース一覧を日付順に辿ってみると、4月8日のStarPay-X発表、4月13日のCircle「Gateway」活用(これだけは基本合意ではなく開発着手の発表です)、5月8日のAptos、6月4日のBitget Wallet、6月8日のAllScale、6月15日のStartale Group、7月7日のCanton Foundation、そして7月13日のStablecoin Payが一列に並びます。3か月で配管が組み上がっていく順序が、リリースの日付だけで読み取れます。
分からないのは値付けです。SBI VCトレードとアプラスは、誰が円転を担うかを3段階で公表しました。Stablecoin Payの0.98%には、その円転コストが含まれているのか。今後の発表も継続して追っていきたいと思います。
